Triangle-Ravviare
自宅の最寄り駅に着き、改札に向かおうとした時。
(あ…)
ずっと繋がれていた手がするっと離れた。
「友也さん…」
「今日は本当にサンキューな。ホラ、本命が待ってるぜ」
改札の向こう側には、人ごみの中に藤井の姿。
「藤井君…!」
「ほら、早く行ってやれよ」
拓也は友也に向き直りペコリと頭を下げて、改札を潜った。
「藤井君!」
「榎木」
人ごみを掻き分けて走り寄って…
「ただいまっ」
満面の笑顔で見上げる拓也に、藤井はホッと安堵の笑みを零し言った。
「おかえり」
「一度、俺んち寄って着替えないとな」
駅から出て言う藤井に、拓也は少し戸惑いながら言ってみる。
「折角だから…このまま少し…デートしたい…」
そう言いながら、スルリと藤井の腕に自分の手を絡める。
「榎木!?」
「藤井君がよければだけど」
腕に手を絡めたまま俯く拓也に驚きながらも、藤井は「いいに決まってるだろっ」と慌てて応えた。
流石に地元でこの姿を知っている人に見られたら恥ずかしいということで、再び電車に乗り、ふた駅程先まで出向いた。
「俺はいいけど…お前の方こそよかったのか?そのままの姿で出歩くなんて…」
夕飯時になり、ファストフード店で軽く腹ごしらえ。
「わっわざわざこういう恰好するのは抵抗あるけど…今日は成り行きでこうなったし…」
食べ終わったハンバーガーの包みを丁寧に折り畳みながら、藤井に顔を隠すように拓也は視線を手元に落とす。
「僕だって、堂々と藤井君と腕組んで歩いてみたいなーって…」
その言葉を聞いて、藤井はガタッと席を立った。
「行くぞ!榎木」
「え?」
「時間が許す限り、デートしよう」
照れた顔を拓也に背けながらも、目の前に腕を差し出す藤井を見上げ、拓也もはにかみながら「うん!」と立ち上がり、その腕に指を絡めた。
書店やCDショップを覗いたり、閉店時間までショッピングモールをぶらついたり。
いつも一緒に出かける時としていることは変わらない。
ただ、いつもと違うのは、どうしても人前でははばかれる手や腕を今日はしっかり繋ぐことが出来ること。
別にそこに普段不満があるわけではないが、普通のカップルが普通にしていることを目の当たりにすると、全く羨む気持ちがないわけではない。
相手への気持ちが大きい程、触れていたいと思うのは至極当然のことなのだ。
いつもとちょっぴり違うデートを堪能した二人は、地元へ戻り藤井家へ向かい歩いていた。
「兄貴と…」
「え?」
人気のない住宅街を歩き、口数が減っていた二人の間に流れていた沈黙を破るように、不意に藤井が口を開いた。
「兄貴と腕組んで歩いたのか?」
「う、ううん!?」
首をぶんぶん振って勢いよく否定をする。
「手…は繋いだけど…」
「手…くらいなら、仕方ない、か」
恋人役だったんだもんな、と自分に言い聞かせるように言う藤井の言葉に被せるように拓也は言った。
「あ、でも、こーやっては、繋いでない」
互いの指先を絡めて、所謂「恋人繋ぎ」。
その繋がれた手を顔の高さまで持ち上げて、拓也はヘヘと笑う。
「腕も…今日藤井君が初めてだよ」
「なんだ…」
小さく息を吐いて藤井はポツリと呟く。
「てっきり、兄貴と腕組んだから、そういうこと言い出したのかと思った…」
「ち、違うよっ。ただ…今日、友也さんに女の子みたいにエスコートされて、藤井君とそういう風な…デートみたいな?感じに出かけたことなかったなーって…まあ、普段ではムリな話だけど」
「してみたかった?」
「そりゃ…勿論…でもだからって、女の子とデートしたいんじゃなくて、したいのは藤井君とだからで…って、あれ?」
何言ってるんだろ…と、自分で言ってることの大胆さに気付きてんわやんわしてる拓也を見て、藤井の口角が自然と上がる。
「俺もだよ」
「藤井君?」
「俺も、触れたいのも、一緒にいたいのも、お前だけだ」
拓也の頬にそっと触れて、反対側の耳元に唇を寄せる。
「触れたい」
「ダ、ダメだよ、ここじゃ…」
「ここじゃなきゃ、いいのか?」
「そーいう意味じゃなくて…っ」
グイッと腕を引かれ、入っていくのは住宅の間の路地裏。
入ったと同時に、塀と藤井の間に閉じ込められ、唇を塞がれる。
「…んっ」
二人の間に銀糸が伝い、深く甘い口づけに意識が朦朧とする拓也の耳に届いた言葉。
「お前が兄貴に一日連れられて行くのを、俺が平気でいたと思うか?」
その言葉に、拓也は目を見開く。
「藤井君…やきもち、妬いてくれたの?」
「当たり前だろ。こんなこと、二度とゴメンだ」
ただでさえ嫌なのに、更にこんな恰好させられてるし、と拓也の肩口で項垂れる藤井に、拓也はクスリと笑う。
「何、笑ってるんだよ」
「だ、だって……僕も一緒だったから」
「榎木?」
藤井が拓也の肩から顔を上げると、目を細めてじっと見ている拓也の瞳とぶつかる。
「友也さんと一緒にいる時、ここにいるのが藤井君だったらなーって思っちゃってた」
折角こんな恰好してるのにって。
「友也さんには悪いけど…」
とちょっと苦笑しつつ言う拓也に藤井は
「じゃあ、またこの恰好して二人で出かける?」
と言ってみる。
「ジョーダン。別に女の子の恰好をすることを、肯定したわけじゃないよ」
クスクス笑いながら、「行こうか」と再び手を繋ぐ。
――――いつもと違う相手と恋人として過ごして過ごされて、互いに自分の気持ちを再確認した二人であった。
―2014.01.23 UP―
・補填・
前半、友也が藤井に耳打ちした内容。
友也 「今日一日終わったら、拓也君のこの服・ウィッグ・靴(歩きやすいフラットシューズ)一式お前に全部やる。どう使おうとお前の自由」
からの↓
藤井 「…………榎木、一日兄貴を頼む」
拓也 「!? 藤井君!? 何言われたの!?」
藤井 「......秘密」
(あ…)
ずっと繋がれていた手がするっと離れた。
「友也さん…」
「今日は本当にサンキューな。ホラ、本命が待ってるぜ」
改札の向こう側には、人ごみの中に藤井の姿。
「藤井君…!」
「ほら、早く行ってやれよ」
拓也は友也に向き直りペコリと頭を下げて、改札を潜った。
「藤井君!」
「榎木」
人ごみを掻き分けて走り寄って…
「ただいまっ」
満面の笑顔で見上げる拓也に、藤井はホッと安堵の笑みを零し言った。
「おかえり」
「一度、俺んち寄って着替えないとな」
駅から出て言う藤井に、拓也は少し戸惑いながら言ってみる。
「折角だから…このまま少し…デートしたい…」
そう言いながら、スルリと藤井の腕に自分の手を絡める。
「榎木!?」
「藤井君がよければだけど」
腕に手を絡めたまま俯く拓也に驚きながらも、藤井は「いいに決まってるだろっ」と慌てて応えた。
流石に地元でこの姿を知っている人に見られたら恥ずかしいということで、再び電車に乗り、ふた駅程先まで出向いた。
「俺はいいけど…お前の方こそよかったのか?そのままの姿で出歩くなんて…」
夕飯時になり、ファストフード店で軽く腹ごしらえ。
「わっわざわざこういう恰好するのは抵抗あるけど…今日は成り行きでこうなったし…」
食べ終わったハンバーガーの包みを丁寧に折り畳みながら、藤井に顔を隠すように拓也は視線を手元に落とす。
「僕だって、堂々と藤井君と腕組んで歩いてみたいなーって…」
その言葉を聞いて、藤井はガタッと席を立った。
「行くぞ!榎木」
「え?」
「時間が許す限り、デートしよう」
照れた顔を拓也に背けながらも、目の前に腕を差し出す藤井を見上げ、拓也もはにかみながら「うん!」と立ち上がり、その腕に指を絡めた。
書店やCDショップを覗いたり、閉店時間までショッピングモールをぶらついたり。
いつも一緒に出かける時としていることは変わらない。
ただ、いつもと違うのは、どうしても人前でははばかれる手や腕を今日はしっかり繋ぐことが出来ること。
別にそこに普段不満があるわけではないが、普通のカップルが普通にしていることを目の当たりにすると、全く羨む気持ちがないわけではない。
相手への気持ちが大きい程、触れていたいと思うのは至極当然のことなのだ。
いつもとちょっぴり違うデートを堪能した二人は、地元へ戻り藤井家へ向かい歩いていた。
「兄貴と…」
「え?」
人気のない住宅街を歩き、口数が減っていた二人の間に流れていた沈黙を破るように、不意に藤井が口を開いた。
「兄貴と腕組んで歩いたのか?」
「う、ううん!?」
首をぶんぶん振って勢いよく否定をする。
「手…は繋いだけど…」
「手…くらいなら、仕方ない、か」
恋人役だったんだもんな、と自分に言い聞かせるように言う藤井の言葉に被せるように拓也は言った。
「あ、でも、こーやっては、繋いでない」
互いの指先を絡めて、所謂「恋人繋ぎ」。
その繋がれた手を顔の高さまで持ち上げて、拓也はヘヘと笑う。
「腕も…今日藤井君が初めてだよ」
「なんだ…」
小さく息を吐いて藤井はポツリと呟く。
「てっきり、兄貴と腕組んだから、そういうこと言い出したのかと思った…」
「ち、違うよっ。ただ…今日、友也さんに女の子みたいにエスコートされて、藤井君とそういう風な…デートみたいな?感じに出かけたことなかったなーって…まあ、普段ではムリな話だけど」
「してみたかった?」
「そりゃ…勿論…でもだからって、女の子とデートしたいんじゃなくて、したいのは藤井君とだからで…って、あれ?」
何言ってるんだろ…と、自分で言ってることの大胆さに気付きてんわやんわしてる拓也を見て、藤井の口角が自然と上がる。
「俺もだよ」
「藤井君?」
「俺も、触れたいのも、一緒にいたいのも、お前だけだ」
拓也の頬にそっと触れて、反対側の耳元に唇を寄せる。
「触れたい」
「ダ、ダメだよ、ここじゃ…」
「ここじゃなきゃ、いいのか?」
「そーいう意味じゃなくて…っ」
グイッと腕を引かれ、入っていくのは住宅の間の路地裏。
入ったと同時に、塀と藤井の間に閉じ込められ、唇を塞がれる。
「…んっ」
二人の間に銀糸が伝い、深く甘い口づけに意識が朦朧とする拓也の耳に届いた言葉。
「お前が兄貴に一日連れられて行くのを、俺が平気でいたと思うか?」
その言葉に、拓也は目を見開く。
「藤井君…やきもち、妬いてくれたの?」
「当たり前だろ。こんなこと、二度とゴメンだ」
ただでさえ嫌なのに、更にこんな恰好させられてるし、と拓也の肩口で項垂れる藤井に、拓也はクスリと笑う。
「何、笑ってるんだよ」
「だ、だって……僕も一緒だったから」
「榎木?」
藤井が拓也の肩から顔を上げると、目を細めてじっと見ている拓也の瞳とぶつかる。
「友也さんと一緒にいる時、ここにいるのが藤井君だったらなーって思っちゃってた」
折角こんな恰好してるのにって。
「友也さんには悪いけど…」
とちょっと苦笑しつつ言う拓也に藤井は
「じゃあ、またこの恰好して二人で出かける?」
と言ってみる。
「ジョーダン。別に女の子の恰好をすることを、肯定したわけじゃないよ」
クスクス笑いながら、「行こうか」と再び手を繋ぐ。
――――いつもと違う相手と恋人として過ごして過ごされて、互いに自分の気持ちを再確認した二人であった。
―2014.01.23 UP―
・補填・
前半、友也が藤井に耳打ちした内容。
友也 「今日一日終わったら、拓也君のこの服・ウィッグ・靴(歩きやすいフラットシューズ)一式お前に全部やる。どう使おうとお前の自由」
からの↓
藤井 「…………榎木、一日兄貴を頼む」
拓也 「!? 藤井君!? 何言われたの!?」
藤井 「......秘密」
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