君と過ごす夏

「暑…」

夕方になっても尚気温は下がらず、今夜も寝苦しい夜なんだろうな…と藤井は辟易とした。

「藤井くんちは、今日の夕飯何?」

隣を歩く拓也が藤井を見上げ話しかけた。
元々藤井の方が背は若干高かったが、中学へ上がってから少しずつ差が広がったように感じるのは、きっと気のせいではない。

上目遣いが、可愛いと、思った。

「そんなん、俺が知るわけないだろ」
「だよねぇ。藤井くんちはお姉さんが作ることが多いんだっけ? リクエストとかしないの?」
「したところで通んねぇし」

冷蔵庫の中身と家計で決まるんだ、うちの献立は。
せめて肉、と極めてシンプルなリクエストくらい通して貰いたい...と食欲無限の中学男子は思う。

「あー、でも、食べ盛りが大勢いる藤井くんちのやりくりとレシピは勉強になるかも!」

楽しそうに弾んだ声を出しながら、一歩前に出た拓也の後ろ姿を─正確には項辺りを─見て、藤井は言葉を零した。

「結構日に焼けたな、榎木」
「うん? まぁ、普通に?」

毎日歩いての登下校、体育での屋外の水泳、教室の窓から降り注ぐ紫外線。
日焼けを躍起になって防ごうとする女子でもなければ、健康的に焼けて当然である。

「藤井くんも焼けてるでしょ」
腕をすっと伸ばし、日焼けしたその跡をなぞって視線をよこす。
「藤井くん…?」
ただそれだけなのに、込み上げるものがあった。




背後から拓也の肩にそっと手を添える───。


「ふっ藤井くん!?」
「じゃあな」

触れられた項を押さえ狼狽える拓也に背中を向け手を振り、藤井は自宅へと駆け出した。




『 徐ろに日焼けの跡をなぞる君が、大好きで、首筋にそっとキスをした。』
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