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仮想卓

がたん、ごとん。
山国広樹は、田舎へと帰る電車の中でぼんやりと窓の外を眺めていた。
真夏の日差しは眩しかったが、都会の景色の中で見る物より余程いい。
ビル群はもう随分と遠くに行ってしまい、今はただ、遮蔽物の無い平たい地面で有ったり緑豊かな山々が流れて行くばかりだ。
窓が開けられたなら風のひとつも感じようが、流石にエアコンの快適さには勝てなかった。
涼しい車内に視線を戻すと、そのまま、自身の膝に視線を落とす。
握りしめたままだった白い封筒が目に入る。
封は開いていて、山国は既に中身にも目を通している。
だが改めてまた、手紙を取り出して読んでみる事にした。

「今年は約束の年だ。覚えてるか?あの場所は今はこんな風になっている。帰ってこれるなら、いつもみたいに遊ぼう」

随分と達筆な字だ。
差出人は、三月宗近。彼が田舎に帰る度に遊んでいた、少しだけ年上の人物だった。
幼い頃、両親に連れられて兄弟三人で田舎に帰るのは良かったが、祖父にも祖母にも
人見知りを発揮して独りで遊んでいた山国に声を掛けたのがきっかけで友人になった。
それからずっとやり取りを重ね、帰る度に顔を見せるようになった。幼馴染と言っても良い友人である。


しかし、何度手紙を見ても山国は思い出せないでいた。

「約束って……なんだったかな」

三月が言うのだから、取り敢えず何か約束しているのは間違いない。
他の兄弟はみな仕事が忙しく休みが取れなかったが、自分はまだ学生の身。
なんとか捻出した休みで、本日帰る事は連絡済みである。

「……どうしても思い出せないしな。素直にチカに謝って教えて貰おう」

手紙を仕舞い込もうとした時、同封されていた写真がひらりと落ちて行く。
青々とした緑が眩しい中に大木が立っている、そんな写真だ。
拾いあげてまじまじと見やるが、知っている場所だなぁぐらいの印象しかない。

「あの場所は今こんな風に、か……これがヒントなんだろうけどな」

言い終わるか終わらないかと言ったタイミングで、急な眠気に襲われる。
うとうととし始めた山国は、ちらりと窓の外を見た。

「……まだ着かないだろうし、少し、眠るか」

そう、目を閉じた。


今年も一緒に会う約束をしていた幼馴染と、毎度恒例になった夏祭りに参加し、楽しく過ごす。
童心に帰ったように屋台を網羅し遊び倒すのは、幼馴染と共に居るから尚の事楽しかっただろう。

――――それはそれは、楽しい夢だった筈なのに。

打ち付ける雨の音が、誰かの叫び声が、聞こえた。
ぼんやりと目を開けた時、見えた影は誰だろう?

――――さっきまで、楽しい夢だったのに。

けれどこの夢は、痛みを伴う明確な「死」を連想する衝撃によって打ち消される。


「ああ……痛い、……いたい」


「次は終点です、お降りの方は~……」

はっと目覚めると、もうすぐ地元の駅である。
握りしめたままの写真と手紙を慌ててポケットに突っ込み、荷物を纏めて準備をした。









これは、あんたと過ごしたある夏の日の物語。

―――― ああ、そうだな。いつもと同じ。楽しい夏だった。

楽しく遊んで、また来年。

―――― ああ、そうだな。楽しく遊んだ。またいつか。

此処では一先ず、別れの言葉を。

―――― ああ。有難う、さようなら。




・あとがき・
続……く、かも知れない。予定は未定。
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