[天然×鈍感×罪作り]に想いを告げる方法

夏休みが終わって一週間。
やっと長期休暇の不規則だった体内時計が通常に戻ってきた頃、またやらかしてくれました天然王子。


「藤井君はさー、好きな子いないの?」
「………は?」


夏休みの大会を最後に部活を無事引退し、これから放課後はまっすぐ家へ帰るだけとなった中三の9月。
想い人に「一緒に帰ろー」と誘われ、肩を並べて帰路に着くさながら、突然言い放たれた台詞。

「何をイキナリ…」

まさか自分の密かなる想いに気付かれたのではなかろうかと少しドギマギしていると、

「藤井君て、カッコイイよね」

頭半分程差の出来た身長。
下から覗くように見上げて、少し怒っているような雰囲気で榎木は言う。

「え、榎木…?」

「悔しいなぁ…小学生の頃は、殆ど体格差なかったのに」

(いや、榎木は俺より大きくなられたら困る)

声に出して言ったら、思いっきり怒られそうだから言わないが。

「…そういう榎木は、好きな相手はいないのかよ」
(あ、やべ…)
流れでついうっかり出た質問。
もし「いる」なんて言われたら、これから本格化する受験戦争が待ち受けているというのに、勉強どころじゃない。

「僕?僕はいない、けど…」

つい、と下から上目遣いで見上げられ、

「僕が女の子だったら、きっと藤井君の事好きになってただろうなぁって…」

(な…っ!!)

んて事 言いやがる…っ。

これは何だ?
天然でも言って良い事と悪い事があるだろうよ。

(って、ちょっと待て)
"女の子だったら…"


殆ど、無意識だった。
でも、この天然で鈍感なコイツに、俺の気持ちに気付いて欲しい…とも思ったのかもしれない。


「榎木…」

トン…。

建物側を歩いていた榎木を、そこの壁に両手を着いて閉じ込める。

「…藤井君、近い…」
「近付いてんだから当たり前だろ」
「藤…」
「俺は、榎木だったら、女子じゃなくてもいいんだけど…」

(さて、言っちまったぞ)

榎木の返答次第で、俺の残りの中学生活の明暗が分かれる。
下手したら、志望校も変えなきゃならんだろうな…。
あー、地獄行きになったらどうすんだ俺。
背中に嫌な汗が流れるのを感じた。

今更引き下がれないこの状況に、内心涙目になっている俺に下された審判。

「ホント?」
「…え?」

引っ込みのつかない俺の目をじっと見つめて繰り返す。

「ホントに、女の子じゃなくてもいいの?」
「お、おぉ!」

何?
もしかして、通じたか!?

すると、榎木はパッと満面の笑みになり、こう言った。

「よかったぁ!それって、もし藤井君に彼女が出来ても、僕は僕で友達として、変わらずにいてもいいって事だよね!」
「…は?」
「あ、勿論、邪魔はしないから安心してね」
「ちょっと待て、どういう事だ」

榎木を閉じ込めたまま、問い詰める。

「藤井君モテるから、そのうち彼女作っちゃうんだろうなぁ…そしたら、今までみたいに僕が隣にいたらダメだよね」

上目遣いで「そう思ったら、寂しく感じちゃって…」と言う榎木に悶えそうになった。

これは、喜んでいいのかどうなのか。
態勢を立て直すべく、気を取り直して取り敢えず。

「今は彼女とかいらない。榎木と一緒にいる方が楽しいから、余計な気遣いすんな」

脱力感満載で、壁に着いていた手を離す。

「お前はどうなんだよ。夏休み前、告られてただろ」
「な!んで知って…」

いつも見てるから、当然だ。

慌てる榎木を無言で見ていると、観念したように榎木は溜め息を吐いた。

「僕も、今は彼女とかいらない。…僕も藤井君といる方が楽しい」

そう言った榎木は、少し照れた様子で。

(今は、これでいっか)
下手に進んでも、それはそれで色々大変な事態になる(何せ15歳の健康男子だからな!)。

「さて、帰るか」
「うん」

再び通学路を歩き出す。
「今は彼女はいらない」と言った榎木。
いつから解禁になるのか。
きっと、コイツがその気になったら、想いを成就させる事なんてた易い事だと思う。
榎木に好かれて嬉しくないヤツなんて、いない筈。
そうなる前に、暫くしたらまた迫ってみようか。


「今は僕達、相思相愛だねー」
「!!」


誰かこの鈍感で天然な可愛い罪作りをどうにかして下さい。


-2013.09.06 UP-
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