もっと甘えていいから

ちょっと寄り道しようかと、駅前の公園へと足を運ぶ。

「藤井君の気持ちは嬉しいけど、余り僕を甘やかさないでね」
「甘えて欲しいんだけどな」

藤井は公園の入口の自販機で買ったココア缶を開けて、拓也に渡す。

「うん。だから、こういうちょっと力のいる事や両手じゃないと難しい事は、お願いするよ」
缶をありがとうと受け取りながら、拓也はベンチに腰を下ろした。
藤井も隣に座って、自分の缶コーヒーを開ける。
「ま、なるべく手を出さないようにはするけど…」
不満そうに言う藤井に、拓也は「あ、そうだ!」と告げた。

「授業のノートはコピーさせて欲しいな。きっと板書間に合わないし」
「ん。分かった」
「ホント?明日、早速古典あるけど、寝ないでノート録ってね?」
少し揶揄うようにクスクス笑って言う拓也に
「言ったな?絶対完璧にノート録ってやる」
とちょっとムキになって答える藤井。
「えーホントかなぁ」
尚もクスクス笑う拓也を睨みつけ、藤井は拓也の右手を取る。
「藤井君?」
すると、巻かれた包帯の先から露(あらわ)になっている指先に唇を落とした。
「ふ、藤井君!」
慌てて手を引こうとする拓也を、藤井はそれを許さず。
今度は包帯の上から掌と手首に唇を触れさせた。

「ホントは榎木ン家泊まり込んで、着替えや風呂も手伝いたいくらい」
「な…っ!!」

今度は俺が揶揄う番だとニッと笑う藤井に、拓也はまんまとハマる。
「それか、ウチに連れて帰ろうか?」
「じょ、冗談!!」
「ウチは構わないけどな」

寧ろ、ウチの家族は皆 榎木なら大歓迎だぜ♪とケラケラ笑う。
そうしながら、真っ赤になって「藤井君!」と抗議をする拓也の頭を胸に閉じ込めた。

「早く…治るといいな」
「…うん。皆に迷惑と心配かけちゃうもんね」
「そういう事は考えないでよし!」
「ぶっ」
拓也の鼻をギュッとつまんで、すぐ周りに気を遣うと咎める。

「もっと、こういう時くらい、周りに甘えろよ」
「うん。ありがとう」

藤井の言葉が嬉しくて。
拓也の心がじんわりと暖かになる。
そうなると、表情も穏やかになり、それは藤井の好きな拓也の表情の一つでもあった。

藤井は空になった缶をごみ箱に投げ入れ、「帰るか」と拓也に手を差し出す。
拓也も素直にその手を取り「うん」と立ち上がる。


「さて。暫く包丁持てないから、折角だし家事からの開放を満喫しよーっと」
藤井の前を歩いて、両腕を大きく伸ばし伸びをする拓也に、藤井は思わず吹き出す。
「相変わらず、16歳男子とは思えねぇ発言」
「むっ。どうせ所帯染みてるよ。慣れっこだよ」
ぷいっと横を向く拓也に藤井はクスリと微笑み。
「じゃあ…」
と手を伸ばし肩を抱く。

「その開放されて出来た時間は、俺が構い倒していい?」
「はっ!?」
「甘えるって言ったじゃん」
「言ってないし、甘える意味も違うよ!」
「違わない。さあ帰ろうサクサク帰ろう」
「~~~~っ、藤井君!!」


完治までの二週間、拓也はいろんな意味で甘やかされたとか。



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Title:恋したくなるお題様より拝借


-2013.06.16 UP-
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