移り行く季節の中で…

「最初、何処から行く?」
パンフレットを見ながら、アトラクションを選ぶ。
「一加ちゃんは、何乗りたい?」
ごく自然に真っ先に一加の希望を聞こうとする辺り、根っからのフェミニストな拓也。
「メリーゴーランドは、絶対乗りたい」
「実は?」
「光線銃でモンスター退治するヤツ!」
「あぁ、トロッコ乗って廻るヤツ…」
「まぁ、無難なとこだな」
「じゃあ最初だし、メリーゴーランドから行きますか」

流石に高校生ともなると、メリーゴーランドに乗るのは気が引けるよね、と実と一加を乗り場の入口で見送って、二人で柵の外で待機。
ゆっくりと動き出したそれを見て、行ってらっしゃーいと手を振る。

「あ、そっか」
ふと、藤井が呟く。
「? 何?」
「こうして、ちびっ子向けのアトラクションを廻ってアイツら乗せておけば、お前と二人になれる」
ニッと笑ってナイスアイディアと藤井は指を鳴らす。
そんな藤井を拓也は若干呆れ顔で見た。
「もう、またそういう事言う…」
「俺は、いつだって、榎木と二人でいたいけど」
柵に肘をつき、頬杖の体勢で寄り掛かって平然と言い放つ藤井に、拓也は赤くなった顔を隠すように柵に背中を預けて、藤井とは反対側に顔を背ける。

「藤井君って、もっと人に対してクールかと思ってた…」
「んー、クールというかは無関心、だな。実際どうでもいいヤツはどうでもいいし。でも…」
そこまで言って、グイッと拓也の顔を自分に向かせる。

「その分、興味のあるヤツには、とことん執着するらしい」

かぁーっと更に頬に熱が集まるのを拓也は感じ、しかし添えられた手で顔を背けることを許されない状況に、目だけを泳がせる。

「らしいって…他人事みたい」
「あぁ。だって、俺も知らなかったし」

お前だけだよ、俺をこんなにするのは。

(あ、ダメ。流される…)

「兄ちゃーん、ただいまー」
「みっ実っ!!」

藤井からパッと離れ、駆け寄ってきた実に視線を合わせるべく、膝を折る。

(あ、危なかったぁぁぁぁ!!)

「た、楽しかった?」
「うん!」

ニコニコと兄に報告をする実の傍らで、一加は自分の兄を見上げる。

「流石に公衆の面前は頂けないかと思うわよ?」
「るせっ」
「節操なしは、嫌われるモト」
片目を瞑って人差し指を立てる様は、一端の恋愛アドバイスをする女子というところか。
「…それも ”恋のお勉強”とやらの受け売りか?」
「失礼ね。タマモノと言って頂戴」
「一加ちゃん、難しい言葉知ってるんだね」
次行こうかと実と手を繋ぎ二人に意識を向けると、最後の一加の台詞だけ耳に入った拓也は、凄いねーと関心をする。

「拓也お兄様、昭広兄ちゃんが粗相犯しそうになったら、遠慮なくはっ倒しちゃっていいから」
「え…っ!?」
「一加!!」
「さー、次は実ちゃんの乗りたいアトラクションよー」

これ以上はマズイと思った一加は、実の手を取り走り出す。

「あ、コラ!迷子になる…っ」
「ったく、一加のヤツめ」

急いで追いかけて…と言っても、所詮は小学生低学年の足、瞬足を誇る二人には何ら問題はなかったが。

「榎木」
「ん?」
二人を捕まえて、アトラクションのスタンバイに並ぶ。
「まぁ、二人になりたいのも本音だけど、折角の遊園地を楽しみたいのも、本音だ」
「うん、そうだね」
ニッコリ笑って、異議なしと答える。
「よし、じゃあ榎木。兄弟対決な。どっちが得点数高いか」
「望むところ」
兄弟2:2に分かれてトロッコに乗り込み、モンスター退治を楽しんだ。


その後もお化け屋敷やミラーハウス、絶叫マシーンなんかも取り混ぜて、アトラクションを堪能した。


「わ、もう大分陽が落ちるの早くなったね…」

時計を確認すると、もうすぐ午後6時。
気付くと園内の照明やアトラクションのイルミネーションが輝き出していた。

「どうする?そろそろ帰る?」
「あ、待って、お兄様!」
一加は拓也の服の裾を引っ張る。

「最後に観覧車、乗りたい!」

瞳をキラキラさせて、グラデーションのイルミネーションを放っている、ここの目玉アトラクションの一つ、大観覧車を指差す。

「僕も乗りたい!」
「あ、そっか。まだ乗ってなかったしね。今からなら、夜景も綺麗そう…ね、藤井君」
「そうだな」

列に並んで順番を待つ間に、パンフレットに書いてある観覧車の説明を拓也は読み上げる。

「高さ60mを誇る大観覧車。1周約12分だって」
結構長いね、と目の前にそびえ立つ観覧車を見上げる。

順番が来て、先にちびっ子二人を乗せようとした拓也と藤井の手を一加はスルッと抜けて、実の手を取る。
「私、実ちゃんと二人で乗りたい!お兄ちゃん達 先乗って!!」
「!」
「一加ちゃん!?」
榎木兄弟がハモって一加の名を呼んでる間に、藤井が拓也の手を取り乗り込む。

「サンキュー 一加」
藤井がそう言った瞬間、係員によって、ゴンドラの扉が閉められた。
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