移り行く季節の中で…

目覚まし時計のアラームを止めた流れで、身体を起こしぐっと伸びをする。
ベッドから降りてカーテンを勢いよく開けたら、眩しい光が入ってきた。

「遊園地日和!」

さあ、出掛ける準備を致しましょう。



まだ夏の陽射しが若干残る9月の週末。
それでも空気は随分と秋めいてきて、朝夕は涼しくなってきた。

「弁当は持って行かないのか?」
「うん。荷物になるし、向こうで適当に食べるよ」

春美はパジャマ姿のまま、出掛ける準備をする息子達の様子を眺めていた。

「藤井君と一加ちゃんと4人で行くのな?」
「うん、そう」
「あれ?一加ちゃんの下にもう一人いなかったっけ?」
「うん、マー坊。マー坊は、藤井君のご両親と旅行だって」

正確に言えば、小説家である藤井母の取材旅行について行った…であるが。

「パパ、昨日も遅かったでしょ?まだ寝てていいよ」
9月は幸か不幸か、連休が多い。
その為、平日の仕事量が増えて、残業をせざるを得ないのだ。
「お前たちを見送ってから、そうさせてもらうよ」
ふあっと欠伸をしながらまだ眠そうにしている父親に苦笑を漏らしながら、拓也は朝食を済ませ隣の部屋で身支度をしている実の様子を見に行った。

「実、用意できた?」
「うん。バッチリ!」

帽子までしっかり被った実がVサインをして返事をする。

「じゃ、行こっか」
「うん!」
「気をつけて行ってこいよ」

「行ってきまーす」と元気良く玄関を出て、二人仲良く手を繋いで歩いて行く息子達の背中を春美は見送る。
「うちの息子達は、ホント仲が良いなぁ…」
ね、由加子さん。と、春美は夏に比べて随分と高くなった青空を仰ぎ見た。



「藤井くーん!」
駅前での待ち合わせ。
先に着いて待っていた藤井兄妹の姿を見つけて、拓也は走り寄った。

「お待たせ。一加ちゃんも、おはよう」
「そんな待ってねぇよ」
「それに、好きな人を待つ時間も、乙女にとっては大切な時間なのよ、お兄様」
「そうなんだ…」
相変わらず大人びた事いうなぁ、一加ちゃんは…と内心苦笑しながら、拓也は藤井に目を向けた。

(いつも思うけど…出掛ける時の私服の藤井君、カッコイイなー…)

特に出掛けない休日の、Tシャツにジーンズだけのラフな格好も様になってるんだけど。
何ていうか、高校生になって、グッと大人っぽくなったというか…。

「榎木?」
「ふえ?」

無意識にじっと見つめてしまっていた為、不意に声を掛けられ変な返事をしてしまった事に拓也は赤面する。

「あ…ゴメン、何?」
咄嗟に平静を装うが、頬の赤さはごまかしきれない。
「いや、行くか?」
改札の方を指差して方向を示す藤井に「うん!」と答える拓也。
弟妹たちに「行くよー」と声をかけ、実の手を改めて取る拓也に藤井が耳打ち。

「そんな目で見られると、チビら置いて行きたくなる」

「ふっ藤井君っ!!」
何言って…と慌てる拓也に、藤井はもう一度ダメ出しをする。

「榎木がソノ気なら、俺は全然構わねぇけどな」
「だっダメだよ!!」

(うー…、気を引き締めなくちゃ…)
空いている方の手で、頬をペチペチと叩き、拓也は気持ちを落ち着かせた。



流石連休の初日。
地元の遊園地は家族連れでなかなかの盛況振りである。

「いいか?迷子になったら、容赦なく園内放送して呼び出してやるからな」
「やめてよね、昭広兄ちゃん!!」
「煩い。それが嫌だったら、絶対勝手な行動取るなよ」

入口で入場券を買って、受付で乗り物のパスカードを受け取る。
そのカードを手渡しながら、藤井は妹に念を押す。
「お前は前科持ちだからな」

(あ、そんな事もあったっけ…僕たちが小6の時)

あの時は別々に来ていて、偶然園内で会ったんだっけ、と拓也はふと思い出した。

(結構、藤井君って昔のこと覚えてるよね…)

特に同じクラスになってからの思い出は、お互い共通の思い出でもあるから、拓也は嬉しく感じる。
これからも、そんな風に思い出を重ねていきたい、いけたらいいな…と心から思った。
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