cherish you...

そこから近くのシアトルカフェに3人で入った。
「実、何にする? お腹も空いてるんだろ?」
「うん。じゃー、アイスカフェラテとパンケーキにする。普通のケーキは、明日食べるもんね」
「あははーそうだね。じゃあ僕も、アイスのカフェラテにしよ」
レジでオーダーをし、拓也が支払いをしようとすると、二人の後ろにいた藤井が拓也の頭上からカードを差し出し言った。
「あ、お姉さん、それにアイスコーヒーのトール追加で、支払いこっち」
そのスマートさと言ったら、高校生の実にはマネ出来ない所業だし、レジのお姉さんも一瞬見とれていたくらいだ。
「は、はいっ。トールアイスコーヒー追加ですね」
「藤井くん! 僕たちのは自分で払うよ?」
「いいから。今日は俺が払うって決めてんの」

普段から対等でいたい拓也は、時に奢り奢られはするが、いつもは支払いは折半もしくは自分持ちと二人で決めている。
しかし今日は二人にとっては拓也のバースデーデートなので、藤井は自分がエスコートするのは当然だと思っているし、そこに実が加わったところで、それはブレるつもりは一切ない。

(ち、チクショウ! コレが大人のオトコというヤツか…!!)

受け取りカウンターへ移動しながら恨めしそうに横目で見遣る実の視線を、藤井は涼しく受け流す。

「でも、実の分も入ってるのに……」

拓也は自分が一緒にいて高校生の弟にお金を出させるなんてもっての外と思っているので何だか悪い気がしていたが、「じゃあ、今度何か奢って」と言う藤井に「うん」と納得した。

「ほら、実もちゃんとお礼言って」
「ごちそうさまです」
「おう」

ドリンクを受け取り空いている席へ着くと、程なくしてホカホカのパンケーキが運ばれてきた。

「わ、美味しそうー」
「兄ちゃんも食べる?」
「いいの?」
「うん」

ひと口大に切り分けて、「はい、あーん」と差し出す。

「お前ら……、兄弟でそれやるのか」
「? 藤井くんとこはやらないの?」
「やらねーよ」

友也と自分に差し替えてみて瞬時に後悔する。

「ないわー。マー坊と一加がやるんだったら……まあなくもないかもだけど」
「僕たちは、小さい頃からこんな感じだからかなー」
「ねー」

食べ盛りの実もそんな事気にしないーと、モリモリと食べ進めている。

「ま、お前ら二人だったら、違和感なくて微笑ましいわ」

半分呆れながらも二人の仲睦まじい様子をコーヒーを飲みながら眺め、この二人はずっとこんな感じなんだろうなーと藤井は思った。
(でも、もう少し、兄離れ弟離れした方がいいと思うけど)
ともこっそり思ったのは、言うまでも、ない。

お皿もカップも空っぽになって、三人で店の外に出る。

「じゃ、実、ここでいい?」
「うん。……藤井の兄ちゃん、ごちそうさまでした」
実がペコリと軽く頭を下げる。こういうところはちゃんとケジメをつける、拓也の躾の賜物である。
「どういたしまして」
「今日は……遅くなると思うけど、夜はカレー作ってあるからパパとチンして食べてね。実の好きなお肉ごろごろビーフカレー」
「ほんと!? わーい、兄ちゃんありがとー」
「うん。じゃ、気をつけて帰ってね」
「兄ちゃんこそ。藤井の兄ちゃん、頼んだからね」
「おう、任せとけ」

じゃねー! と手を振り、二人の前から素直に走り去る。
実とて兄の幸せがいちばんなので、少し二人の邪魔をしたら、悔しい気持ちはあるけどここは潔く身を引くのも、実の目指すカッコイイオトコの務めだ。

(よしっ。兄ちゃんの喜びそうなプレゼント、気合い入れて探すぞー!)

人混みに見えなくなるまで弟の後ろ姿を見送り、拓也は藤井を振り返る。

「実が突然ごめんね。ごちそうさまでした」
「いいって。……それより、」
「ん?」

藤井は少し屈んで拓也の耳元へ。

「今日、遅くなってもいいんだ?」
「へ……?」

思ってもみなかった質問に、拓也は思わず聞き返した。

「今、実に『遅くなるかも』って。しっかり言った」
「あ……う、」

今日は誕生日の前日だし、そういうつもりでいるのは暗黙の了解だと思っていたのに、改めて聞かれると狼狽えるのは当然である。
拓也の頬がカーッと火照る。

「かっ帰っていいなら帰るけど!!」

実の行った逆の方向へ踵を返し歩き出した拓也の腕を捕まえて。

「冗談。一番に『おめでとう』言わせてくれるんだろ?」

藤井に腕と一緒に心も捕まえられるのは、いつものこと。

「一番に『おめでとう』言ってくれるんでしょ?」

腕を振り払うことなく歩きながら見上げるその表情ははにかんでいて。

「25歳の拓也も、俺にくれるなら」
「……うん」


Happy Birthday dear my cherished ――.
この一年も素晴らしい日々でありますように……。


-2014.11.06 UP-
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