世界中の誰よりきっと
丁寧にチケットをカバンにしまおうとする拓也の右手首をやんわりと掴むと、きょとんとした丸い目が自分に向けられ、それが可愛いと藤井は思った。
「どうせなら、パークの方へ行かないか?」
「え……?」
事の起こりは、1組のペアチケット。
入手経路の説明は置いておいて、拓也のもとにオーケストラの鑑賞チケットがあった。
吹奏楽だとかオーケストラだとか特段興味があるわけではない。
ただその演奏内容というのが某大型テーマパークの公式楽団によるもので、普通にイメージする堅苦しい演奏会というわけでなく、プログラム内容もパークへ行けば必ず耳にする陽気なものや、その企業が手掛ける映画の壮大な物語に使われている主題歌といった、子供でも楽しめる内容のようだ。
ただ拓也はともかく、藤井がこの手のものに付き合うとはとても思えなかった。
何故ならば、音楽でのクラシック鑑賞の授業は決まって居眠りしているのは、小学生の頃から目撃している。
それでも、声をかけてみたのは、日にちに理由があった。
(10月10日――――)
拓也の誕生日。
本来ならこの楽団のチケットは、人気が高く入手困難だと聞く。
偶然と言えど、誕生日に公演のチケットが巡り巡って自分のところに来たのは、何だか不思議な気持ちがしたのだ。
でも――……。
「あー、行ってもいいけど……俺多分、というか絶対寝るぜ? しかも学校終わった後だろ?」
「……、そ、だよね」
分かってはいた。
平日でもあるし半分以上玉砕覚悟での誘い、でも日付けに気付いて、もしかしたら、という淡い期待もしていなかったと言ったらウソである。
でもやはり、予想通り……ではなく、端から「嫌だ」とは言わず一応は「行ってもいいけど」と建前でも言ってくれたことに拓也は笑みを漏らし、少しだけ浮かばれた気がした。
「誰か貰い手いないかなー。折角のチケット、ムダになっちゃう…」
「なぁ」
「ん?」
チケットをしまおうとする拓也の右手首を掴み、提案を一つ。
「どうせなら、パークの方へ行かないか?」
「え……?」
今年の10月10日は金曜日。
次の日は学校は休みの為、心置きなくパーク閉園まで遊べる。
夕方からの入園チケットを事前に買い、学校が終わってから直接パークへ向かう。
着替えは持って来ていて、駅のトイレで私服に着替えた。
「そういえば、藤井君に預けたコンサートのチケット、誰かに譲ったの?」
パークに向かう途中の電車内、拓也は譲渡先に心当たりがあると言う藤井にチケットを託したことを思い出し訊いた。
「あぁ、浅子姉に売った。彼氏と行くって喜んでたぞ」
「へ~!それはよか……売った!?」
拓也自身、そのチケットを譲り受けたもので一銭たりとも使っていないので、藤井の売却発言に狼狽えた。
「浅子さんに悪いよー。僕そんなつもりなかったのに……」
「いいって。なかなか手に入らないチケットみたいだし、定価よりは安くしといたから、却って喜んでたぞ」
「そんな……」
「姉貴は格安でチケット、こっちは今日の軍資金。利害の一致。気にするな」
尚も気にするような表情でいる拓也に藤井はそう言い「ほら、ずっとそんな顔でいるのか?」と拓也の両頬を軽く引っ張った。
「なっ、なにふんの!!」
「そうそう、その顔」
「藤井君!!」
どんな顔だよ、もう!と両頬を指先でさすり言いながらも、車窓にパークのエントランスが見え始めると途端に気持ちがワクワクと踊り始めた。
「閉園まで数時間だけど、楽しもうぜ」
「うん!」
程なくして停車した電車からホームに降り立つ。
(そうだよ、折角の藤井君との誕生日……思いっきり楽しもう)
拓也は心の中で呟いて、藤井と共にパークのエントランスへ向かった。
「どうせなら、パークの方へ行かないか?」
「え……?」
事の起こりは、1組のペアチケット。
入手経路の説明は置いておいて、拓也のもとにオーケストラの鑑賞チケットがあった。
吹奏楽だとかオーケストラだとか特段興味があるわけではない。
ただその演奏内容というのが某大型テーマパークの公式楽団によるもので、普通にイメージする堅苦しい演奏会というわけでなく、プログラム内容もパークへ行けば必ず耳にする陽気なものや、その企業が手掛ける映画の壮大な物語に使われている主題歌といった、子供でも楽しめる内容のようだ。
ただ拓也はともかく、藤井がこの手のものに付き合うとはとても思えなかった。
何故ならば、音楽でのクラシック鑑賞の授業は決まって居眠りしているのは、小学生の頃から目撃している。
それでも、声をかけてみたのは、日にちに理由があった。
(10月10日――――)
拓也の誕生日。
本来ならこの楽団のチケットは、人気が高く入手困難だと聞く。
偶然と言えど、誕生日に公演のチケットが巡り巡って自分のところに来たのは、何だか不思議な気持ちがしたのだ。
でも――……。
「あー、行ってもいいけど……俺多分、というか絶対寝るぜ? しかも学校終わった後だろ?」
「……、そ、だよね」
分かってはいた。
平日でもあるし半分以上玉砕覚悟での誘い、でも日付けに気付いて、もしかしたら、という淡い期待もしていなかったと言ったらウソである。
でもやはり、予想通り……ではなく、端から「嫌だ」とは言わず一応は「行ってもいいけど」と建前でも言ってくれたことに拓也は笑みを漏らし、少しだけ浮かばれた気がした。
「誰か貰い手いないかなー。折角のチケット、ムダになっちゃう…」
「なぁ」
「ん?」
チケットをしまおうとする拓也の右手首を掴み、提案を一つ。
「どうせなら、パークの方へ行かないか?」
「え……?」
今年の10月10日は金曜日。
次の日は学校は休みの為、心置きなくパーク閉園まで遊べる。
夕方からの入園チケットを事前に買い、学校が終わってから直接パークへ向かう。
着替えは持って来ていて、駅のトイレで私服に着替えた。
「そういえば、藤井君に預けたコンサートのチケット、誰かに譲ったの?」
パークに向かう途中の電車内、拓也は譲渡先に心当たりがあると言う藤井にチケットを託したことを思い出し訊いた。
「あぁ、浅子姉に売った。彼氏と行くって喜んでたぞ」
「へ~!それはよか……売った!?」
拓也自身、そのチケットを譲り受けたもので一銭たりとも使っていないので、藤井の売却発言に狼狽えた。
「浅子さんに悪いよー。僕そんなつもりなかったのに……」
「いいって。なかなか手に入らないチケットみたいだし、定価よりは安くしといたから、却って喜んでたぞ」
「そんな……」
「姉貴は格安でチケット、こっちは今日の軍資金。利害の一致。気にするな」
尚も気にするような表情でいる拓也に藤井はそう言い「ほら、ずっとそんな顔でいるのか?」と拓也の両頬を軽く引っ張った。
「なっ、なにふんの!!」
「そうそう、その顔」
「藤井君!!」
どんな顔だよ、もう!と両頬を指先でさすり言いながらも、車窓にパークのエントランスが見え始めると途端に気持ちがワクワクと踊り始めた。
「閉園まで数時間だけど、楽しもうぜ」
「うん!」
程なくして停車した電車からホームに降り立つ。
(そうだよ、折角の藤井君との誕生日……思いっきり楽しもう)
拓也は心の中で呟いて、藤井と共にパークのエントランスへ向かった。
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