いっそブラックコーヒーでも糖度を感じます。

「じゃあなー、森口ー」
「おぉ、また明日ー」

一緒に下校していた学校の友達と別れて、最寄駅で電車を降りる。

改札を潜って、いつも通りに商店街を通って家を目指していると、久々に元同級生に会った。

「あれ、拓也ぁ?」
「森口君!」
「久し振り」とか「元気?」とか言い合い、自分の口からごく自然に出た言葉。

「昭広は?」

「今日は、もう別れて藤井君は家帰ったよ。僕は夕飯の買い出し…って言うか、さ…」

「ん?」

拓也は一呼吸置いてこう言った。

「何で僕一人でいると、皆 "藤井君は?"って聞くの?」

「え…」

前に寛野先生にも、友也さんにも言われたんだよねーと、拓也はぶつぶつ言ってるけど、だってそれは

「いつも一緒にいるイメージ?」

と一応答えてみる。

「え…僕たちってそんなイメージ…?」
「だって、登校一緒だろ?」
「うん」
「下校は?」
「一緒…」
「休日は?」
「割と…?」
「ついでに学校内は?」
「クラスも昼休みも一緒…」
「イメージというか、まんまだな」
「………っ」

おぉ、ほんのり頬が染まって…

「森口君!」
「はい!!」

突然強い口調で呼ばれて、こちらもつられて勢いの良い返事をしてしまった。

「今度の休日は、森口君 藤井君と過ごして!」

「は…!?」

ハイィィィ!?



「で、これは一体なんだ」
昭広が我が家にやって来ての開口一番。

「知らねぇよ」
何だか、バカップルに巻き込まれた感ハンパないんですが。

まあ、一応。
「お前の大切な拓也からのお達しだからな」
「昨日いきなり『明日は藤井君は森口君と過ごしてね!』って言われたし、意味解らん!!」

声を荒げながらも、しっかり本棚から読みたいコミックス抜き出してるけど。
うちはマンガ喫茶かよ。大した茶は出ないけどな。

「まあ、たまには別に過ごしてもいいんじゃね?いつも一緒なんだろ?因みに拓也は今日何すんのかね?」
「…家事するって言ってた。普段行き届かない所掃除したり、布団干したり」
「拓也…16歳男子が泣くゾ…」

相変わらず家事育児を熟す幼なじみに、思わず涙がちょちょ切れる。
まあ、らしいと言っちゃあらしいが。

「しかし、昭広もさ、平日は毎日朝から夕方まで一緒にいて、休日も一緒に過ごして、飽きないわけ?」

「飽きないな」

即答かよ。

「俺だったら?」

「ウゼェな」

にゃろう…。
勝手知ったる俺の部屋で、コミックスを積み上げすっかり寛ぎモードに入る昭広を睨み見る。
まあ、ここで「飽きない」なんて言われても気持ち悪いだけだけどな。

「はぁ…拓也は特別って訳ね」
「まぁな」

いけしゃあと顔色も変えずに言いやがる。
んー、この際色々探り入れてみるか。
そう思って、コミックスを読み耽る昭広に声を掛けた。

「昭広さ、いつから拓也の事好きだった訳?」
「んー…気付いたら?」
「小学生ン頃から、お前拓也の事は気に掛けてたもんなぁ」
そう言った俺の顔を、昭広はコミックスから顔を上げて不思議そうに見る。

「そうだったか?」
「え、無意識?」
「無意識も何も…まあ、あの頃は、一加と実の保育園とかあったし…」
「それは後藤も条件同じだろ」
「…………」
「まあ拓也は後藤と違って、色々抱え込むところあるから、放っとけない部分はあったよなぁ」

性格からか、こちらからしたら些細な事から、家庭環境故に子供ながらに複雑な事までよく悩み事を抱えていたように思う。
おまけにあのドが付くブラコンの弟。
実と同じ年頃の幼い弟妹を持ちながら、弟と真剣に向き合う拓也と違って上手く(良くも悪くも適当に)あしらう昭広は、よく拓也にアドバイスというか悩みを聞いていた事は俺もよく知っている。
拓也も、その辺は後藤よりも昭広を頼りにしていた事は、傍目で見ていても分かった。

多分、それがお互い「そういう気持ち」になったのは、中学入ってからなんだろうなぁ…。

「お子様だった拓也が、誰かに恋するなんてねー。しかも誰かサンに」

ちょっと揶揄ってやれ。
そう思った俺がバカだった。

「うん。思っていた以上に子供だった」

「…は?」

再びコミックスに意識を向けているかと思いきや、目線はそのままに聞き捨てならないセリフが飛んで来た。

「初めてベロチューした時は自分の喘いだ声に発狂してたし、未だに不意打ちで仕掛けると暴れるし怒るし、その割に構ってオーラ出してくるし…」
「お、おい…?誰もそんな事聞いてないし聞きたくもない」

んだけど、と続けた言葉を遮られてまで聞かされた言葉。

「でもそこが堪らなく可愛いんだけど」


誰かこの色惚けどうにかして下さい。


TRRRR―♪

『はーい、森口君?どうしたのー?』
耐えきれなくなって、拓也に電話をしてみた。
「拓也、俺、もうこの色惚け相手にしたくないんだけど…」
『な!? 何…藤井君何か言ったの!?』
「おぉおぉ、とんでもない事聞かされたぜ、拓也のあんなコトやこんなコト…」
『ちょっ...なっ......代わって藤井君に!!』

「昭広、拓也が代わってって」
「ン」

ケータイを昭広に渡す。
拓也の声は聞こえないけど、まあ、照れ屋の拓也の事だ、どやされるわな。

それでも昭広の顔は上機嫌で。
おかしい…コイツのクールという定評はどこへ行ったのか。
(まあ、周りから言われている程クールではない事は知ってるけど)

でも、こんな顔させられるのも、拓也だけって事なんだろうな。

そして、それに振り回されてる俺って訳か。

「はぁーあ、世話の焼ける親友と幼なじみだ事」

溜め息を吐きつつ、まあ俺にとっても大事な二人、幸せそうならいいんじゃね?と思う寛大な俺様なのだ。


通話終了後――
「ン、ケータイ」
「俺からの発信だから、通話料払えよ」
「は!? ケチくせぇ!」
「煩い。俺に散々ノロケやがって。そんくらい当然だ」
「ガリ○リ君ソーダで」
「お前何かっつーとソレだな」


-2013.06.07 UP-
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