君に交錯する道標

「俺はそこらにいる普通の15の男子でそんなに大人じゃないし、寧ろ…お前の方がしっかりしてる分、将来見据えてるのかと思ってた」
「そ、そんな事ないよ!!」

僕はしっかりなんかしてないし、将来なんか不安で不安で仕方ないよ…。

二人顔を見合わせて、クスリと笑い合う。

「何か、前にもこういう事あったね」
「あぁ、自分の印象で、相手の人格を決め付けるってヤツな」

お互いがお互いを羨んで、でもそれであの時はちょっとした言い合いになってしまったけれど、今はそれで笑い合える。
それだけ、あの頃よりほんの少し成長した証拠なのかもしれない。
あの時、本音をぶつけ合えたのも良かったんだと、二人はお互いに思っている。

「それにな、榎木」
「ん?」
「ウチの兄貴や姉貴見てるけど、アイツらそんな真剣に将来のこと決めて高校受験してねーぞ」
自分の学力に見合った学校選んでるってだけで…。
「広瀬や宮前は、たまたま将来の目標があるってだけで、まだ将来の事なんてコレって決め付ける必要ねぇんじゃねーの?」
「藤井君…」
拓也は大きな目を更に見開いて、藤井を見た。
そんな拓也に、藤井は一瞬ドキリとする。
「…やっぱり、藤井君ってオトナだ」
僕の不安な気持ちをいつも救ってくれる、と今度は目を細めて微笑みかける。

先に跳ねた鼓動が、そのまま勢いを増していくのを藤井は自覚する。

「えの…」

無意識に拓也を呼ぼうとした藤井の声を遮って、昼休み終了の予鈴が鳴り響いた。
「あ!教室戻らなくちゃ!」
ね、藤井君、と振り向きながら校舎への入口に向かって拓也は走り出す。

「榎木!」
そんな拓也の右手首を掴んで藤井は呼び止めた。
「ん?」
「で、榎木は、志望校 どこに考えてるんだ?」
肝心な事を聞いていない、と藤井はダイレクトに拓也に聞いた。
「えーっと、まだ決定じゃないけど…」
少し考えて、
「まだ時間あるから、もう少し頑張って、公立の一番上目指してみようかなって…」
「お、俺も!」
「ホント!?」
拓也の顔がパッと明るくなる。
「じゃあ、お互い合格したら、また4月から一緒だね!」
「お、おぉ…」

(やっべぇ…俺の偏差値、あとどれだけ足りない?)
一応それなりの偏差値を持ってはいるが、トップ校まではあと一歩足りない。

「藤井君と同じ高校行けたら、すごく嬉しいー。僕、勉強頑張るね!」

階段を下りながら、ニコニコとそんな事を言われてしまったら、藤井だって何が何でも同じ桜を咲かせたい。

折角方向を揃えた道標。
(さて、これから気合い入れて受験勉強しなきゃな)
と、覚悟を決める藤井だった。


「俺はてっきり、お前は教師でもめざすのかなーって思ってたんだけど」
三年の教室が並ぶ廊下まで出て、お互いの教室まで残り数メートル。
「え、何で?考えたこともなかったけど…」
「んー、何となく…何事にも一生懸命だし、責任感あるし、面倒見いいからかな…」
「ちょ、藤井君…僕そんなんじゃないよ…あ、でも」
藤井の褒め言葉の連続に拓也は赤くなりつつ、自分もチラッと思った事を告げてみる。

「藤井君も面倒見がいいから、保育士さんなんか似合いそうだと思ったんだよねー」

思いもよらない発言に、藤井は吹き出した。

「はぁ?ぜってぇありえねぇ」
「そうかな?」

教室の入口の別れ際。
立ち止まって交わした最後の言葉。

「榎木、藤井、授業始めるぞ。自分の教室はよ入れ」
「藤井ー!遅刻にすっぞー!」

拓也のクラスの5限目の担当教師が二人の後ろで立ち往生し、藤井のクラスの入口ではそちらの担当が叫んでいる。

「わっ、すみません」
「うるせー、今行くっつーの」

ボソッと呟いた藤井は拓也のクラスの教師に頭を出席簿で軽くはたかれ、いそいそと後ろのドアから教室へ入る。
拓也も教室へ入り自分の席へ着くと、前の席の広瀬が後ろを振り向き声を掛けてきた。

「榎木…藤井に保育士はどう考えたって合わねぇぞ」
「あ、聞こえてた?…そうかな?あれでいて、面倒見いいし、優しいよ、藤井君」

(それは榎木にだけだよ)

鈍いにも程がある…と広瀬は思ったが、

(まぁ、それは黙っておこう)

と思い直して、教科書を開いた。


-2013.09.16 UP-
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