拍手㉑

「何だってまた、こんな梅雨の時期に星の祭りがあるんだろうな」
「え…?」

しとしと雨が降る窓の外を眺めて藤井がポツリと言ったことに、拓也は思わず聞き返した。
星の祭り…とは、恐らく季節柄「七夕」のことであるだろうし、普段そういった言い伝えや迷信めいたことに興味を示さない藤井から、自らそういう類いの話題が出るとは思いも寄らなかった故の疑問だった。

「何で?」
「何で…って、まあ、今丁度こんな事してるから…?」

数日後に迫った学期末テストに臨むべく、今机に広げている教材は地学の教科書・資料集。
更には開いている内容は、天文のページだったりする。

「あと、一加たちが昨日短冊に願い事書いてたからよ」
「あぁ。うちも実が書いてたな。学校であるんだよね、七夕集会」

小学校の行事で、七夕集会がある、と実も楽しみに話していたし、自分たちの遠い記憶にも朧気ながらに残っていたりもする。
短冊に願い事を書いて、クラスに用意された笹に飾りつけ、まあ後は、体育館で全校生徒が集まって七夕伝説のスライドアニメを観たり、歌を歌ったり…そんな感じだったか。

星に因んだ伝説なのに、日本のその時期は梅雨まっただ中、晴れる日は数年を遡っても少ない。

「あ、そういえばこの前、TVで面白いこと言ってたな」
「何?」

まさか藤井とこんな話題で話すことはないだろうなと思っていた拓也は、TVで知ったというそれをニコニコと話す。

「七夕の夜に降る雨のことを『さいるいう』って言うんだって。漢字で書くと『涙を催す雨』って書くんだけど」
言いながら、拓也はノートにその字を書いてみせた。
「織姫と彦星が流す逢瀬の後の惜別の涙とか、逢瀬が叶わなかった為の涙、とか言われてるんだって」

「へー……。? で、どっちなんだ?」

一度相槌を打った藤井だが、数秒の沈黙の後、聞き返した。

「へ?」
「言ってること真逆じゃねーか。『会えた後の別れの悲しみ』と『会えなくて悲しい』のと」
「あ……、うー……どっちだろ?」

うーん…と考えた後、「どうせなら」と拓也は顔を上げた。

「僕だったら、『嬉し涙』かな!」

「嬉し涙?」

「うん。だって、僕が藤井君と一年に一回しか会えなくて、それが叶ったらきっと泣いちゃうくらい嬉しいもん。同じ雨降るなら、会えなくて流す涙より、会えて流す涙の方が幸せだよね」

にっこり笑って言う拓也に、藤井は即座に言葉を返せずにいた。

「藤井君…?」
「……っ、俺は!」

呼びかけられて、はっと我に返って。

「ムリヤリ離れ離れにさせられるようなヘマ、しねーしさせねーよ!」
「ぶっ」

照れ隠しに拓也の鼻をつまみながら言い放つ。

「痛いなー…でも、そうだね。やるべきことは、しっかりやらなくちゃ」
「夏休み、赤点補講でつぶれるなんて真っ平だぜ」


七夕が過ぎ、テストも終われば夏本番。
その頃には梅雨も終わりを告げ、楽しい夏休みが待っている。

今年の夏休みはどう過ごそう。
学校が離れたゴンちゃんや森口君にも久々に会いたいな。
新しくできた高校の友達とも遊びたい。
勿論、藤井君と二人で遠出するのも楽しそう。

テスト勉強は辛いけど、その先の楽しみに思いを馳せて。

「やっぱり、一年に一度なんて、耐えられないや」
「榎木?」
教科書を見ながら、お互い一問ずつ交代で一問一答していた合間の拓也の呟き。

「藤井君、今年の夏休みは、たくさん遊ぼうね」
「おぉ」

雨上がり、キラキラの夏は、目前に。


☆――――――――☆


拍手有難うございます。管理人の綾見です。
6月はブッチしたので、5月振りの更新となりました。
七夕の話にするなら、ちゃんと七夕に間に合わせろよ、と自分で自分を叱っておりますので、ハイすみません。
 
七夕についてネット徘徊していたら、催涙雨という言葉にぶち当たりまして。
その時に幾つかの記事をざっと読んだだけのにわか知識で書いてしまったので、私も詳しくは分かりませんが…藤井君と同じ疑問を持ったのですよ。結局どっちだよってww

去年と今年は、私の住んでいる地域は晴れていました。でも、その前はずっと雨の年が続いてたなぁ。

皆さんのお願い事は、叶いましたか?

-2014.07.10 UP-
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