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やさしい狂犬

会社も何時もの様に忙しく、
少しの休憩の時間に、頭に浮かぶ長身の男。
やはり楽しそうに人を倒す所を考えると、
拘ってはいけないんだと思ったが、

何故同僚を助けたのか、が気になる。
いい人なのか、やはり悪い人なのかと、
頭の中でグルグルしていた。

会社も帰宅時間になり、
今日も忙しかったなーと、
朝に通った道をぷらぷら歩いていると、

嫌な笑みを向けられながら、ガラの悪い奴に捕まってしまった。

周りの人は、そりゃー関わりたくないでしょうね、と、思う程に思いっ切りスルーされた。

「ねーちゃんべっぴんさんやなぁー」

はぁ?目が悪いんだろうか、私は自分の事を可愛いとか、綺麗だなんて思いもしてはいない。

多分女にはそうやって声を掛けるんだろうと思った。

面倒くさい!早く家に帰ってシャワーを浴びたいのに!

「あの、何か?」

「いやなーねーちゃん、ワシらとええ事しに行かへんかー?」

なんだコイツは自分勝手にも程がある。
やきもきしていると、

どこからか鼻歌が聞こえ、どうしようと固まって居た時に、

今朝見た長身の男。

真冬と言うのに、上半身裸に、パイソン柄のジャケット一枚しか羽織っておらず、
夜でも風が強いせいか、その風で男の刺青がハラハラと見える。

「お前な、どけやじゃまやで!」

彼は言った。

ガラの悪い奴は「あ!?なんやねん自分!」
と、ヘラヘラ笑っている。

「あ?オッサンこの子に嫌がられとるで!」

「な、なんでや!嫌われとるかどうかなんて関係無いわ!」

「なにゆーとるん?嫌いな奴と話ししたい奴がおるかいな!はよ、そこどかんと、立てなくするで?」

低いドスの効いた声で言った。

「ち、違いますって、道を聞こうとしてただけなんすよ!」

引き攣った顔で答えた。

「んなもん信じられるかいな!殺されたくなかったらはよぉどっか行けや!」

その声で、ガラの悪い奴等はペコペコ頭を下げながら、

そそくさと逃げる様に夜の闇へと消えていった。

わたしはホッとした。

でも、目の前に背の高いヤクザがこちらを覗き込んできた。

「ネェちゃん、こないな時間に1人で出歩くなんて無謀なやっちゃなぁ~」

「あ、仕事が遅くなってしまい、こんな時間になってしまって、、、」

「ほぅか、仕事大変なんやな~ネエちゃんいつもこの道歩くんか?」

「はい、朝も、会社が終わった夜も、この道を使ってます。」

実は彼は心の中で、浅海の事を可愛いと思っていた。

「そらよくないなぁ~こない時間に女1人で歩くんは危ないでぇ~?」

「確かにそれは凄く怖いですけれど、
家に帰るにはこの道を通るしかないんです。」

「早く帰れる様にせぇへんとまた変な奴に目付けられんで~今日はワシがおったからなんとかなったけど、今後何があっても知らへんで~」

「はい、気を付けます。」

「心配やし家までおくったったるわ!」

「え!?いえ、あの、気持ちだけ頂いておきます!本当に大丈夫なんで!」

浅海は焦りながらそう言った。

でも、話しは通じなかった。。。

帰り途中、

「あ、あのまだお礼を言って居ませんでしたね。すみません!本当に助けて下さって有難うございました!」

浅海は深々とお辞儀をした。

「めぇの前にめっちゃ可愛い女の子ぉが困っとったら、そりゃ無視は出来へん!」

か、可愛い?めっちゃ?ちょっとドキッとしてしまった自分がよく分からない、
目の前にいる、話しをしているのは、ヤクザなんだから!

でも、よく見ると、とても整った顔をしている。左眼には眼帯をしているが、
それも何故か似合ってしまって居ると思ってしまう程に。

「あの、私、自己紹介まだでしたね。私の名前は外村浅海と言います。家まで送って頂けるなんて何だか申し訳ない位です。」

「なんや?申し訳ないて?ワシがしたくてしてるだけやし、ワシはな、真島言うんや真島吾朗、覚えてくれたら嬉しいんやけどな」

とかいって、少しおどけてみせた。

「覚えましたし、忘れませんよ!色んな意味で」

と、言い私は少し笑った。

今朝買ったが飲まなかった、まぁる味噌汁を何となく渡す。

「なんや?これ、」

「お湯を注ぐだけで美味しいのが飲めるんですよ!今はそれしか無いので。本当に有難う御座いました!」

「気持ちかいな?有難く貰っとくわ!」

そんな事を話しながら歩き、

「あ、ここが私の家です!」

「電気付いてないって事は浅海ちゃん一人暮らしかいな?」

「えぇ、会社も近いですし、1人で住んでます。」

「戸締りはしっかりせぇよ?」

と、言って、真島さんは夜の闇へと消えていった。
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