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『2月2日』
現パロ
カプなし
キラーとキッドがだべってる
────────────────────
「なんでお前達は誕生日の度におれの顔面にパイを投げるんだ」
「むしろ誕生日以外にゃやらねぇだろ」
隣を歩くキッドの言葉は確かに頷けるが、だからと言って許容はできない。毎年されるとわかっていても碌に対策もせずきちんと受け止めるおれに、感謝して欲しい。
すっぴんで街を歩くことに抵抗があるわけではないが、いつもしているだけに少し落ち着かない。深夜のコンビニであればなんとも思わないが、まだ活気溢れる夕飯後であり街は賑わっている。流石に白い顔のまま外を歩く訳にもいかず、当然ながら顔は洗った。化粧道具はあるのだからし直せばいい。いいのだが、どうしてか毎年、すっぴんでキッド達と店に行くのが恒例のようになっていた。
「来年はチョコ味にしてやるよ」
「投げないという選択肢は?」
「ねぇな」
カラカラと笑うキッドも、意気揚々とパイを準備してくるヒートも、自分の部屋が汚れるのも構わず場所を提供するワイヤーも、本当に辞める気はないのだろう。なんと迷惑なことか。おれも投げたいと言っても何故か一切協力してくれないのだから、徹底しているにも程がある。
「なぜなんだ」
「お前の顔が見られて、嬉しいからかもな」
「……根に持ってるのか?」
「いや別に?」
さらりと間髪入れずに返される。根に持っているとしか思えないが、顔を隠していた理由を話す気もないのでそれ以上言うのはやめた。
数年前まで、長い前髪とマスクで顔をほとんど覆って過ごしていた。理由はシンプルだった。親に見つからないためだ。逃げるように家を出たのが高校を卒業してからで、それ以来会ってはいない。好きなこともさせてもらえない、好きでもない女と結婚させられるような家になんて、一秒でも長く居たくはなかった。キッド達に言わない理由は面倒だから、情けないから、巻き込みたくないから、とそれらしい理由は並べられるが、実のところどれもそうで、どれも違っているように思える。口に出すことすら、まだ抵抗があった。逃げ出して何年も経つというのに呑み込めていない。その事実を、晒すのが嫌なのかもしれない。
そんなおれを知ってか知らずか、あいつらはおれにごちゃごちゃと沢山の化粧品を寄越してきた。ああ、確か、パイを投げられる前の年の、誕生日プレゼントだったか。おれよりも先にそれらに手を出していたらしい三人は、未熟ながらも自ら彩ったであろうその顔はどうしてか眩く見え、自分もそうなりたいと、強く思った。その日から、おれはマスクをやめ、前髪を少しだけ切った。
「……ありがとな」
思い出にふけってたら、自然と言葉が漏れた。何に対しての言葉かわかっているのかいないのか、キッドは「おうよ」と言って微笑んだ。顔を見ずともわかる。いつか話せる時がきたならば、その時は三人の顔面に、パイでもぶつけてやろう。
「チョコじゃなくてイチゴがいい」
「果肉入りにしてやるよ」
勿体ないからそれはいい、と断れば、キッドはまた、笑った。
(2025/02/02)
現パロ
カプなし
キラーとキッドがだべってる
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「なんでお前達は誕生日の度におれの顔面にパイを投げるんだ」
「むしろ誕生日以外にゃやらねぇだろ」
隣を歩くキッドの言葉は確かに頷けるが、だからと言って許容はできない。毎年されるとわかっていても碌に対策もせずきちんと受け止めるおれに、感謝して欲しい。
すっぴんで街を歩くことに抵抗があるわけではないが、いつもしているだけに少し落ち着かない。深夜のコンビニであればなんとも思わないが、まだ活気溢れる夕飯後であり街は賑わっている。流石に白い顔のまま外を歩く訳にもいかず、当然ながら顔は洗った。化粧道具はあるのだからし直せばいい。いいのだが、どうしてか毎年、すっぴんでキッド達と店に行くのが恒例のようになっていた。
「来年はチョコ味にしてやるよ」
「投げないという選択肢は?」
「ねぇな」
カラカラと笑うキッドも、意気揚々とパイを準備してくるヒートも、自分の部屋が汚れるのも構わず場所を提供するワイヤーも、本当に辞める気はないのだろう。なんと迷惑なことか。おれも投げたいと言っても何故か一切協力してくれないのだから、徹底しているにも程がある。
「なぜなんだ」
「お前の顔が見られて、嬉しいからかもな」
「……根に持ってるのか?」
「いや別に?」
さらりと間髪入れずに返される。根に持っているとしか思えないが、顔を隠していた理由を話す気もないのでそれ以上言うのはやめた。
数年前まで、長い前髪とマスクで顔をほとんど覆って過ごしていた。理由はシンプルだった。親に見つからないためだ。逃げるように家を出たのが高校を卒業してからで、それ以来会ってはいない。好きなこともさせてもらえない、好きでもない女と結婚させられるような家になんて、一秒でも長く居たくはなかった。キッド達に言わない理由は面倒だから、情けないから、巻き込みたくないから、とそれらしい理由は並べられるが、実のところどれもそうで、どれも違っているように思える。口に出すことすら、まだ抵抗があった。逃げ出して何年も経つというのに呑み込めていない。その事実を、晒すのが嫌なのかもしれない。
そんなおれを知ってか知らずか、あいつらはおれにごちゃごちゃと沢山の化粧品を寄越してきた。ああ、確か、パイを投げられる前の年の、誕生日プレゼントだったか。おれよりも先にそれらに手を出していたらしい三人は、未熟ながらも自ら彩ったであろうその顔はどうしてか眩く見え、自分もそうなりたいと、強く思った。その日から、おれはマスクをやめ、前髪を少しだけ切った。
「……ありがとな」
思い出にふけってたら、自然と言葉が漏れた。何に対しての言葉かわかっているのかいないのか、キッドは「おうよ」と言って微笑んだ。顔を見ずともわかる。いつか話せる時がきたならば、その時は三人の顔面に、パイでもぶつけてやろう。
「チョコじゃなくてイチゴがいい」
「果肉入りにしてやるよ」
勿体ないからそれはいい、と断れば、キッドはまた、笑った。
(2025/02/02)
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