変わらぬ想いを抱いて
次の日、クリスとの約束通りチェックアウトをした後、荷物を持って拓也の家へ。
そのまま、見送りに空港まで一緒に行った。
「今度はジェニーも連れて、遊びに来いよ」
「Yes!ありがとうハルミ。…タクヤ、こっちで働く気になったら、いつでも連絡寄越せよ」
「うん」
「ミノルも、今度はキャッチボールとかしような」
「うん!待ってるね」
榎木家一人一人と言葉を交わして、最後に俺と向き合う。
「アキヒロ…次こそは、タクヤ連れて帰るからな」
「は?」
「一度で諦める程、伊達に長年長距離片想いしてねーよ」
な…に…?
そう言い残し、また榎木家の方へ行き親父さんの頬に、実の額にキスをした後 拓也に何か耳打ちしたかと思ったら、唇にキス。
「ク…っ!!」
「bye!」
そしてヤツは背中を向けたまま手を振って、搭乗ゲートを潜って行った。
「もしかして、拓也、嫁に貰われそうになってたのか?」
「ち、違うよ!!」
呆気にとられた表情で言う親父さんに、慌てて答える拓也。
「仕事で渡米は許すが、嫁にはやらんぞークリス!!」
「パパやめてよ!!」
小さくなるクリスの背中に向かって叫ぶ親父さん…この一家、揃って天然だな…。
「そう言えば…クリスさっき何て言ったんだ?」
熊ノ井に帰る道すがら、電車に揺られながら拓也に聞いた。
確か…キス…する前、何か耳打ちしてたよな。
そうだよ、別れ際だったから殴り損ねた。あー腹立つ!!
次会ったら絶対殴る!!
「え…あ、うん…」
そんな俺の心境を知ってか知らずか、拓也はほんのり赤くなる。
「藤井君に泣かされたら、いつでも連絡寄越せ…って」
また…またこのパターンなのか?
しかし寄越したところで、相手はハワイ。どうすることもできないだろう。
(勿論、泣かすつもりは毛頭ないがな)
「あ、藤井の兄ちゃん、これクリスから」
ハイと実から渡されたのは一枚の紙切れ。
開くと――――
『いつでもタクヤを迎えに行ける準備はしてあるからな。覚えとけよ』
「実、お前、まだ寛野と連絡取ってんのか?」
「勿論」
「拓也ー、広瀬や宮前元気?」
「あー、うん。広瀬君はこの前メール来た。忙しそうだけど、元気にしてるみたいだよ。宮前君も広瀬君が言うには元気」
ただでさえ鬱陶しいのが近くにいるのに、海外にまで敵が現れた。
グローバル…拓也スキーはグローバルにまで発展した。
「冗談じゃねーぞ、全く」
下手したら海外にまで連れて行かれかねない。
俺は大きな溜め息と共に、吊り革を掴んでいる右手に全体重を掛ける勢いで項垂れた。
クリスが帰国して週明け。
いつもの仕事三昧の一週間が始まる。
「藤井ーこの書類だけど、明日までに出来る?」
「あー頑張ってみます」
書類を受け取り、資料室へ。
その時、スーツの内ポケットに入れていたケータイにメールの着信バイブが走った。
確認して、返信。
「先輩、期限やっぱり明後日までに伸びません?」
「何で」
「今日、残業出来なくなった」
「あー、まあ、大丈夫だろ」
よし。今夜は拓也の手料理が食べられる。
「会社側に引き抜き断ったって言ったら、驚かれたけど良かったとも言われちゃった」
クリスがいて和食が続いたから…と、久々に洋食が食べたいなと、作ってくれたのはハンバーグ。
拓也お手製のデミグラスソースは絶品。
そのハンバーグを頬張りながら、今日職場に報告をした拓也はその事を教えてくれた。
「良かったな」
「うん?」
「引き抜き断って良かったって言われたって事は、会社にとって拓也は必要な人材って事だろ?」
「…うん。そう言って貰えると、これからも頑張ろうって思う」
「相変わらず、真面目だなー」
「そんな事ないよ。僕が出来ることを一生懸命やるだけだよ」
そういう姿勢が、真面目なんだよ。
でも、そこは拓也の昔から変わらないところ…俺の好きなところの一つだ。
「しかし、一度行くって決めたのに、簡単に翻して良かったのか?」
行かないで欲しいと言った手前訊けずにいた、だけどずっと気になっていたことを意を決して訊いてみた。
「うん。まあ本音を言えば、海外での仕事にも挑戦してみたかったけど…やっぱり藤井君の近くがいいって…思ったから…」
藤井君の傍を離れてまで行ける程、僕には度胸がなかったんだよ、と笑って言った。
食事と片付けを終えて、終電の時間までまったり過ごす。
「拓也…、俺、上司から少し有給取れって言われてるんだよ。拓也も取れそうなら、旅行行かね?」
「旅行…?」
「ハワイ…は時間的にムリだけど、国内…沖縄か北海道辺り」
「うん、いいね。明日スケジュール確認してみるよ」
そう言う拓也の額にキス。
「今こっちは割と落ち着いてるけど、藤井君は?」
「明後日までの書類作成した後は…あ、会議もあったなー。それ次第では休出か?」
「…有給取れるの?」
「取れって言われてるんだから、意地でも取るよ。そんな事より…」
「…っ、終電までには帰してよ?」
「もー、ここ住んじゃえよー」
「ダメー」
いつも繰り返される会話を楽しみながらの触れ合い。
まぁ、同棲も出来たら嬉しいけど、今の関係も悪くはない。
拓也をこっちに置いといて、実まで奇襲してきたら厄介だしな。
そして次の日。
出勤して、次週の後半三日間の有給休暇の申請を出した。
-2013.09.30 UP-
そのまま、見送りに空港まで一緒に行った。
「今度はジェニーも連れて、遊びに来いよ」
「Yes!ありがとうハルミ。…タクヤ、こっちで働く気になったら、いつでも連絡寄越せよ」
「うん」
「ミノルも、今度はキャッチボールとかしような」
「うん!待ってるね」
榎木家一人一人と言葉を交わして、最後に俺と向き合う。
「アキヒロ…次こそは、タクヤ連れて帰るからな」
「は?」
「一度で諦める程、伊達に長年長距離片想いしてねーよ」
な…に…?
そう言い残し、また榎木家の方へ行き親父さんの頬に、実の額にキスをした後 拓也に何か耳打ちしたかと思ったら、唇にキス。
「ク…っ!!」
「bye!」
そしてヤツは背中を向けたまま手を振って、搭乗ゲートを潜って行った。
「もしかして、拓也、嫁に貰われそうになってたのか?」
「ち、違うよ!!」
呆気にとられた表情で言う親父さんに、慌てて答える拓也。
「仕事で渡米は許すが、嫁にはやらんぞークリス!!」
「パパやめてよ!!」
小さくなるクリスの背中に向かって叫ぶ親父さん…この一家、揃って天然だな…。
「そう言えば…クリスさっき何て言ったんだ?」
熊ノ井に帰る道すがら、電車に揺られながら拓也に聞いた。
確か…キス…する前、何か耳打ちしてたよな。
そうだよ、別れ際だったから殴り損ねた。あー腹立つ!!
次会ったら絶対殴る!!
「え…あ、うん…」
そんな俺の心境を知ってか知らずか、拓也はほんのり赤くなる。
「藤井君に泣かされたら、いつでも連絡寄越せ…って」
また…またこのパターンなのか?
しかし寄越したところで、相手はハワイ。どうすることもできないだろう。
(勿論、泣かすつもりは毛頭ないがな)
「あ、藤井の兄ちゃん、これクリスから」
ハイと実から渡されたのは一枚の紙切れ。
開くと――――
『いつでもタクヤを迎えに行ける準備はしてあるからな。覚えとけよ』
「実、お前、まだ寛野と連絡取ってんのか?」
「勿論」
「拓也ー、広瀬や宮前元気?」
「あー、うん。広瀬君はこの前メール来た。忙しそうだけど、元気にしてるみたいだよ。宮前君も広瀬君が言うには元気」
ただでさえ鬱陶しいのが近くにいるのに、海外にまで敵が現れた。
グローバル…拓也スキーはグローバルにまで発展した。
「冗談じゃねーぞ、全く」
下手したら海外にまで連れて行かれかねない。
俺は大きな溜め息と共に、吊り革を掴んでいる右手に全体重を掛ける勢いで項垂れた。
クリスが帰国して週明け。
いつもの仕事三昧の一週間が始まる。
「藤井ーこの書類だけど、明日までに出来る?」
「あー頑張ってみます」
書類を受け取り、資料室へ。
その時、スーツの内ポケットに入れていたケータイにメールの着信バイブが走った。
確認して、返信。
「先輩、期限やっぱり明後日までに伸びません?」
「何で」
「今日、残業出来なくなった」
「あー、まあ、大丈夫だろ」
よし。今夜は拓也の手料理が食べられる。
「会社側に引き抜き断ったって言ったら、驚かれたけど良かったとも言われちゃった」
クリスがいて和食が続いたから…と、久々に洋食が食べたいなと、作ってくれたのはハンバーグ。
拓也お手製のデミグラスソースは絶品。
そのハンバーグを頬張りながら、今日職場に報告をした拓也はその事を教えてくれた。
「良かったな」
「うん?」
「引き抜き断って良かったって言われたって事は、会社にとって拓也は必要な人材って事だろ?」
「…うん。そう言って貰えると、これからも頑張ろうって思う」
「相変わらず、真面目だなー」
「そんな事ないよ。僕が出来ることを一生懸命やるだけだよ」
そういう姿勢が、真面目なんだよ。
でも、そこは拓也の昔から変わらないところ…俺の好きなところの一つだ。
「しかし、一度行くって決めたのに、簡単に翻して良かったのか?」
行かないで欲しいと言った手前訊けずにいた、だけどずっと気になっていたことを意を決して訊いてみた。
「うん。まあ本音を言えば、海外での仕事にも挑戦してみたかったけど…やっぱり藤井君の近くがいいって…思ったから…」
藤井君の傍を離れてまで行ける程、僕には度胸がなかったんだよ、と笑って言った。
食事と片付けを終えて、終電の時間までまったり過ごす。
「拓也…、俺、上司から少し有給取れって言われてるんだよ。拓也も取れそうなら、旅行行かね?」
「旅行…?」
「ハワイ…は時間的にムリだけど、国内…沖縄か北海道辺り」
「うん、いいね。明日スケジュール確認してみるよ」
そう言う拓也の額にキス。
「今こっちは割と落ち着いてるけど、藤井君は?」
「明後日までの書類作成した後は…あ、会議もあったなー。それ次第では休出か?」
「…有給取れるの?」
「取れって言われてるんだから、意地でも取るよ。そんな事より…」
「…っ、終電までには帰してよ?」
「もー、ここ住んじゃえよー」
「ダメー」
いつも繰り返される会話を楽しみながらの触れ合い。
まぁ、同棲も出来たら嬉しいけど、今の関係も悪くはない。
拓也をこっちに置いといて、実まで奇襲してきたら厄介だしな。
そして次の日。
出勤して、次週の後半三日間の有給休暇の申請を出した。
-2013.09.30 UP-
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