君に交錯する道標

昼休み、拓也は担任に言われた通り、アンケート用紙を回収して職員室へと向かった。
「佐々木君と山口君は忘れたそうですけど…」
「全くアイツらはー」
用紙を担任に手渡して、忘れた級友の報告をすると、担任の呆れた返事が返って来た。
ちょっといい加減なところのあるその級友たちを思い返して、拓也もハハと苦笑いをしていると担任が改めて拓也に声を掛けた。

「進路、悩んでるのか?」
「え」
「まだ出てないから、調査票」
「あ」
拓也が言い淀んでいると
「まぁ、お前は成績もいいし、こうして級長の役割もしっかり熟す。こちらとしては、成績面での合否の心配はしてないけど、進学先とその先を決めるのは自分自身だ。…まだ時間はある。納得いくまでしっかり考えるがいいさ」
「…はい」

調査票の提出を催促されるかと身構えた拓也だったが、ゆっくり考えろと言われ、少し安堵の表情を見せる。
その表情を見て担任も少し安心したのか「相談ものるしな」と付け加えられた。
「有難うございます。失礼します」と拓也は担任に会釈をして、職員室を後にした。



教室へ戻る途中、拓也はトイレから出てきた藤井とその前で出くわした。
「藤井君…!」
「榎木」
一緒に教室へ向かいながら、二言三言交わす。
すると、藤井は拓也の違和感に気づいた。

「何か悩んでる?」
「え?」
「何となく、気落ちしてる雰囲気」
「…………」

拓也は驚いた表情で藤井を見上げ、少し恥ずかしそうに「そんなに僕って分かり易い?」と目線を外し言う。

「分かり易いと言うか…」

(榎木のこと見てるから…)

「…そうだな。昔から、榎木の悩み顔は見てきたからな!実のこととか」

出かけた言葉を飲み込んで、笑いながら別の言葉で誤魔化す。

「ひどいなぁ…まぁ事実、だろうけど…」

昔から、一人悩んでいるとさりげなく手を差し伸べてくれた存在。
この人は、この先、どんな人生を歩むのだろう…。

(せめて、一緒の高校に行けたら…)

もう少し、一緒にいたい。
いつかは分かれる道筋。
だって、この人と自分では、あまりにも違う。
道標は、違う方向を向いているのは確実で。
いつまでも甘えていてはいけない。
でも、せめて、あと少し…。

「藤井君…」
「榎木?」
「少し…話さない?」


屋上へ行くと、気持ちの良い風が二人の間を吹き抜けた。
昼休みの時間は残り僅か。
早速、拓也は口を開く。

「志望校、決め兼ねてて…」
苦笑顔で、藤井を見る。
「自分が何したいのか、何になりたいのか…何が出来るのか、まだ全然分からなくて…でも、広瀬君や宮前君はしっかり目標なんかがあったりして、ちょっと焦り気味」

「え?」

自分よりしっかり者の拓也。
将来のことは、はっきりとではなくても、何かしら目標を決めているだろうと思っていた藤井は、目から鱗が落ちる気分だった。

「藤井君は?藤井君の将来の目標って何?」
「は?」
「藤井君は、僕なんかよりずっと大人だから、きっともうなりたい職業とか決めてるかなーって」
「ちょっと待て、待て待て」

将来の目標とか、なりたい職業なんか元より、志望校ですらまだ決めちゃいない。

「お前、相変わらず俺のこと過大評価しすぎ」
「え?」
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