無自覚リア充爆発しろ。

新緑が深まり、高校生活にもだいぶ慣れてきた5月。
自宅の最寄り駅から3駅の学校は、遠すぎないから朝は余裕が持てるし、近すぎないから帰りはそこそこ寄り道できる場所もある、なかなか青春を謳歌するには絶好の距離感。

「森口君、おはよう」
「よーっす拓也」
「やっぱり僕たちが先だね」
「まあひと月も経てば、各々のリズムも定着するっしょ」

一応、この時間の電車に乗る、ということで、それに間に合うようにそれぞれ家を出て改札を通った先で待ち合わせるのが、俺たちの定番。
大体俺が一番早く来て、程なくして拓也(恐らく家を一番早く出てるのは拓也だろう)、そして電車が来る5分前位に昭広が気怠そうにやってきて、ギリギリに後藤が全力疾走で滑り込むというのが、このひと月で定着した朝の光景。
どんな因果かクラスも奇跡的に4人一緒なもんだから、小学校からの腐れ縁も、いよいよ本物といったところだろう。

「お、来た来た、昭広ー」
「おはよー藤井君」
「あー……」
「お前の挨拶は欠伸か。ったく、毎日毎日」
「榎木ー、仁志が朝から煩い……」
「藤井君……重い」

両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、拓也の肩に項垂れる昭広を、拓也は苦笑しながら支える。

「藤井君、何でいつもそんなに眠いの」と言う拓也に「あー昨夜は…ゲームやってたら、いつの間にか夜中3時に……」と半分寝ぼけた状態で昭広が答える。

「さ、3時!?」
「おい、まさかそれって…」
嫌な予感がして聞き返す。
「おー、お前から昨日借りたヤツ。やっぱ面白いよなーあのシリーズ」
やっぱり…そしてお前はそのまま拓也に凭れ掛かったまま寝る気か!?
「森口くーん…、ダメだよ、平日なんかに藤井君にゲーム貸しちゃぁ……」
じぃっと、非難するような目つきで拓也が俺を見るが。
「はっ!? 俺のせい!? ガキじゃないんだから自己責任だろそんなのー!! って、オイコラ、起きろっ昭広!」
「うるせー頭に響く…」
「夜中までやるバカいるか!バーカ!!」
「おい、何ガキみたいに騒いでるんだよ、朝っぱらから。そして何で藤井は拓也に引っ付いてんの」

一応というかやっぱりというか、走ってきたらしく少し息が上がった状態で後藤がやって来た。

「ゴンちゃん!おはよー」
そして、丁度電車が到着する旨のアナウンスが流れる。
「お前、ある意味正確だよな、現れる時間」
「時報の男と呼んでくれ」
「ヤだよ」

自分を親指でさしながら得意げに言う後藤をバッサリ切り捨て、間もなく来る電車に乗り込むべく拓也に凭れ掛かったまま微動だにしない昭広を叩き起こした。




4人一緒のクラスといえど、常に一緒にいるわけでなく、そこは小学生の時と変わらずというか、教室移動や昼飯の時以外のちょっとした時間は、特に用事がなければ拓也は後藤と一緒にいて、俺は昭広と一緒にいることが多い。

「んで、夜中3時まで励んだ結果、どこまで進んだよ?」
「あーっと、3章のダンジョンとこ?」
「あぁ、あそこねー。レベルは?」
「今、雑魚相手に経験値稼ぎ中」

まあ、男子高校生らしくゲームの話。
小学生の頃と変わってないって?こんなもんだよ、オトコは。じゃなかったら、アレだ。
思春期特有の、お年頃な、話題。
その話題に触れそうな格好なネタが、今丁度あそこに。

「お、拓也、女子と話してる」

ふと、拓也と後藤の方に視線をやると、女子数人に話しかけられているところだった。

「あーして見ると、やっぱ拓也って爽やかだしモテるよなー」

小学生の頃から可愛らしい感じが強かったが、成長と共にその柔らかい雰囲気はそのまま、女子から見たら清潔感が漂う爽やかな好男子といった感じだ。
ただそれは、女子から見た評価であって(実際そういう話をクラスの女子がしていた)、男子から見たら、何ていうかその……一歩間違っても悔いはないと思わせるような、ぶっちゃけ危ういのだ。

スラッと伸びた手足は長く、身長は小柄な子はもちろん平均的な女子から見たら程良く高く、ちょっと高さのある男子から見たら程良くコンパクト。
親譲りであろう童顔な顔も、甘いマスクとはああいう類いなのだろう、同じ男から見ても可愛い。
加えて素直に喜怒哀楽を表すので、その笑顔は男女共に折り紙付きだ。
同級生の広瀬も美形と言われているが、あっちは可愛いというよりはキレイという方が合っている。
おまけにあっちはよっぽど気を許した相手でなければ無愛想だから、付き合い薄いと少し冷たい印象もある。
ついでに昭広は、普通に男らしいイケメンとは、同じクラスの女子評価。
ただ単に自分に興味がないことにはトコトン無関心なだけなのに、「クール」と言われて良評価になるのはイケメンの特権だよな。
あ、俺?俺は頭脳明晰でメガネのイケメンと、評価を頂いています有難う!
(後藤は触れてやってくれるな、まずは性格よりも外見重視の女子高生の評価は酷だ)

「何話してんのかな」
女子が何か言ったことに対して、拓也が顔の前で両手を振って言葉を返している様子。
「さぁ?」
興味ねーと呟きつつ、広げていただけで見ていなかった雑誌をペラペラ捲る姿は、傍から見たらこれぞ安定の「クールな藤井君」だけど、俺から見たら、明らかに気にしている。
伊達に長年親友やっていないのだ。
「素直じゃないねー」
「何がだよっ」
ちょっと語尾を荒げて顔を上げる昭広にニヤリとする。
ホラ、な?全然クールじゃない。即ち、拓也は昭広の興味対象=好きなヤツ。
「俺に隠し事なんざ、100年早ぇよ」
4限目開始のチャイムが鳴る。
「この後の昼、拓也に訊いてみるかー♪」
「おい仁志……」
動揺する昭広をそのままに、俺は自分の席に戻った。
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