パラレルなボクら。

とある小さな町の、とある小さな高等学校。
そこに通う生徒の中に、眉目秀麗・品行方正な優等生と、顔はいいけどちょっとヤンチャな男の子がおりました――――。

「あー、ここにいた、アキ!!」
裏庭の芝生の上にゴロンと寝転がっている幼馴染を見つけて、タクは傍へ駆け寄る。
一方、その転がっている方はというと、「チッ」と舌打ちをして駆け寄っってきた幼馴染に背を向ける形に寝返りを打った。

「今日はもう授業終わちゃったよー、ずっとここにいたの?」
明らかに自分に背く態度をとられたのにもお構いなしに、それどころか肩を掴んでゆさゆさと揺さぶって声を掛ける。

「あーもー、うっぜぇなあ…」

アキはムクリと起き上がり、肩にあったタクの手を払いのけた。

「俺に構うなっていつも言ってるだろうがよ」
「そんな事言ったって、先生から君の事頼まれてるんだもん、僕…」
「センセーの言う事をちゃーんと聞くお利口な委員長様だもんな、お前は」
そう言って耳元に「ガキが」と吹き込む。

「な…っ」

吹き込まれた耳に手を当て、タクは頬を赤くしながらザッと後ずさった。

「ホント、ガキ」

アキはククッと笑い立ち上がると、そのままタクに背を向けて歩き出す。

「ど、どこへ…!?」
「授業全部終わったんだろ?帰ンだよ」
「明日はちゃんと授業出るよね!?」
「さーな」

振り向きもせず、それでも肯定でもないが否定でもない返事を返してくれた事に取り敢えずは溜め息を吐き、タクも立ち上がる。

「昔は、もうちょっと可愛げがあったのになー」
ぶっきらぼうなところは変わらないけど。
そう呟き、既に姿が見えなくなったアキが歩いて行った方向へ視線を送った。




「今日はここまでにしましょうか、お嬢様」
町一番のお金持ちのお屋敷に、タクはいた。
そこの一人娘のクリスティーヌの家庭教師に、タクは雇われているからだ。
「今日も有難うございました。お兄様…とと、先生」
「どちらでもいいですよ」
クスリと笑って、タクは使った教材を片付ける。
「そうはいきませんわ…でも、お勉強が終わったら、お兄様でもいいかしら?」
「お好きなように」
「お兄様、アルフレッド様はお元気?」
アルフレッドとはタクの弟で、クリスティーヌの想い人であった。
「元気ですよ。今度、お連れしましょうか?」
「まぁ、ホント?嬉しい」
口元に手をやりフフと笑うクリスティーヌは可愛らしく、タクも本当の妹のように思っている。

「オナラブーコ様、お勉強は終わりやしたか?」
コンコンとドアをノックするのと同時に入って来たのは、これまたこのお屋敷に雇われている音楽家のトモヤだった。
「ちょっと!相変わらず無礼者ね!ヘンな名前で呼ばないでちょーだいっていつも言ってるでしょ!?」
「ヘイヘイ。座学が終わったんでしたら、次はバイオリンのレッスンなんですが?」

持って来たバイオリンケースを掲げて、トモヤは帰り支度をしているタクに声を掛けた。

「それはそうと、タク」
「はい?」
「さっきここへ来る途中、アキを見かけたんだけど、なーんかヤバそうなのに絡まれてたゾ」
平然と言い放つトモヤにサッと顔色を変えるタク。
「え…!? そ、それで!?」
「それでって…そのままスルー?」
「しないで下さいよっ!!」

慌てて支度を整え「それでは失礼します!」と早口で挨拶をして部屋から出るタクに「だって厄介事には関わりたくねーもん」と答えるトモヤ。

「アナタって、ホント、人としてはロクデナシね」
呆れ顔で見上げるクリスティーヌに、
「ジョーダン。楽器を扱う音楽家にとって手は命なの。話で済む相手じゃないし。それにアイツはそこらの不良ごときには負けないでしょ」
それにタクも加われば、無敵だろうよ。とカラカラ笑った。



すっかり暗くなった街中を、時折路地裏に入りながらタクは走り抜ける。

(いた…!! いち、にぃ…5人!!)
「アキッ!!」
「!!」
ハッハッと息せき切って幾つ目かに入った路地裏で目的の集団を見つけ、タクは近づく。

「バッカ、お前はすっこんでろ!」
「知ってて見過ごすなんて出来ないよっ!!」

「あっれー?クリスティーヌ嬢お抱えの家庭教師様じゃないですか。そんな優等生様が、ボクたちに何の用ですかぁ?」
小さな町故に、町一番のお屋敷に関わりがあると、一般人でもちょっとした有名人になる。
「君たちこそ、僕の友人に何か用ですか」
キッと睨みつけ毅然と振舞う。
「友人?優等生とコイツが?笑わせてくれるねぇっ!!」

言うのと同時にタクに殴りかかってきた――――。
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