どんな姿をしていても…
一般公開の時間も終了し、後夜祭へと移る時間。
後夜祭は、グラウンドで花火大会になっていた。
「じゃ、僕着替えて来るね」
藤井は自分の制服を持って更衣室へ行こうとする拓也の手を取り、歩き出す。
「藤井君?」
「ちょっと、付き合って」
それ以降無言で連れて行かれたのは屋上。
屋上にはまばらにだが人がいて、よくよく見ると全員が二人組のようだった。
「生徒会情報。後夜祭の屋上はカップル限定だって」
「え…」
空が橙から紫、紺へと変わるグラデーションの中、振り向いて微笑む藤井に拓也はドキリとする。
「や、じゃあマズイんじゃ…」
ドキドキする鼓動をごまかそうと視線を逸らして言うと
「だから、着替える前に連れて来た」
藤井は拓也をギュッと抱きしめた。
「やっと二人になれた…」
「藤井君…」
「ちょっと…流石に、他の奴らがいる前では直視出来なかったから…」
予想以上に可愛くて、と言う藤井に、いつもなら可愛い発言に「藤井君!!」と怒ったり拗ねたりする拓也だが、拓也を抱きしめる藤井が肩越しに は―――っと大きく息を吐くのが分かって、抗議の言葉を飲み込む。
「藤井君…僕も、文化祭最後に二人になれて、嬉しいよ」
素直に胸の内を伝えてくれた藤井に対し、拓也も素直に言葉を紡ぐ。
藤井は抱きしめていた腕を解くと、拓也をまじまじと見た。
「長い髪も似合うんだな」
「嬉しくないけどね…あんまり見ないで欲しいんだけど…」
やっぱり恥ずかしい…と、クルッと背中を向ける拓也を、今度は後ろから抱きしめる。
「や、藤井君…」
「何で?」
耳元で囁かれて、拓也はビクリと肩を震わす。
「あまり…この恰好褒められると…やっぱり女の子がいいよねって、…不安になる」
言いながら、涙が溜まるのが分かる。
そんな考えたって仕方のない事、自分も藤井君も同じ男で、だけど藤井君を想う気持ちは…否定したくない。
「違う。榎木だから、どんな恰好してたって拓也だから、だから可愛く見えるし、不安になる事なんてない」
「藤井君…」
頬を伝う涙にキスをして。
「藤井君、人が…」
「皆自分達しか見えてない」
「でも……んっ」
後ろから抱きしめられたまま、肩越しのキス。
学校でキスするのは初めてではないけれど、グラデーションが綺麗な夕暮れの屋上だとか、他にもカップルがいる空間だとか、そんな中でも堂々としていられるのは自分が今こんな恰好をしているからだとか、初めての高校での文化祭で後夜祭の最中だとか、色々な初めてが重なって…
「凄く…ドキドキする…」
「俺も」
藤井は拓也の後ろからフェンスに両手の指を掛けて、拓也を閉じ込める形で二人で賑やかなグランドを眺める。
「あ…」
「始まったな」
空がすっかり暗くなり、文化祭実行委員長の宣言で花火が上がった。
生徒達も、手に花火を持ち各々楽しみだした。
「俺達も花火やり行くか?」
「うん」
スルッとフェンスから手を外して行こうかと言う藤井に
「あ、でも、やっぱり…」
たどたどしく言葉を発しながら、藤井のシャツをキュッと握って拓也は俯く。
「折角だから…もう少しこのまま…ここにいたい」
滅多にない、拓也からのアプローチ。
色々な要因が重なり、気が大きくなっているのかもしれない。
けど、俯いたまま顔を上げないのは、恥ずかしさも勝っているのだろう。
「OK」
藤井はそんな拓也にクスリと笑い、肩を抱く。
「ほっほら!人がやってる花火を見るのも綺麗だよ!」
「少し遠いけどな」
高校に入って初めての文化祭。
(まあ、結果オーライ…かなぁ)
何だかんだで楽しめたし。
「でも来年は、普通の恰好で参加したいな!」
「今回好評だったから、またやるかもな?」
「いやいや、流石に二年生だし!もっと成長してる筈!」
「榎木は成長しても似合うと思うぞ」
「藤井君!!」
拓也はアハハと笑う藤井を軽く睨み付け、その首に腕を回すと、グッと引き寄せ唇を塞いだ。
数秒後口付けを解いて
「"煩い口は塞ぐ"…でしょ?」
真っ赤になりながらも言う拓也に
「やったな…」
と藤井からも唇を塞ぐ。
後夜祭もそろそろ終盤―――。
すっかり下りた帳の中で、遠く地上の光の粒がそこかしこで煌めいていた。
週明け。
「榎木ー、呼び出し!」
「…今日だけで何回目だ?」
セーラー服で接客をしたカフェのクラスに可愛い子がいるという噂は瞬く間に広がっており、また、実際接客を受けたという生徒が次から次へと会いに来る。
「僕はいません。欠席です」
「いや、バレバレだから」
呼び出した方は、男だったのか!?と驚くだけならいいが(寧ろそれでいいのだが)、いや男でも!付き合ってくれ!と頑張ってくる輩もいるから厄介だった。
「暫くは続くんだろうなぁ」
「まあ、試着の段階でこうなる事は見えてたけどな」
中橋と小野崎が口々に言うと
「登校拒否になる理由になるよね布施君!!」
まさかの登校拒否宣言をする拓也。しかし
「榎木の性格からして無理だろ」
サラリと拓也の性格を踏まえて否定をする。
「もう絶対、女装とかしない」
「俺はして欲しい」
「ふじ…っ絶対しない!!」
-2013.07.18 UP-
後夜祭は、グラウンドで花火大会になっていた。
「じゃ、僕着替えて来るね」
藤井は自分の制服を持って更衣室へ行こうとする拓也の手を取り、歩き出す。
「藤井君?」
「ちょっと、付き合って」
それ以降無言で連れて行かれたのは屋上。
屋上にはまばらにだが人がいて、よくよく見ると全員が二人組のようだった。
「生徒会情報。後夜祭の屋上はカップル限定だって」
「え…」
空が橙から紫、紺へと変わるグラデーションの中、振り向いて微笑む藤井に拓也はドキリとする。
「や、じゃあマズイんじゃ…」
ドキドキする鼓動をごまかそうと視線を逸らして言うと
「だから、着替える前に連れて来た」
藤井は拓也をギュッと抱きしめた。
「やっと二人になれた…」
「藤井君…」
「ちょっと…流石に、他の奴らがいる前では直視出来なかったから…」
予想以上に可愛くて、と言う藤井に、いつもなら可愛い発言に「藤井君!!」と怒ったり拗ねたりする拓也だが、拓也を抱きしめる藤井が肩越しに は―――っと大きく息を吐くのが分かって、抗議の言葉を飲み込む。
「藤井君…僕も、文化祭最後に二人になれて、嬉しいよ」
素直に胸の内を伝えてくれた藤井に対し、拓也も素直に言葉を紡ぐ。
藤井は抱きしめていた腕を解くと、拓也をまじまじと見た。
「長い髪も似合うんだな」
「嬉しくないけどね…あんまり見ないで欲しいんだけど…」
やっぱり恥ずかしい…と、クルッと背中を向ける拓也を、今度は後ろから抱きしめる。
「や、藤井君…」
「何で?」
耳元で囁かれて、拓也はビクリと肩を震わす。
「あまり…この恰好褒められると…やっぱり女の子がいいよねって、…不安になる」
言いながら、涙が溜まるのが分かる。
そんな考えたって仕方のない事、自分も藤井君も同じ男で、だけど藤井君を想う気持ちは…否定したくない。
「違う。榎木だから、どんな恰好してたって拓也だから、だから可愛く見えるし、不安になる事なんてない」
「藤井君…」
頬を伝う涙にキスをして。
「藤井君、人が…」
「皆自分達しか見えてない」
「でも……んっ」
後ろから抱きしめられたまま、肩越しのキス。
学校でキスするのは初めてではないけれど、グラデーションが綺麗な夕暮れの屋上だとか、他にもカップルがいる空間だとか、そんな中でも堂々としていられるのは自分が今こんな恰好をしているからだとか、初めての高校での文化祭で後夜祭の最中だとか、色々な初めてが重なって…
「凄く…ドキドキする…」
「俺も」
藤井は拓也の後ろからフェンスに両手の指を掛けて、拓也を閉じ込める形で二人で賑やかなグランドを眺める。
「あ…」
「始まったな」
空がすっかり暗くなり、文化祭実行委員長の宣言で花火が上がった。
生徒達も、手に花火を持ち各々楽しみだした。
「俺達も花火やり行くか?」
「うん」
スルッとフェンスから手を外して行こうかと言う藤井に
「あ、でも、やっぱり…」
たどたどしく言葉を発しながら、藤井のシャツをキュッと握って拓也は俯く。
「折角だから…もう少しこのまま…ここにいたい」
滅多にない、拓也からのアプローチ。
色々な要因が重なり、気が大きくなっているのかもしれない。
けど、俯いたまま顔を上げないのは、恥ずかしさも勝っているのだろう。
「OK」
藤井はそんな拓也にクスリと笑い、肩を抱く。
「ほっほら!人がやってる花火を見るのも綺麗だよ!」
「少し遠いけどな」
高校に入って初めての文化祭。
(まあ、結果オーライ…かなぁ)
何だかんだで楽しめたし。
「でも来年は、普通の恰好で参加したいな!」
「今回好評だったから、またやるかもな?」
「いやいや、流石に二年生だし!もっと成長してる筈!」
「榎木は成長しても似合うと思うぞ」
「藤井君!!」
拓也はアハハと笑う藤井を軽く睨み付け、その首に腕を回すと、グッと引き寄せ唇を塞いだ。
数秒後口付けを解いて
「"煩い口は塞ぐ"…でしょ?」
真っ赤になりながらも言う拓也に
「やったな…」
と藤井からも唇を塞ぐ。
後夜祭もそろそろ終盤―――。
すっかり下りた帳の中で、遠く地上の光の粒がそこかしこで煌めいていた。
週明け。
「榎木ー、呼び出し!」
「…今日だけで何回目だ?」
セーラー服で接客をしたカフェのクラスに可愛い子がいるという噂は瞬く間に広がっており、また、実際接客を受けたという生徒が次から次へと会いに来る。
「僕はいません。欠席です」
「いや、バレバレだから」
呼び出した方は、男だったのか!?と驚くだけならいいが(寧ろそれでいいのだが)、いや男でも!付き合ってくれ!と頑張ってくる輩もいるから厄介だった。
「暫くは続くんだろうなぁ」
「まあ、試着の段階でこうなる事は見えてたけどな」
中橋と小野崎が口々に言うと
「登校拒否になる理由になるよね布施君!!」
まさかの登校拒否宣言をする拓也。しかし
「榎木の性格からして無理だろ」
サラリと拓也の性格を踏まえて否定をする。
「もう絶対、女装とかしない」
「俺はして欲しい」
「ふじ…っ絶対しない!!」
-2013.07.18 UP-
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