変わらぬ想いを抱いて
拓也が下した決断は、社会人として、男として当然の答えだった。
俺が拓也の立場だったとしても、同じ答えを出しただろう。
だから、これ以上、俺は何も言えない。
「バッカじゃないの?」
「一加…」
金曜日の夜、一加が俺の部屋に来た。
当然、今の現状は実から聞いて知っているわけで。
「あのなー、子供には分からない大人の事情ってモンがあるんだよ」
ジュースを飲みながら俺を睨みつける妹を睨み返す。
「そうよね。オトナって、これだから素直じゃないわよね」
あの素直な拓也お兄様ですら、この体たらくなんですもの!とプンスカ怒っている。
「は?素直だから、『行きたい。自分の力 試してみたい』って言ってるんだろーが」
「バッカじゃないの?」
「それさっきも言った…」
「大事だから二度言ったのよっ」
飲み干し空になったグラスをテーブルにタン!と置いて立ち上がると、俺を指さし言い放った。
「仕事で海外に行くのはお兄様の勝手よ!好きにすればいいわっ!でも、お兄ちゃんもお兄様も、本当の気持ちお互い言ってないじゃない!」
「…………」
「お兄ちゃん…お兄様に『行って欲しくない』って言った?その上で、拓也お兄様は"行く"って決断したの?」
「いや、だって、そんな事言ったら、迷わせる…」
一加の迫力にグッと圧されながら答えると
「そこよ!」
と間髪入れずに返してきた。
「昭広兄ちゃんのその言葉でいちいち迷うくらいなら、行っても後悔するに決まってる!ホントに行きたかったら、そんな事で迷わない!!」
「一加…」
「昭広兄ちゃんも、拓也お兄様も、お互いを思いやり過ぎよ…ちゃんと本当の気持ち…言わなきゃいけないところは言わなきゃ。本当の気持ちを知ってて離れるのと知らないで離れるのでは、大違いよ…」
言葉が出ない。
いつまでも子供だと思っていた生意気な妹は、一端の大人を説得出来る程に成長していた。
いや、俺が、まだまだ成長できていなかったのかも、しれない。
「以上、コドモから素直じゃないオトナへの主張でした」
プッと笑い合い、
「それも"恋愛のお勉強"のタマモノか?」
「そーよ!バカにできないでしょ?」
「全くだ」
さて、それでは、明日クリスが帰国する前に、最後のひと仕事をしますか。
「ごめんな、急に呼び出して」
「ううん…、僕も藤井君と話したかったから…」
お互いの実家近くの公園に呼び出して、謝りながら拓也に缶コーヒーを渡す。
俺たちは子供の頃から何かって言うとここの公園に来たな。
遊んだり、話したり…。
小5の時、6年とケンカしたのも、ここの公園だった。
「俺は、ずっとお前が好きだから」
一番伝えたい事。
「藤井君…」
「だから、向こうに行っても、俺を気にせず頑張ってきて欲しい」
これも、素直な気持ち。
「離れてても、支えたいって、思ってる」
心に在り続けて…。
「僕も、ずっとずっと藤井君が好きだよ」
その言葉だけで充分だ。
そして、もう一つ。
先の台詞は嘘じゃない。でも、矛盾するもう一つの本当の気持ち。
「拓也…ひとつ、我が儘 言っていいか?」
「な…に…」
行かないで欲しい――――
言った刹那、大きな瞳が更に見開いて…
「行かない…っ」
次の瞬間には、大粒の涙が溢れて抱きついてきた。
ピンポーン…
クリスの泊まっているホテルの部屋のインターホンを鳴らす。
「タクヤ…アキヒロ」
俺たち二人の顔を見て、クリスは溜め息を一つ吐いて微笑んだ。
「最終決断、ついた?」
「最初、あまりにもアッサリと返事くれたから、君たちの関係ってそんなもんかと思ったよ」
「クリス…」
部屋に通されて、まずは謝罪。
「別にそんなアッサリとは決めてはないけど…これでも物凄く悩んだし…」
戸惑いながらも拓也が言う。
「でも、一度承諾の返事しといて、迷惑かけちゃうけど…」
「大丈夫だよ」
「え?」
「こんな事もあろうかと、向こうにはまだ保留にしてある」
「クリス…」
「恩に着る」
ホッとしている拓也の隣で、俺も礼を言う。
「あぁ、貸し、だからな」
ニヤリと笑って、俺を見る。
そう言って、部屋の電話で何処かへ電話をかけ始めた。
「あぁ、ハルミ?今からハルミんち行ってもいい?明日帰国だからさー、飲もうよー。ハルミの作った和食食べて帰りたい。…うん、ホント?ありがとー。今から行くね」
受話器を置くのを見計らって、拓也がクリスに声を掛ける。
「僕んち行くの?」
「あぁ」
返事をして、俺にカードキーを投げて寄越した。
「チェックアウトは朝10時。明日手続きしたら、俺の荷物持ってタクヤんち来いよ」
そこに纏めてあるから、とカートを指差す。
「クリス…!?」
慌てる拓也の頬に軽くキスをして
「それで、貸し借りチャラ。Good night タクヤ」
と、部屋を出て行った。
「え、えっと…」
突然ホテルの部屋に残されて拓也は困惑している様子だが。
「拓也…」
据え膳は、きっちり頂くとしよう。
俺が拓也の立場だったとしても、同じ答えを出しただろう。
だから、これ以上、俺は何も言えない。
「バッカじゃないの?」
「一加…」
金曜日の夜、一加が俺の部屋に来た。
当然、今の現状は実から聞いて知っているわけで。
「あのなー、子供には分からない大人の事情ってモンがあるんだよ」
ジュースを飲みながら俺を睨みつける妹を睨み返す。
「そうよね。オトナって、これだから素直じゃないわよね」
あの素直な拓也お兄様ですら、この体たらくなんですもの!とプンスカ怒っている。
「は?素直だから、『行きたい。自分の力 試してみたい』って言ってるんだろーが」
「バッカじゃないの?」
「それさっきも言った…」
「大事だから二度言ったのよっ」
飲み干し空になったグラスをテーブルにタン!と置いて立ち上がると、俺を指さし言い放った。
「仕事で海外に行くのはお兄様の勝手よ!好きにすればいいわっ!でも、お兄ちゃんもお兄様も、本当の気持ちお互い言ってないじゃない!」
「…………」
「お兄ちゃん…お兄様に『行って欲しくない』って言った?その上で、拓也お兄様は"行く"って決断したの?」
「いや、だって、そんな事言ったら、迷わせる…」
一加の迫力にグッと圧されながら答えると
「そこよ!」
と間髪入れずに返してきた。
「昭広兄ちゃんのその言葉でいちいち迷うくらいなら、行っても後悔するに決まってる!ホントに行きたかったら、そんな事で迷わない!!」
「一加…」
「昭広兄ちゃんも、拓也お兄様も、お互いを思いやり過ぎよ…ちゃんと本当の気持ち…言わなきゃいけないところは言わなきゃ。本当の気持ちを知ってて離れるのと知らないで離れるのでは、大違いよ…」
言葉が出ない。
いつまでも子供だと思っていた生意気な妹は、一端の大人を説得出来る程に成長していた。
いや、俺が、まだまだ成長できていなかったのかも、しれない。
「以上、コドモから素直じゃないオトナへの主張でした」
プッと笑い合い、
「それも"恋愛のお勉強"のタマモノか?」
「そーよ!バカにできないでしょ?」
「全くだ」
さて、それでは、明日クリスが帰国する前に、最後のひと仕事をしますか。
「ごめんな、急に呼び出して」
「ううん…、僕も藤井君と話したかったから…」
お互いの実家近くの公園に呼び出して、謝りながら拓也に缶コーヒーを渡す。
俺たちは子供の頃から何かって言うとここの公園に来たな。
遊んだり、話したり…。
小5の時、6年とケンカしたのも、ここの公園だった。
「俺は、ずっとお前が好きだから」
一番伝えたい事。
「藤井君…」
「だから、向こうに行っても、俺を気にせず頑張ってきて欲しい」
これも、素直な気持ち。
「離れてても、支えたいって、思ってる」
心に在り続けて…。
「僕も、ずっとずっと藤井君が好きだよ」
その言葉だけで充分だ。
そして、もう一つ。
先の台詞は嘘じゃない。でも、矛盾するもう一つの本当の気持ち。
「拓也…ひとつ、我が儘 言っていいか?」
「な…に…」
行かないで欲しい――――
言った刹那、大きな瞳が更に見開いて…
「行かない…っ」
次の瞬間には、大粒の涙が溢れて抱きついてきた。
ピンポーン…
クリスの泊まっているホテルの部屋のインターホンを鳴らす。
「タクヤ…アキヒロ」
俺たち二人の顔を見て、クリスは溜め息を一つ吐いて微笑んだ。
「最終決断、ついた?」
「最初、あまりにもアッサリと返事くれたから、君たちの関係ってそんなもんかと思ったよ」
「クリス…」
部屋に通されて、まずは謝罪。
「別にそんなアッサリとは決めてはないけど…これでも物凄く悩んだし…」
戸惑いながらも拓也が言う。
「でも、一度承諾の返事しといて、迷惑かけちゃうけど…」
「大丈夫だよ」
「え?」
「こんな事もあろうかと、向こうにはまだ保留にしてある」
「クリス…」
「恩に着る」
ホッとしている拓也の隣で、俺も礼を言う。
「あぁ、貸し、だからな」
ニヤリと笑って、俺を見る。
そう言って、部屋の電話で何処かへ電話をかけ始めた。
「あぁ、ハルミ?今からハルミんち行ってもいい?明日帰国だからさー、飲もうよー。ハルミの作った和食食べて帰りたい。…うん、ホント?ありがとー。今から行くね」
受話器を置くのを見計らって、拓也がクリスに声を掛ける。
「僕んち行くの?」
「あぁ」
返事をして、俺にカードキーを投げて寄越した。
「チェックアウトは朝10時。明日手続きしたら、俺の荷物持ってタクヤんち来いよ」
そこに纏めてあるから、とカートを指差す。
「クリス…!?」
慌てる拓也の頬に軽くキスをして
「それで、貸し借りチャラ。Good night タクヤ」
と、部屋を出て行った。
「え、えっと…」
突然ホテルの部屋に残されて拓也は困惑している様子だが。
「拓也…」
据え膳は、きっちり頂くとしよう。