ルームシェアのすゝめ

冬の始まり

「マフラーはどうした?」
「忘れた」
 巻くのがめんどい、と言って欠伸をするロロノアの晒された耳と首は寒そうで、風邪でも引いたらどうするのかと呆れれば「引かねぇから大丈夫」などと謎の自信を顕にする。経験に基づく自信だろうか。それでも絶対に引かない、ということはないだろう。
 寮から高校までは徒歩で十分かかり、寒い日の十分はそれなりに体温が下がる。前を歩くユースタスとキラーはきちんと、首元を暖かくしていた。自分が巻いてやってもいいのだが、そこまで甲斐甲斐しく世話を焼いて果たして、鬱陶しいと思われないだろうか。
 かつては金の飾りが揺れていた耳をじっと見つめていれば、視線がうるさかったのかロロノアがこちらを見上げてきた。もう半年以上、生活を共にしているのだから、今更気にすることではないのかもしれない。どうしてか、世話を焼きたくなる。
「どうした?」
「……いや、なんでもない」
 贔屓だとまた、二人にどやされるかもしれないが、まあ、いいか。



「ロロノア、おいで」
 寮を出る前に手招きすると、ロロノアは大人しく寄ってくる。その首は昨日同様寒そうで、買って良かったと安堵した。気に入ってもらえるかはわからないが、巻くのが面倒ならこれだろう。手にしたそれをロロノアの頭に被せるように下ろし切れば、暖かな布に埋もれたロロノアが首元に触れ、表情を緩める。
「あったけぇ」
「これなら楽だろ?」
「おー、借りるわ」
「いや、やる」
「良いのか?」
「風邪を引かれたら困るからな」
「んじゃあ遠慮なく。ありがとよ」
 触り心地がいいのを選んで良かった。手で頬で肌触りを堪能する姿は普段より幼く見え、庇護欲が掻き立てられる。こういう反応をするから、お節介したくなるのかもしれない。
「まーたロロノア甘やかしてんのか」
「贔屓だ贔屓」
 呆れるユースタスと揶揄を飛ばすキラーに、やっぱりきたかと思いながら用意していた言葉を返す。
「誕生日プレゼントだ」
「は?聞いてねぇぞいつだよ」
 片眉を上げるユースタスからロロノアへ視線を移し、念の為確認する。
「十一月十一日、だろ?」
「おう、よく知ってんな」
「そういえばおれ達そういう話題一個もしてないな。ドレークはなんで知ってるんだ?」
「四月に書いた書類、まとめて提出したのおれだったろ?その時に見た。ユースタスは一月で、キラーが二月だよな」
「そういうことか」
「ドレークは何月なんだ?」
 納得するキラーに、ロロノアが続けて問うてくる。まあ、聞かれるよなと思いながらも居心地は悪い。
「十月だ」
「え、早く言えよ」
「終わってんじゃねぇか」
「いや言いづらいだろ」
「じゃあドレークとロロノアの分、まとめて祝うか」
 キラーの提案にユースタスもロロノアも乗り気で、あれよあれよ言う間に話が進んでいく。ロロノアを祝うことには賛成だが、自分も祝われたくない訳ではないがどうにも、むず痒い。
「ロロノアの誕プレ渡し終えてるドレークがケーキ買いに行けよ」
 いつの間に決まっている役割をユースタスに言い渡され、断る理由などあるはずもなく頷いた。
「抜け駆けしてんじゃねぇよこれだから海兵は」
「流石スパイをやってただけはある」
「関係ないだろ」
「おれモンブランがいい」
「わかったわかった、各自メッセージに送っといてくれ」


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