変わらぬ想いを抱いて

―――♪

自宅に持ち帰った仕事をするべく、パソコンと向き合っていたら、ケータイにメールの着信音が鳴った。

この時間に来るメールと言えば…。

「今日も一日お疲れさん」

呟きながらメールを読む。
そうしながら頬が緩むのも、いつもの事。

『俺は仕事片付くまでもうちょっと。お前は寝れるなら、普段忙しい分しっかり寝とけよ?おやすみ』

「送信、と」

作業が中断したついでにカップに手を伸ばすと、中が既に空になっていた事に気付く。
「拓也が淹れてくれたお茶が飲みてぇなー…」
と、今は叶わぬ事を呟きつつキッチンへ。
コーヒーを淹れて、再びパソコンと向かい合って、今度のプレゼンの資料作り。
これを今日明日中に仕上げてしまえば、週末の休出は免れるってモンだ。
今週末は拓也も確実に休みって言ってたから、絶対休出なんかになってたまるか。

(昔から、アイツは俺の原動力だな…)

淹れたコーヒーを一口飲んで、気合を入れ直して、さてもうひと頑張りしますかと資料とパソコンとの格闘を再開した。




「藤井君!」
週末の晴れ渡った空と同じくらいの爽やかな笑顔、声。
平日頑張ったお陰で、めでたく週末2日間の休日をゲット。
待ち合わせの駅前の公園のベンチで文庫を読んでいた拓也が、時間ピッタリに来た俺に気づき顔を上げた。

「仕事、お疲れ様。プレゼン、上手くいきそう?」
俺を見上げながら、鞄に文庫をしまう。
「おー、お陰様で。って、仕事の話はナシ。折角二週間振りに会えたし」
「そうだね」
クスリと笑って、どこ行こっかと立ち上がる。
「俺の部屋」
「…映画でもレンタルする?」
「それもいいけど…二週間振りだし」
「…!いやいやいやいや、二週間振りだからこそ!外で遊ぼうよ藤井君!」
真意が伝わったか顔を赤くして首をブンブンと左右に振り、えっとーえっとーと考えを巡らせる。
流石にこれだけ長く付き合っていたら、鈍かった拓也も察しがつくってもんだ。
「そうだバッティングセンター!藤井君、最近身体動かしてないでしょ?僕も運動不足だから、久々身体動かしたい!」
スポーツ万能の身体が泣くよぉ、と拳で軽く胸元を押され、「ホラ行こう」と、一歩前を歩き出した。
まぁ、予想内の反応。
俺だって言ってみただけであって、本気で誘ったわけじゃない。
…いや、ノッてもらえたら、それはそれでラッキーであって、そんな流れも大歓迎なんだが。

「拓也っ」
前を歩く拓也を後ろから両肩を掴んで後ろに引き寄せる。
「わっ、な、何?」
肩口から顔を覗き込むと、上目遣いで返事をされた。
「今夜は泊まれるんだろ?」
「!」
耳元で言葉を吹き込むと、瞬時に視界にあるそれが赤くなるのが分かった。
「ふっ藤井君が、僕にヒット数負けたら、帰ろっかなー…」
すると、肩に置いた俺の手を退かして、ぶっきらぼうに言った。
おぉ、なかなか言うようになったじゃないか。
初々しい反応はいつまでも変わらないのにな。
「そりゃー、負けられないな」
外された腕を、そのままフルスウィングをするように振ってみせる。
「僕だって負けないもん」
ムーとムキになって反論してくる姿は、ホントいつまでも変わらない。
小学校の頃から今までずっと一緒にいて、共に成長し、ここまで大人になったけど、本質的な事は変わらなかった。
素直で、一生懸命で、お人好しで、頑固。それが榎木拓也という人間。
拓也だから、今まで一緒にいることができたし、これからも一緒にいたいと思う。

「万が一、ホントに俺が負けたら、マジで帰る気?」
「…………」
困ったような顔で見上げてくる拓也は、まるで捨てられた子犬のよう。
そんな顔するクセに、自分から前言撤回しないのは、ホント負けず嫌いで頑固のまま。
そして、そんなとこも可愛く感じてしまうのは、惚れた弱み、敵わない。
(ったく、しょうがねーなー)
と思いつつ、でもホントに帰られたら、一生懸命 仕事を熟してきた昨日までの自分も浮かばれない。
「帰さねーよ」
グイッと肩を引き寄せ帰さない宣言。
「藤井君…」
「そん代わり、お互い遠慮ナシに本気でやろうぜ?どうせやるなら、思いっきり楽しみたいしな」
「うん!」
パッと表情が明るくなり、声も弾む。
うんうん、これでこそ拓也だ。

さて、この週末は、思いっきり満喫してやる。
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