足跡はずっと黒く
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ゴンはその日から、ミトさんにハンターになりたいと言い続けた。ミトさんは、ダメだといつも言い返している。数日が経ってから、彼女はたっぷり長い溜め息を吐いた。
「……良いわ、沼のヌシを釣りあげたら許可してあげる」
こんな返事が来た。そして、あれから毎日釣りをしている。朝から晩まで、釣り糸を垂らしていた。もうカイトさんと会ってから、3年は経っている。時間の流れは早い。
彼のそんな姿を見て、ゴンの行く先にはジンが居るのだと分かる。自分も彼に聞きたいことがある、だからとミトさんに話してみた。
「ゴンだけじゃなくて、ナマエまで言うの!?……もう、姉弟なんだから……」
少ししゃがんで、わたしの目を覗いて来た。
「どうしてそこまで言うの?何が目的なの?」
内心を探るように、言葉でかきたてられる。わたしは、ジンさんの本当の子どもじゃない。それに、どこの子どもか全く知らない。それを聞きたい。
「……それ、確かに聞いていないわ……でも、ハンターは危ない職業なのよ?ナマエまで、危険な目に遭うことはないわ」
彼女の言葉に、ふるふる首を横に振り続ける。どうしても、絶対に。知らないまま、死にたくない。
「……誰に似て、頑固になったのよ」
首をこてんと傾げて、言葉の意味を考える。それはわたしも知らないから、誰のことだろうか。
「ゴンより年上だから、多少は尊重するわ。ただし」
ミトさんは、財布を渡してくる。突然で目をぱしぱし瞬きさせていると、彼女は次から次へと言葉を繋ぐ。
「お米5キロ、ハチミツ大ビン、干し魚であったら何でも良いからそれを1キロ、チーズ一塊、それぞれ1個ずつお願いね」
一気にどかどかと言いだしたので、その意図を考える。でも、明らかにおつかいのメニューに聞こえた。
「今日中までにそれを全部買って来ること、いってらっしゃい」
彼女に追い出されて、そのまま港まで降りて行く。彼女から貰ったのは財布だけで、買い物袋やメモ帳は渡されていない。それで、1人で行けと言われた。これが、ハンター試験までのお使いなのだろうか。ごつん、木にぶつかった。頭がじりじりする。そして、ぼとっと落ちた茶色の丸いもの。よく見たら、ハチの巣だ。そこから、わらわら飛び出すハチたち。それらから逃げる為に走れば、それらが追いかけて来る。ふらっと体が投げ出されたと思えば、思い切り地べたに体を叩き付けられた。ぶーんと鳴る羽音は頭上を飛んで行って、自分のことを見失ったみたい。
ごちゃごちゃ考えて、また歩き出す。すると、港町まで着いていた。家からここまで数時間かかったけど、商人はまだ居る。その人に近寄って、辛うじて覚えていた言葉を出す。
「ハチミツのデカイ瓶と魚の干物はあるが……嬢ちゃん、袋やるからそれに詰め込め」
お金を渡すと、品物とそれが入った袋を渡される。受け取ってお礼を言ってから、他の商人に話しかけ続けた。そして、ミトさんが欲しいと言っていた物を全て買いきる。
袋はパンパンで、少し歩いただけでよろめく。おまけに、頭上の空は灰色の雲をまといだす。ごろごろ鳴ってるから、雨が近いと悟る。
「おチビちゃん、気を付けて帰りなよー」
最後の商人の女性にお礼を言ってから、家へと向かう。途端に、ぽつぽつと雫が落ちて来る。それがいきなりたくさん降り注いてきた。あっという間にずぶ濡れになってしまい、荷物も中には紙で包まれた物があったので、咄嗟に服の中に隠す。今日はワンピースだったから、それが簡単に出来た。そのまま、のたのた歩いて行く。地べたはぬかるみ始めて、足元をふとした瞬間に奪われそうになる。何度も踏ん張って、体のバランスを取って進む。ずっと、体にばしばしと当たる雨粒。髪もぺっとりと顔や頭にへばりついて、気分の悪さを感じられた。痛さすら感じて来たが、気にしないように帰宅ばかりを脳内に思い浮かべる。
ふと、風まで吹き込んで来た。ふらりと体のバランスが崩れて、前のめりになりかける。体に力を込めて、後ろに重心が行くようにする。しかし、今度は後ろに力が行き過ぎてか、背中からばしゃっと倒れ込んだ。じわじわと沁み込む感覚は、体がぞわりと粟立つ。起き上がることが難しく、空から注ぎ込む水たちもその一因となっている。僅かに見える自分の体は、泥にまみれていた。自分はこのまま何も出来ないのか、ぐしゃぐしゃの水たまりから何とか体を起こす。上半身しか起こせなくて、目が熱くなってくる。生暖かい雫が紛れ込んで来て、ほっぺたを伝う。
どっと溢れ出す心の内側にある感情の中、ふわりと浮かぶのは横顔。釣り糸を水面に垂らした少年で、こっちを見た彼はにこりと笑った。体が強張る。ここで留まったままは、彼とは長い別れになる気がした。それはどうしても考えられなくて、何とか立ち上がる。そのまま、ふらふらと足を動かす。雨なんて、気に止めないよう。
「ナマエ!」
家に踏み入れた一歩、ミトさんがわたしをすぐさま捉えた。近寄って来て、肩を掴まれた。びくっと肩が大きく跳ね上がって、声を張り上げてしまう。
「こんなにどろんこになって……どうして、あなたはいつもこんな目に遭うのかしら……それでも、立ち上がって歩いてくる……」
どろまみれのわたしでも、彼女はほっぺたを撫でて来る。その緑色の目は、感情が読み取り難い状態でこっちを見ていた。
「さあ、見せて。ちゃんと買ってあるか、見てあげる」
ワンピースをたくし上げて、隠している袋を差し出す。下着が丸見えになったけど、ゴンは帰って来てないと踏んだから。わたしの行動にぎょっとしていたが、袋を受け取ってくれた。
「———うん、よし……大丈夫ね」
彼女の言動を見ていたら、頷いてこっちに向き直した。
「許可するわ。でも……いつまで、その服で居る気なのかしら?着替えて、お風呂に入って来なさい」
じとっとした目で言われて、いそいそと風呂場へと向かう。そこで既に、ほかほかと湯気が立つお風呂が用意されていた。わたしの行動を把握していたのかと思うと、少し胸が綻んだ。
「た、ただ、ひっま……み、ミミ、ミト、しゃん……」
「あら、どうしたのゴン?」
「さ、さっき……あの、えっと、ナマエ……えっと、そ、その……」
「もしかして、ゴン……さっきのあの子の様子……見ちゃったの?下着見たこと、言っちゃだめよ?」
「……良いわ、沼のヌシを釣りあげたら許可してあげる」
こんな返事が来た。そして、あれから毎日釣りをしている。朝から晩まで、釣り糸を垂らしていた。もうカイトさんと会ってから、3年は経っている。時間の流れは早い。
彼のそんな姿を見て、ゴンの行く先にはジンが居るのだと分かる。自分も彼に聞きたいことがある、だからとミトさんに話してみた。
「ゴンだけじゃなくて、ナマエまで言うの!?……もう、姉弟なんだから……」
少ししゃがんで、わたしの目を覗いて来た。
「どうしてそこまで言うの?何が目的なの?」
内心を探るように、言葉でかきたてられる。わたしは、ジンさんの本当の子どもじゃない。それに、どこの子どもか全く知らない。それを聞きたい。
「……それ、確かに聞いていないわ……でも、ハンターは危ない職業なのよ?ナマエまで、危険な目に遭うことはないわ」
彼女の言葉に、ふるふる首を横に振り続ける。どうしても、絶対に。知らないまま、死にたくない。
「……誰に似て、頑固になったのよ」
首をこてんと傾げて、言葉の意味を考える。それはわたしも知らないから、誰のことだろうか。
「ゴンより年上だから、多少は尊重するわ。ただし」
ミトさんは、財布を渡してくる。突然で目をぱしぱし瞬きさせていると、彼女は次から次へと言葉を繋ぐ。
「お米5キロ、ハチミツ大ビン、干し魚であったら何でも良いからそれを1キロ、チーズ一塊、それぞれ1個ずつお願いね」
一気にどかどかと言いだしたので、その意図を考える。でも、明らかにおつかいのメニューに聞こえた。
「今日中までにそれを全部買って来ること、いってらっしゃい」
彼女に追い出されて、そのまま港まで降りて行く。彼女から貰ったのは財布だけで、買い物袋やメモ帳は渡されていない。それで、1人で行けと言われた。これが、ハンター試験までのお使いなのだろうか。ごつん、木にぶつかった。頭がじりじりする。そして、ぼとっと落ちた茶色の丸いもの。よく見たら、ハチの巣だ。そこから、わらわら飛び出すハチたち。それらから逃げる為に走れば、それらが追いかけて来る。ふらっと体が投げ出されたと思えば、思い切り地べたに体を叩き付けられた。ぶーんと鳴る羽音は頭上を飛んで行って、自分のことを見失ったみたい。
ごちゃごちゃ考えて、また歩き出す。すると、港町まで着いていた。家からここまで数時間かかったけど、商人はまだ居る。その人に近寄って、辛うじて覚えていた言葉を出す。
「ハチミツのデカイ瓶と魚の干物はあるが……嬢ちゃん、袋やるからそれに詰め込め」
お金を渡すと、品物とそれが入った袋を渡される。受け取ってお礼を言ってから、他の商人に話しかけ続けた。そして、ミトさんが欲しいと言っていた物を全て買いきる。
袋はパンパンで、少し歩いただけでよろめく。おまけに、頭上の空は灰色の雲をまといだす。ごろごろ鳴ってるから、雨が近いと悟る。
「おチビちゃん、気を付けて帰りなよー」
最後の商人の女性にお礼を言ってから、家へと向かう。途端に、ぽつぽつと雫が落ちて来る。それがいきなりたくさん降り注いてきた。あっという間にずぶ濡れになってしまい、荷物も中には紙で包まれた物があったので、咄嗟に服の中に隠す。今日はワンピースだったから、それが簡単に出来た。そのまま、のたのた歩いて行く。地べたはぬかるみ始めて、足元をふとした瞬間に奪われそうになる。何度も踏ん張って、体のバランスを取って進む。ずっと、体にばしばしと当たる雨粒。髪もぺっとりと顔や頭にへばりついて、気分の悪さを感じられた。痛さすら感じて来たが、気にしないように帰宅ばかりを脳内に思い浮かべる。
ふと、風まで吹き込んで来た。ふらりと体のバランスが崩れて、前のめりになりかける。体に力を込めて、後ろに重心が行くようにする。しかし、今度は後ろに力が行き過ぎてか、背中からばしゃっと倒れ込んだ。じわじわと沁み込む感覚は、体がぞわりと粟立つ。起き上がることが難しく、空から注ぎ込む水たちもその一因となっている。僅かに見える自分の体は、泥にまみれていた。自分はこのまま何も出来ないのか、ぐしゃぐしゃの水たまりから何とか体を起こす。上半身しか起こせなくて、目が熱くなってくる。生暖かい雫が紛れ込んで来て、ほっぺたを伝う。
どっと溢れ出す心の内側にある感情の中、ふわりと浮かぶのは横顔。釣り糸を水面に垂らした少年で、こっちを見た彼はにこりと笑った。体が強張る。ここで留まったままは、彼とは長い別れになる気がした。それはどうしても考えられなくて、何とか立ち上がる。そのまま、ふらふらと足を動かす。雨なんて、気に止めないよう。
「ナマエ!」
家に踏み入れた一歩、ミトさんがわたしをすぐさま捉えた。近寄って来て、肩を掴まれた。びくっと肩が大きく跳ね上がって、声を張り上げてしまう。
「こんなにどろんこになって……どうして、あなたはいつもこんな目に遭うのかしら……それでも、立ち上がって歩いてくる……」
どろまみれのわたしでも、彼女はほっぺたを撫でて来る。その緑色の目は、感情が読み取り難い状態でこっちを見ていた。
「さあ、見せて。ちゃんと買ってあるか、見てあげる」
ワンピースをたくし上げて、隠している袋を差し出す。下着が丸見えになったけど、ゴンは帰って来てないと踏んだから。わたしの行動にぎょっとしていたが、袋を受け取ってくれた。
「———うん、よし……大丈夫ね」
彼女の言動を見ていたら、頷いてこっちに向き直した。
「許可するわ。でも……いつまで、その服で居る気なのかしら?着替えて、お風呂に入って来なさい」
じとっとした目で言われて、いそいそと風呂場へと向かう。そこで既に、ほかほかと湯気が立つお風呂が用意されていた。わたしの行動を把握していたのかと思うと、少し胸が綻んだ。
「た、ただ、ひっま……み、ミミ、ミト、しゃん……」
「あら、どうしたのゴン?」
「さ、さっき……あの、えっと、ナマエ……えっと、そ、その……」
「もしかして、ゴン……さっきのあの子の様子……見ちゃったの?下着見たこと、言っちゃだめよ?」