どんな姿をしていても…
昨今の「男の娘」ブームの影響なのだろうか。
「では、多数決により文化祭での我がクラスの企画は、"男の娘カフェ"で…」
「い、異議あり!!」
級長の決定宣言を遮るように、拓也は異議を申し立てた。
「榎木君。民主主義とは?」
そんな拓也に、級長はすかさず質問を投げ掛ける。
「…国家の主権は国民にあるという思想に基づき、統治に於いて国民の意思を尊重する主義、です」
「多数決とは?」
「集団に於いて、意見・議事を決定する際 多数派のそれを採用する事…」
拓也も負けるものかと質問に対して正答を返す、が。
「ここで言う国民とは我がHRに籍を置く生徒全員であり、それによる過半数を超える賛成票は、大多数の支持を得た意見、則ち?」
「決定に値するものと見なされ…る…」
「ご明答」
筋の通っている理屈に、答えている拓也自身も納得せざるを得なく、虚しく一蹴。
名門校らしく小難しい単語を並べて議論しているかのように見えるが、要は「多数決で結果が見えてる事に、今更文句言ってんじゃねぇよ面倒くせぇ」という事である。
「榎木、諦めろ。俺も同じ運命だ」
「小野崎君…」
小野崎が斜め後ろの席から拓也に声をかける。
拓也が既に多数決でほぼ決定のその意見に、無駄だと解っていても尚異議を申し立てたのは、ご丁寧にも自分が「男の娘候補」に挙げられていたからだ。
一昔前は「女装」といえば、ネタよろしく、ゴツい系の男子がセーラー服等を着て面白がる傾向が主流だったが、昨今は華奢な男子が如何に可愛く着飾り、それは寧ろ本物の女子をも凌ぐ可憐さを見せて盛り上がるという傾向にある。
前者なら票も集まらなかっただろうが、提案者は匿名投書だった為誰か特定できないが、カフェの提案と共に比較的 華奢で見栄えの良い数人の男子の名前まで添えられていたので、企画の方向は明らかに後者で、進学校故の自主性とそれに伴う自由な校風に受験を勝ち抜き集った学生達、その多くは好奇心が旺盛で「それは見てみたい!」と盛り上がり男女両方の支持を得た。
「恐らく、過半数以下の反対派の数人は、俺達候補に上がってる奴らだろうけどな」
「小野崎君も異議申し立ててよ」
「無駄。しかも、議論進んでるし」
ハッと姿勢を前に戻し黒板を見ると、既に役割分担の議題に。
「はいはーい!僕調理担当しま…」
「榎木君は、ウェイトレス。それは決定事項」
拓也の言葉を最後まで聞く事なく、級長のウェイトレス宣言。
「ウ、ウェイターでもないとか…」
「この場合はウェイトレスが正当だろう」
この級長には口では敵わない…そう思った拓也は、泣く泣く椅子に腰を下ろすのだった。
昼休み。
「榎木、今日は頑張ったな」
いつもはLHR(ロングホームルーム)は割と静観組なのに、と布瀬が弁当を食べながら拓也に声を掛けた。
「布瀬君…うちの企画、生徒会で取下げてよ」
「無理だな。基本、文化祭は実行委員会と生徒評議会(全級長集団)の運営・管轄で、俺らは最終チェック以外ノータッチ」
おまけに却下出来る程問題がある企画ではない。
そんな布瀬にフンと顔を背け、拓也はらしくなく悪態を吐く。
「お役所仕事ー。"管轄以外は知りません。" 税金返せー」
「おぉ…いつになく、たっくんの機嫌が悪い」
「拗ね方は可愛いが、言ってる事が黒いし支離滅裂だ」
「この場合、税金てなんだ…」
中橋・穂波・小野崎も口々にツッコミを入れる。
「そういや、藤井は賛否どっちに入れたん?」
穂波が藤井に聞くと、藤井は飄々と答えた。
「俺?俺は賛成…」
「うっ裏切り者ー!!」
まさか信じていた人まで賛成派に回っていたとは…!!
「没収!!」
拓也は藤井の飲んでいたペットボトルを奪って屋上の出入口に走り向かう。
「榎木!?」
「追っかけて来たら、一生絶交!!嫌いになるっ!!」
藤井君のバーカ!!と捨て台詞まで吐いて、拓也は校舎の中へと駆けて行った。
「榎木…相当ご乱心だな。言動が子供と化してる…」
去って行った拓也を見送りながら布瀬が言う。
「おい藤井。お前何で賛成なの?」
榎木の気持ち考えたら、普通反対派じゃね?と小野崎が聞くと
「アイツの性格からして、こういう企画でもない限りコスプレ紛いの姿は絶対見れないし、決まっちゃえば何だかんだ言ってもやるヤツだから」
「要は、見たいんだな、榎木の女装」
「そういう事」
顔色一つ変えずに言う藤井に
(もしかして、実は気付かなかっただけで、これは当日あてられるのでは…)
と一抹の不安が一同によぎったとか…。
「では、多数決により文化祭での我がクラスの企画は、"男の娘カフェ"で…」
「い、異議あり!!」
級長の決定宣言を遮るように、拓也は異議を申し立てた。
「榎木君。民主主義とは?」
そんな拓也に、級長はすかさず質問を投げ掛ける。
「…国家の主権は国民にあるという思想に基づき、統治に於いて国民の意思を尊重する主義、です」
「多数決とは?」
「集団に於いて、意見・議事を決定する際 多数派のそれを採用する事…」
拓也も負けるものかと質問に対して正答を返す、が。
「ここで言う国民とは我がHRに籍を置く生徒全員であり、それによる過半数を超える賛成票は、大多数の支持を得た意見、則ち?」
「決定に値するものと見なされ…る…」
「ご明答」
筋の通っている理屈に、答えている拓也自身も納得せざるを得なく、虚しく一蹴。
名門校らしく小難しい単語を並べて議論しているかのように見えるが、要は「多数決で結果が見えてる事に、今更文句言ってんじゃねぇよ面倒くせぇ」という事である。
「榎木、諦めろ。俺も同じ運命だ」
「小野崎君…」
小野崎が斜め後ろの席から拓也に声をかける。
拓也が既に多数決でほぼ決定のその意見に、無駄だと解っていても尚異議を申し立てたのは、ご丁寧にも自分が「男の娘候補」に挙げられていたからだ。
一昔前は「女装」といえば、ネタよろしく、ゴツい系の男子がセーラー服等を着て面白がる傾向が主流だったが、昨今は華奢な男子が如何に可愛く着飾り、それは寧ろ本物の女子をも凌ぐ可憐さを見せて盛り上がるという傾向にある。
前者なら票も集まらなかっただろうが、提案者は匿名投書だった為誰か特定できないが、カフェの提案と共に比較的 華奢で見栄えの良い数人の男子の名前まで添えられていたので、企画の方向は明らかに後者で、進学校故の自主性とそれに伴う自由な校風に受験を勝ち抜き集った学生達、その多くは好奇心が旺盛で「それは見てみたい!」と盛り上がり男女両方の支持を得た。
「恐らく、過半数以下の反対派の数人は、俺達候補に上がってる奴らだろうけどな」
「小野崎君も異議申し立ててよ」
「無駄。しかも、議論進んでるし」
ハッと姿勢を前に戻し黒板を見ると、既に役割分担の議題に。
「はいはーい!僕調理担当しま…」
「榎木君は、ウェイトレス。それは決定事項」
拓也の言葉を最後まで聞く事なく、級長のウェイトレス宣言。
「ウ、ウェイターでもないとか…」
「この場合はウェイトレスが正当だろう」
この級長には口では敵わない…そう思った拓也は、泣く泣く椅子に腰を下ろすのだった。
昼休み。
「榎木、今日は頑張ったな」
いつもはLHR(ロングホームルーム)は割と静観組なのに、と布瀬が弁当を食べながら拓也に声を掛けた。
「布瀬君…うちの企画、生徒会で取下げてよ」
「無理だな。基本、文化祭は実行委員会と生徒評議会(全級長集団)の運営・管轄で、俺らは最終チェック以外ノータッチ」
おまけに却下出来る程問題がある企画ではない。
そんな布瀬にフンと顔を背け、拓也はらしくなく悪態を吐く。
「お役所仕事ー。"管轄以外は知りません。" 税金返せー」
「おぉ…いつになく、たっくんの機嫌が悪い」
「拗ね方は可愛いが、言ってる事が黒いし支離滅裂だ」
「この場合、税金てなんだ…」
中橋・穂波・小野崎も口々にツッコミを入れる。
「そういや、藤井は賛否どっちに入れたん?」
穂波が藤井に聞くと、藤井は飄々と答えた。
「俺?俺は賛成…」
「うっ裏切り者ー!!」
まさか信じていた人まで賛成派に回っていたとは…!!
「没収!!」
拓也は藤井の飲んでいたペットボトルを奪って屋上の出入口に走り向かう。
「榎木!?」
「追っかけて来たら、一生絶交!!嫌いになるっ!!」
藤井君のバーカ!!と捨て台詞まで吐いて、拓也は校舎の中へと駆けて行った。
「榎木…相当ご乱心だな。言動が子供と化してる…」
去って行った拓也を見送りながら布瀬が言う。
「おい藤井。お前何で賛成なの?」
榎木の気持ち考えたら、普通反対派じゃね?と小野崎が聞くと
「アイツの性格からして、こういう企画でもない限りコスプレ紛いの姿は絶対見れないし、決まっちゃえば何だかんだ言ってもやるヤツだから」
「要は、見たいんだな、榎木の女装」
「そういう事」
顔色一つ変えずに言う藤井に
(もしかして、実は気付かなかっただけで、これは当日あてられるのでは…)
と一抹の不安が一同によぎったとか…。
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