Trick or Treat!

10月31日。仮装行列当日。
普通に平日な為、開催は学校が終わってからの夕方からだった。

「実君、カッコイイわねー」
「えへへー」
「サイズ合って良かったぁ」
「有難うございました、史穂さん。助かりましたー」

榎木家のお向かいの木村家長男・太一と、その友達の春日疾実は小学校より早く終わる幼稚園組の為 早々と準備を整え、拓也が帰宅するとそれぞれの母親と共に榎木家を訪れた。

「拓也君には、疾実が赤ちゃんの頃から何かとお世話になってるんだもの。私に出来ることだったら、お安いご用よ」
「えへへー、うちは既製品の組み合わせー。私、不器用だから」
「僕も流石に服作りとかはちょっと…。正直学校も忙しいし、本当にちょっと途方に暮れかけてたから…」

二人にお茶を出して、実の着替えを手伝いながら、作ってもらった衣装を「スゴイなー」と言いながら丁寧に扱う。

因みに衣装は、実はヴァンパイア(白シャツ+燕尾服+マント+ミニハット)、太一はフランケン(ボーダーシャツ+ジャケット+ジーパン)、疾実は黒猫(猫耳+黒ポンチョ+しっぽ)の装いである。
「太一は目のとこの縫い目描かなきゃ普通な感じだねー、疾実君は可愛いー。元々も瞳がおっきくて可愛いからかな」
まだ4歳だしねー、と拓也はクスリと笑いながら疾実の猫耳カチューシャをツンツンつつく。

「拓也君も似合うと思う」
智子の呟きに
「…うん、似合いそう」
史穂も賛同。
「えっ!?」
いきなり矛先が自分に回ってきて慌てる拓也。

「絶対似合うってー!!」
智子が「疾実君、貸してねー」と疾実の頭からカチューシャを抜き取り拓也にジリジリと迫るのを、拓也もジリジリと後ずさりしながら抗う。
「いやっ、もう僕は高一の男でそもそも可愛くないしっ」
「いーや、拓也君はまだまだ充分可愛いし、元々も可愛い」
「智子さんソレ全然嬉しくないからっ!こういうのは、小さい子がやるから可愛いんですー!!」

バタバタと とうとう追いかけっこ状態になった時、インターホンが鳴り、カラリと玄関の引き戸が開く音がした。

「実ぅー」
「実ちゃーん、トリック オア トリートぉ♪」
「榎木ー、準備できたかー?」
「藤井君!!」
「隙ありっ」
追いかけっこのまま走って行って玄関先で足を止めると、すかさず智子にカチューシャを嵌められた。

「あ…」
「お兄様…」

一瞬の沈黙の後、

「智子さん、グッジョブ」

「藤井君!!」

グッと親指を立て合う藤井と智子に、「お兄様似合う!!」と絶賛する一加&マー坊、猫耳・赤面・涙目の拓也が玄関先にいた。



「ゴンちゃーん」
「おー、来たかー拓也、藤井ー」
集合場所は商店街端の空き地。ここからスタートして、子供たちは商店街を練り歩き、様々な店先でお菓子を受け取る算段になっている。

「ヒロも魔女になったんだね、可愛い」
「ん」
「拓也、おだてなくていいから…いてぇ!」
「ゴンちゃん…」
ヒロに蹴られて腰をさする後藤に、拓也は苦笑する。
なお、一加は宣言通り魔女の仮装(本人はカラフルな某魔法少女希望だったらしいが、明美から赤いリボンの黒魔女じゃなきゃムリと言われ渋々承諾したらしい)でマー坊はオレンジ色のポンチョでジャック・オ・ランタンに扮している。

「一加、マー坊、今日は太一と疾実もいるからな。一応お前らがこのメンツの中じゃ一番上なんだからしっかりしろよ」
「よろしくね、一加ちゃん、正樹君」
藤井から念を押され、智子と史穂にお願いされた一加とマー坊は年長者として頼もしい返事をした。
「了解したですー」
「任せて、おばさま」

ワイワイと子供やその保護者が集まる中、辺りはすっかり夕暮れとなり、ハロウィン仕様に装飾された商店街にピッタリな雰囲気になってきた。

「それじゃ、参加する6年生は二手に分かれて、列の前と後ろについてー、ちびっ子たちはその中に入ってー。じゃ、しゅっぱーつ!」
「いってきまーす」
手を振って出発する実たちに「行ってらっしゃーい」と拓也や智子たちも手を振る。

「じゃ、俺、子供捌きの手伝いしに店戻らなきゃいけないから行くわ。ウチ通過した後また来る」
「うん、また後でね、ゴンちゃん」

早くも1件目のお店の前で「トリック オア トリートー!!」と盛り上がる子供たちの集団をすり抜けて行く後藤に「手伝い頑張ってねー」と拓也は見送った。



1時間半程の商店街行脚をし、子供たちが戻って来た。
それぞれの手にはたくさんのお菓子が入った袋が握られ、満足そうな子供たち。

「一加ちゃん、マー坊、ヒロ。お店に行ったら、何て言ったの?」
拓也は三人に声をかけ、問う。
「トリック オア トリートー!」
するとまだ興奮冷めやらぬといった雰囲気で元気よく答えた三人に、拓也はニコリと笑って三つの小さな紙袋を差し出した。
「はい、どーぞ。良かったら、食べてね」
「えっ!? お兄様、何コレ!?」

三人が拓也から袋を受け取り、中身を出すと…

「手作りプリンだぁー」
「うん、かぼちゃのプリン。ハロウィンだしね。その代わり、お菓子あげたんだから、みんなちゃんとお兄さんやお父さん、お母さんの言うコト聞くんだよ?」
「はーい!!」
「実と太一、疾実君は、うちに帰ってからあげるからね」
「やったー」

その様子を見ていた智子と史穂は思わず
「拓也君って…」
「マメよね…」
と呟き、その隣で藤井と後藤が頷いていた。


帰り道。
子供たちを先頭に、その後ろで女子トークに花を咲かせる主婦二人の後ろを、拓也と藤井は二人で並んで歩く。
「結構盛り上がってたみたいだし、来年もやるのかな?」
拓也の問い掛けに藤井は「あー、やるかもな」と答えた。

「ま、来年の話よりも」
「藤井君?」
「俺、榎木からまだお菓子もらってないから、イタズラできるし」
「…はっ!?」
慌てる拓也に「流石にここじゃマズイから…」と、コソッと耳打ち。

「週末まで、保留にしとく」

二人のハロウィンがどうなったかは、また、数日後の別のお話。


-2013.10.29 UP-
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