どんな姿をしていても…

いよいよ、文化祭当日。

実際、男子ウェイトレス組だけでは人数が足りない為、女子数名もウェイトレス担当になった。
しかし。

「榎木は本当、本物に混ざっても一番違和感ないよな」

しなやかな肢体に着こなしたセーラー服も、振り向くとサラリと肩から落ちるストレートロングのウイッグも、見紛う事無く女子生徒の姿そのもの。

「しかも、おもてなしの仕方も言う事なしと来たものだ」

普段から榎木家の家事の殆どを担う拓也は、こと細かい事に気が行き届く。
それは、運んだ皿やコップの置き方だとか、お客に声をかけるタイミング。
そして、その時に見せる、柔らかい笑み。

「榎木…吹っ切れたのか?」
トレイを持って教室全体を見渡して様子を見ている拓也に、小野崎が声をかけた。
「何で?」
「いや、ごねてた割にしっかりやってるから…笑顔付きで」
「だって…接客が無愛想だと気分悪いでしょ」
「まあな」
「それに…初めての高校の文化祭だもん、やっぱり楽しみたいもんね」
そう言って見せた、ふわりとした笑顔。

(うっわ…)

いつも一緒につるんでいる友人のいつもの笑顔の筈なのに、今は女子の恰好をしていて、しかも違和感を覚えさせないその姿と笑顔に、一瞬ドキリとする。

(ヤバイって…)

「えの…」
「あ、あそこのテーブル、お客立った。片して来るね」
タタッと空いたテーブルへ駆け寄り、手際良く片付ける。

(今日…どんだけの男が榎木にダマされんだろうな…)
と、溜息を吐きながら、小野崎はテキパキと接客をする拓也を眺めた。


「拓也ー、チビ達連れて来たぜー…!?」
「ついでに俺も便乗ー…って!!」
「ゴンちゃん…!?何で!?」
「拓也お兄様!?」
「兄ちゃん…!!」

現れたのは、後藤に森口、あと実、一加、マー坊、ヒロ。

「や、えっと、あの…」
誰にどんな返しをしていいか分からず、アタフタとする拓也を見て、小野崎が声をかける。
「知り合い?」
「小学校からの幼なじみと、僕と藤井君と彼(後藤)の弟妹…」
小野崎を見上げて一加とマー坊が挨拶をする。
「兄のお友達ですか?」
「いつも兄がお世話になっています」
「…ご丁寧にどうも。榎木、お気の毒」
ポンと肩に手を置いて、じゃ、俺他の接客行くわ、とその場から立ち去る。
もし必要なら、自分が接客を変わろうかとも思ったが、自分の弟がいるなら、拓也本人が案内した方がいいだろうと判断したからだ。

「な、何でみんなで来たの…?実まで!」
拓也は空いてるテーブルに案内する。
「まあまあ、拓也。藤井姉弟と実が『お兄ちゃんの高校の文化祭行きましょ~』って誘いに来たからさ。今近隣の高校の文化祭ラッシュで、俺も部活休みだったし。まだ低学年のチビだけで行かすわけにもいかんだろ」
「で、俺も誘われたわけ」
森口も話に加わる。

「実ぅ。ゴンちゃんに迷惑かけちゃダメじゃないかぁ」
「だってー。でも兄ちゃん…僕が行きたいって言ってたのにごまかしてたのは、このせい?」
「はっ!!」
(一瞬保護者モードに入って、現実を忘れたっ!!)

「そうそう、拓也、見事な美少女だな!!」
「兄ちゃん、可愛い!!」
「拓也お兄ちゃん、凄いです!!」
「拓也お兄様、その女子力を私にも分けて!!」
「私も…」
弾丸の如く、次から次へと拓也のこの状況を賛辞?され
「ヒ、ヒロまで…!!もう!ご注文ないなら出てって下さい、お客様」
内心引き攣りながらも、表情はニッコリ営業スマイルを見せる拓也に、森口はスッと立ち上がる。

「拓也を頂こうか…」
「全力でお断りします」
「殺すぞテメェ」
営業スマイルの拓也の背後からドスの利かせた声が割って入った。
「藤井君!!」
「昭広!冗談だよ!イキナリ湧いて出て来んな!」
「手伝い終わったの?」
「あぁ…」

藤井は朝から布瀬に頼まれて生徒会の手伝い(主に力仕事の雑用)に借り出されていた為、拓也のウェイトレス姿を見るのはこれが初めてだった。

「………」
「藤井君?」
「見とれてんな。分からんでもないが」
後藤が呆れて言う。

「榎木ー手が回らん!そろそろ接客戻れー」
「あ!ごめん!!…じゃね、あ、藤井君ついでにみんなのオーダー聞いてね!」

タタッと走って、他のテーブルへオーダーを取りに行く拓也を一同は見送った。

結局、拓也の休憩時間は皆で回る事になり、しかも、また休憩後も接客な為「いーじゃん、そのままで」「兄ちゃん、早く行こうよー」と押し切られ、セーラー+ウイッグのままで回った為、他の学年の在校生から他校生まで振り向かれる事幾度目か。
中には声をかけて来る輩もいたが、藤井と後藤と森口が(ついでに実も)きっちりガードした。
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