秋日和、紅葉山

散歩道の脇に並ぶ木々も見事だが、ひと際広くなっている広場に辿り着くと、そこはぐるっと紅葉や楓の木々に囲まれていた。
赤や黄色にしっかり染まっているものの中にまだ緑色が目立つ樹も織り交ざり、それは味わい深いコントラストとなっていた。
そんな中、樹の下で写真を撮ったり、隅の方に特設されているテーブルで食事を摂ったりと、人もごった返している。

「んー、これだけ賑やかだと情緒も何もないなー」
「桜の花見も似たようなモンだろ」
「でも、やっぱりキレイだよね」

携帯で鮮やかに色づいた紅葉の樹を撮影しながら、拓也はほっこり笑んだ。

「拓也、拓也。ラーメン食おうぜ」
広場に続く道すがら、食べ歩きに適したジャンクフードの出店が立ち並んでいたが、広場の入り口には、うどんやラーメンの麺類やおにぎり、地元で採れる川魚の塩焼きなど、しっかり食事を摂れるメニューを扱う店も出ていた。
「そうだねー、そろそろお昼?」
「腹も減ってきたしな」
「じゃ、二手に分かれて、並ぶのと場所取りな」


運良くファミリーが使っていた場所が目の前で空いて、4人分の席が確保できた。
「ラッキーだね、藤井君」
「だな」
向かい合って座って、それぞれ隣の席に荷物を置く。
そして拓也は携帯を取り出し、操作をし始めた。
普段、誰かといる時にそんなに携帯を弄るタイプではないので、藤井は思わず声をかけた。
「メール?」
「うん。折角だから父さんに、さっき撮った写メ送ろうと思って」
見て見て、キレイに撮れてるでしょ、と添付しようとしている画像を見せてくる。
(あ、「父さん」になってる……)
学校や友達、そして藤井といる時、拓也は父親のことを「父さん」と言っているが、先ほどは「パパ」と言っていた。
恐らく、後藤の「パパリン・ママリン」呼びに釣られたのだと思うが。
でも、確か自宅では藤井がいても家族がいる時は「パパ」と言っているし、小学生の時からそう呼んでいたことも藤井は知っている。
流石に外で「パパ」は恥ずかしいと思っているのか、外では意識しているようだが。
「俺の前でも、自然でいいのにな」
パパ呼び可愛いじゃねーか、と藤井は思い、すました顔をしていた。
「は?」
突然脈略もなく呟かれたことに的を得ず聞き返している拓也の後ろで、ラーメンを二人分ずつ運んできた森口と後藤が「デレてるぜ」「今度は何やらかしたんだ拓也」とヒソヒソ話をしていた。




食事を終え、もう暫く散策をして陽が傾きかけた夕方。
ライトアップもあるが、一応一周したし、帰りが遅くなることと冷え込みも厳しくなることもあり、まだ陽があるうちに帰ることにした。

「帰りは後藤、俺と座ろうぜ」
「あ? 何で」
「何でも」
 
電車が来ると、森口は後藤の腕を掴み、空いてる席に腰をおろした。

「森口君。別に気を遣わなくてもいいよ」
「んーだって、途中で席替えメンドイじゃん」
「……?」

腑に落ちないといった表情で、後藤の向かいに腰をおろす拓也だったが、その答えを拓也以外は1時間後に理解することになる。


「……榎木、眠いのか?」
「んー……?」

口数少なく、ぼーっと窓の外を眺める拓也の肩が時折大きく揺れる。

「じゃ、俺ら席の向き替えるから。肩貸すんだろ」
「……そーいうことか」
藤井と後藤が同時に言った。
「別に、後藤がその役でもよかったんだけど」
「やめてくれよ。藤井の前じゃ恐ろしくてできねーよ」
「させねーよ」
「だろ?」
背もたれをガコンとスライドさせ、向きを同じ方向へ向ける。

「榎木、寝るならこっち。頭寄っかけろ」
「んー」

コテンと素直に頭を寄せ掛ける。
恐らくもう意識の半分以上は飛んでいて、後藤や森口が一緒にいることは忘れているに違いない。
そんな無防備な拓也が堪らなく愛しい。
そっと、唇に自らのそれを触れさせた。

「なあ、あき……」

通路脇から顔を覗かせた森口がうっかりそのシーンを目撃してしまったことは、彼の胸の内にだけこっそりしまうこととなった。


数分後――――
「昭広ー」
今度は振り向かず声だけで。
「あ?」
「俺らも寝るから、お前責任持って起きてて着いたら俺ら起こせよー」
「寄り添って寝るのか?」
「ねーよ!!」

二人のユニゾンが聞こえ、軽く笑う藤井だった。


-2014.10.27 UP-
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