写メりましょ!

世の中便利になったものだ。

そう藤井が思った理由は、今目の前の恋人の視線が、ケータイの中にあるから。

榎木家は先週末、お向かいの木村一家と日帰りで遊びに出掛けて、拓也はその時にケータイで撮った写真を藤井に見せながら土産話をしている。
その話を聞きながら、風景や観光スポットの要所の画像を一緒に見ていた訳だが、その画像の約半分…より若干多いのが、実と太一の写真。

「でね、ここで実がね…」
ぷっ…と藤井は思わず吹き出す。
「え…何?」
そんな藤井を、今吹き出す程面白い事言ったかな?と不思議そうに見る拓也に藤井はククッと笑いながら答える。
「さっきから実の話ばっか」
「え…!!」
因みに今ケータイに写っているのは、実と太一がソフトクリームを頬張っているツーショット。
「そんな事ないよ…?」
「そんな事あるから言ってるの」

藤井が横から手を伸ばし、試しに画面を次の画像に送ると、今度は一枚前の二人が良い景色の中駆け回っている。

「お前の写真全然ないし」
「だって、コレ僕のケータイだもん」
それは一理あるか。
ケータイの持ち主が被写体になる事は少ない。
ましてや拓也は自撮りするタイプでもない。

「それに二人共可愛いから、つい撮っちゃうんだよね」
相変わらずのブラコンぶりである(太一は弟ではないが、赤ん坊の頃から知っている拓也にとっては似たようなものだろう)。

「父さんのデジカメの中には、ちゃんと僕もいるよ」
「そっか。榎木はソフトクリーム食ったのか?」
一枚前の画像に戻り、チビっこ二人が食べているそれを指差す。
「うん!ジャージー牧場のソフトクリームでね、すっごく美味しかったよ」
ニッコリ笑って話す拓也に、藤井の表情も自然と綻ぶ。

「この写真は?」
「これはね…」
画像を見ながら土産話に花を咲かせる。
「榎木」
「ん?」
そんな拓也の表情は、呼ばれて藤井を見返す今もとても楽しそうで――…

カシャッ

「え…何…」
突然響いたシャッター音に、拓也の笑顔が困惑の表情へと変わる。

「俺も可愛いからつい撮っちゃった」
「な…っ」

拓也の顔がみるみる赤くなる。
「や、やだ!消してよ!」
「ダメ」
「藤井君!」
「俺、あんまりケータイのカメラ機能って使った事なかったけど、確かに手軽だよな」
こうして榎木の写真たくさん撮れるし♪
言いながら、恥ずかしがる拓也をもう一枚。

「やだー、消して!藤井君のバカー!」

藤井のケータイを奪おうと拓也が手を伸ばすが、当然そんな簡単に奪われる訳でもなく。

「ほら、榎木」
グイッと肩を抱き寄せ、カシャリとシャッターボタンを押す。

「ツーショット」
「……………っ」

滅多に撮る事のないツーショット写真を、実はとても簡単に撮れてしまう事に気付く。
普段、連絡ツールとしてしか使用せずケータイに依存がない二人にとって、それは今更ながら新たな発見だった。

そして、思い付いた悪戯。

「榎木」
「!?」

前触れもなく、突然塞がれる拓也の唇。
藤井は舌で歯列を割って、拓也の舌を絡める。

「んん…っ」

最初は突然の口付けに驚いて抵抗していた拓也だったが、絡まる甘い舌に次第に応えていく。

そんな拓也の様子を、藤井は薄目で確認して、こっそり手元を探り―――

カシャッ

突然のシャッター音に、弾かれたように拓也は藤井から身を離した。

「ふ、藤井君…?何、撮った…の?」

恐る恐る聞く拓也に、藤井は答えず流す。

「まさか…」
「…見る?」
「見ない!!って言うか消して!!」
「消さないー」

さっきよりも更に必死に藤井のケータイを奪おうと頑張るが、藤井だってそう易々と奪われる位なら、始めからこんな悪戯はしない。
例え奪えたとしても
「まさか、人のケータイ勝手に弄るなんて事、榎木はしないよな」
「――――っ!!」

そんな事を言われてしまったら、拓也の性格上、身動きが取れなくなってしまう。
(恋人の了解を得ずに、そういう写真を撮る方がどうかと思うが)

「藤井君の…」
「ん?」
拓也はふるふると震えて一呼吸した後

「藤井君の変態!!」

そう言って、体ごと背けた。
そんな拓也を藤井は後ろから抱きしめる。

「はーなーしーてぇぇぇ」
「やだ。可愛い。ムリ」
ぐいぐいと腕を解こうとする拓也に、しかし藤井も更に力を込める。

必死にもがく恋人が愛しくて。
それでももっと可愛い姿が見たくて。
「榎木」
後ろから抱きしめたまま、耳元で囁く。

すると、ピクッと肩が揺れてもがいていた体が止まり、変わりに身体が触れている部分の体温の上昇が伝わる。

それに満足した藤井は

(次は寝顔)

と、明日辺り、昼休みに昼寝を誘おうと企むのだった。


-2013.05.30 UP-
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