お付き合い始めました!

一方榎木家――。

「拓也、最近楽しそうだな」
「え? うん。学校楽しいよー」

夕飯と片付けを終え、リビングの座卓テーブルでお茶をすすりながらの一家団欒。

「それは良かった。……じゃなくて、それとは別に何かいいことでもあったか?」
「え? えっと……うん」

ちょっと前まで何かに悩んでいる感じに見えた息子が、最近はとても楽しそうな雰囲気で過ごしているので、軽い気持ちで訊いたのだが。

(お……、この雰囲気、もしかして……)

少し戸惑うように且つ、はにかむように返事をした拓也を見て、春美は何かに感づく。

「拓也、好きな子でも……というか、お付き合いしてる人でもいるのか?」
「なっ、ナイショっ!」

実がタイミングよく「お風呂出たよー」とリビングに入ってきたことをいいことに、拓也は「僕、お風呂入ってくるね!」とその場から逃げだした。

「え、おい!?」

春美が慌てたところで、拓也は既に脱衣所に籠ってしまっていた。



(バカか僕は。アレじゃ肯定してるようなモンじゃないかぁ……でも嘘はつきたくなかったし……)

湯船に浸かって顔半分湯に入り、お湯をブクブクさせながら、「お風呂出た後、どうしよう……」と拓也が考える一方で、春美は向かいの家にいた。

「拓也ー、肯定も否定もしないってことは、肯定してるようなもんだぞー」

缶ビールをグイーっと飲み干して春美はカンッとテーブルに缶を置いた。

「平日の夜に酒持って突然やって来たと思ったら、春美ちゃん、そんなこと……」
「えー拓也君、外も中もイケメンだもん。高校生なんだから、彼女の一人や二人いて当たり前じゃないのー」

成一と智子の前だというのにらしくなくグチる春美に、二人は半ば呆れるように言った。

「いや、智子ちゃん、拓也の性格からして二人はあり得ない。春美ちゃんは若い頃ブイブイ言わせてたけど」
「え……!? 春美ちゃん、そんな人だったの!?」
「おーもう、大学生の頃は遊びまくってて、いってー!」
すかさず春美のチョップが成一の脳天にヒットした。
「余計なことは言わんでよろしい。それになんだ『ブイブイ』って。今時そんな言葉使うヤツおらんぞ」
「うわー、春美ちゃん絡み酒ーっ」

グチを聞いてやってるのに何この仕打ちっ、と半泣きで縋る成一を智子は軽くあしらって一緒になって缶ビールを口にする。

「んーでも、拓也君なら、別に心配することないんじゃない? お付き合いも青春の1ページだよー。出来る人ばっかじゃないんだしさー」
「そうだぞー。それにさ、誤魔化したりぶっちゃけウソついても仕方ないところだろうに、素直に反応しちゃう辺り拓也じゃねーの。……春美ちゃんに対して、ウソ、つきたくなかったんだな、きっと」

半分はやし立てるように、半分真剣に言う二人の言葉を聞きながら、春美ももう1本ビールを開けた。

「うん。分かってる。良い子だろー拓也。だから寂しいんじゃないかー」

ビールをあおりながら言う春美の様子にもはや呆れる二人。

「娘ならともかく息子なのに、ただの子離れできてねぇ親父じゃねーか」
「私もいつか太一に恋人できたら、こんな風になるのかしらー」


拓也が意を決して風呂から上がると、春美の姿がなかった。
「実ー、パパはー?」
「おむかい行った」
「え、何で」
「さあ。ビール何本かもってったから、しばらく帰らないと思うよ」
(気まずくてお向かい行っちゃったか……)
頭をタオルで拭きながら、成一さん智子さんゴメン、と数時間後に酔っぱらって帰ってくるであろう父親を想像して心の中で謝る拓也だった。




おまけの藤井家。
「ところで、何で唐突に榎木君の話?」
父親が不思議そうに一加に言うと。
「んーだってホラ、ヒロちゃんのお兄ちゃんや森口君? とはまた違うじゃない、拓也お兄様って。うちにお嫁さんに来るなら、やっぱ拓也お兄様のような人がいいじゃない?」
「!?」
平然と言い放つ一加に、「何言いだすんだお前」と藤井は慌てたが。
「そーねぇ。榎木君みたいな子なら、お嫁さんに欲しいわよねー。掃除・洗濯も手慣れてるし、お料理も上手いんでしょ? それに、小さい子の面倒も見られるしね。何より可愛いし。目の保養保養」
「!!??」

嘘か真か、藤井家的には拓也の嫁入りは案外可能なのかもしれない。


-2015.04.13 UP-
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