今宵、ほろ酔いにつき...

人は見かけによらず…とはよく言うけども。
第一印象とか、その人の醸し出す雰囲気とか、それもやっぱり大事なことだが、やっぱり真の人柄なんかは付き合ってみないことには分からないもので。
例えば、俺の親友の仁志は、小学生の頃から児童会会長なんかやって頼れるリーダーシップだけど、実は結構手抜き上手だったり俺に対しては遠慮がなかったり(まあ、これはお互い様だけど)。
例えば、恋人の親友の後藤は、いい加減なヤツに見えて、実はしっかり周りが見えていて特に人付き合いに関しては意外に気配りができるヤツだったり。
例えば、恋人の拓也は、柔らかい雰囲気を持っている割には頑固だったり。器用そうに見えて、不器用だったり(真面目すぎるという意味で)。未だに周りが呆れるほどのブラコンだったり(実優先なことだって未だに多数)。

――――お酒にものすっごく強かったり。


「その見てくれで、酒豪とか、詐欺だ」
「は?」

4月終わりから5月頭にかけての、大型連休。
相変わらず仲良し一家の榎木家は、後半は家族旅行というので、前半は俺に付き合ってもらっている。
といっても、旅行に行くわけでもなく(その理由は、GWといっても社会人と違って学生はカレンダー通りの休日な為、前半は当然殆ど学校の実を差し置いて自分だけ遊び回るのは気が引けるという、実に拓也らしい理由だ)、いつもの休日と同じように食事をしたり、それでも今日は日帰りでちょっと遠出をして、そのまま俺の部屋に泊まってもらったり。
だったら、旅行に行ってもいいような気はするが、まあ、気分的な問題で、万が一いつでも家に帰れる距離にいたいということなんだろうな。

「お酒の強さに、外見関係ないじゃん」

華奢な体つきと親譲りの童顔で、実年齢より若く見られることにコンプレックスを持つ拓也は、チューハイの缶を片手に俺を睨みつけた。
社会人になって3年目、今でこそやっとなくなったが、成人後も学生の間は、居酒屋やコンビニでアルコールを買う時など、しょっちゅう年齢確認の為に身分証提示を強いられてきた。

「いや、だって、パッと見 絶対弱そうなのに」

そんなだから、ちょっと飲めばほんのり頬が染まって、ほわんとしそーだなー、どんな風に酔うんだろう、笑い上戸?泣き上戸?意外に絡み酒?寝ちゃう?脱いじゃう?誘っちゃう?と、法律上お酒解禁になった頃、いろいろ妄想を駆け巡らせたりしたもんだけども。

実際飲ませてみたら、酔い潰れるどころか、先に潰れたヤツを介抱する程の逞しさだった。

まあその分、俺と一緒じゃない時の大学での飲み会だとかは、余計な心配をしないで済んだのだけど。
(酔った輩に襲われそうになったところで、本人さえしっかりしていればその辺は信頼しているし)

俺はまあ、アレですよ。兄貴からの早期教育のお陰で、やはり結構耐性が出来ていまして。

そんな俺たち、二人で飲んでいると、結構深酒になったりもする。

「拓也がお酒に飲まれたら、どんな風になるんだろーって、結構楽しみにしてたんだけど俺」
「残念でした。その辺、父さんに似たみたいなんだよね。よく父さんの会社の人たちがうちにお酒持って遊びに来るけど、毎回結構飲んでる割には、給仕したり介抱したりだよ」
二日酔いにはなるけど、いい気分になって上機嫌になる程度で、酔って人格が変わったりだとかは見たことないと、拓也が言う。
だから恐らく、拓也が酒に強いのも遺伝。

顔色も変わらず、お酒なんか飲んでいるとは思えない。恐らくこのまま車を運転していても、疑われはしないだろう(飲酒運転なんか絶対しないけどな)。

適当につけてるTVを観ながら、既に空けている缶は5~6本。

「藤井君が飲んでるそれ、美味しい?」
「ん?おぉ。ちょっと甘め」
飲む?と差し出すとニコニコとうんと受け取り、ひと口。
その煽って晒け出た上下に動く滑らかな喉元に、軽く欲情したことを自覚。
あー、先に酔うのは、ホンット不本意!!

「ほんとーおいしー甘ぁい」

ありがと、と返された缶を受け取り、そのままテーブルへ。

「なぁ」
「ん?」
「お前、ホントに酔わないの?」

キョトンとした顔で振り向いた拓也の口には、短いスティック状のスナック菓子。
菓子の先をつまんでいた指先の手首を掴んでそこから離し、その部分を咥える。

「ふ!?」

恐らく折られることは分かっていたので、自分から折ってそのまま唇を塞いでやった。
咥えたままになってるそれを舌先で口の中に押し込んで、上唇をちゅっと吸い上げて離す。

「なぁ?」

そして、何事もなかったように、もう一度問う。

すると、かぁっと頬の色が変わり、たどたどしく答えた。

「ふ、藤井君と二人きりの時だけは、酔えたら楽なのに……って、思うことは、ある」

酒飲んでも顔色一つ変えないのに、こういう行為では瞬時に染まる頬。

「ほんとは…凄く抱きつきたい気分になるんだ。でも、理性が働いて思いとどまるんだけど…。多分、意識飛ぶまで飲んだら、抱きついちゃうと思う……」

言っちゃった…と、顔を赤くして俯く拓也に、俺は正直驚いた。

「マジで?」
「うん」
「それは…相手は不特定で?」
「わ、分かんない…から、多分、自分でも無意識に酔う前にセーブしてるんだと思うんだけど…」
見境なくなるまで飲んだことないから分からないよ、と言う。

「ハグ魔かぁ」
何とも可愛らしい酔い方で、思わず笑ってしまった。
「確かに、他の連中と一緒の時は、それは困るなぁ」
拓也が俺以外の誰かをハグするなんて、考えただけでもソイツを張っ倒したくなる。

「今は?」
「え?」
顔を上げて、俺を見る。
「今は、どんな気分?」
「……」
「今は二人っきりだから、理性取っ払ってみ?」
「……、今は…」

すると、おずおずと両腕を伸ばして。

「こんな気分」

俺の両脇から腕を通してギュッと抱きしめられた。

「拓也が酒に強くて良かったよ」

こんなこと、他の連中にさせてたまるか。



しかし、本当に「ハグがしたい」ってだけのようで、俺をぎゅーっと抱きしめたまま、微動だにしない。
さながら、小さい子供がでっかいテディベアに抱きつくが如く。
「拓也、この先は?」
「やー。このままギュッてしてて」
「……酔ってる?」
「誰のせい?」
最後の箍を外したのは俺ってことか。
今度は俺の方が、理性との戦いになった。
とは言っても、そんな不毛な我慢など、そうそう長くは持つわけもなく。
拓也を抱き抱えたまま、それでも拓也のハグ欲(?)が少しでも長く満たされるように、飲みかけのチューハイを時間をかけて飲み干した。
さてそろそろ、俺も酔いに任せてみようか。

「拓也」

呼び掛けて、ずっと俺の胸元に埋めていた顔を上げさせる。

「今度は、俺の番」
「え……、んっ」


たまにはこんな、ほろ酔いの夜を。


-2014.05.04 UP-
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