拍手⑳

新緑の中を颯爽と風を切る。
いつも歩く道を、今は自転車で走り抜けていた。

(自転車久々だけど、気持ちいいなぁ)

学校の登下校、電車通学の駅までの道のりは徒歩通学。
商店街への買い物も、歩きで行くことが多い。

そして今のこの状況はというと。
前かごには、2リットルペットボトル数本と紙コップ、個包装が施されているお菓子の大袋パック数個の入ったレジ袋。

要は、クラスの買い出し部隊だった。

来月に学校の創立記念日があり、拓也たちの高校はその日は休日にならずに、こともあろうに創立祭なるものが催される。
とは言っても節目となる年でもないので、簡単な、いわゆるプチ学祭というか、小学校でいう学芸会という感じで、講堂で各クラスで一芸を披露をする程度で、簡単な劇だったり、合唱だったり、器楽演奏だったり。
これが節目の周年記念にかち合うと、本格的な式典となり、公立ゆえに県や市の偉い来賓が来たりスピーチがあったりと、生徒にとってとてもツマラナイ行事となるらしいが。

その関係で、ここ最近放課後は残って練習に参加しているわけだが、こんな中途半端な時期、運動部と吹奏楽部などの一部の文化部は大会の予選も控えているとかで、専ら参加者は大会などのない文化部と帰宅部の生徒に集中した。


「今日も頑張る生徒たちの為にー、担任が差し入れ費に二千円だけ提供してくれましたー。ので!コンビニよりも安くたくさん買える駅前ドラッグストアまで買い出し部隊、男子生徒!ハイッじゃんけんっ」

委員長の突然のまくし立てる掛け声に、慌てて男子生徒たちが拳を振り上げ咄嗟に出されたグー・チョキ・パー。
その後リズミカルに「(あいこで)しょっ!しょっ!しょっ!」と繰り返されたそれに、最後まで残った拓也の手……広げられたパーはクラス代表の座を見事に射止めていた。

「チャリ通のヤツ、榎木にチャリ貸してやれー」
「一人じゃ大変だろ、もう一人」
「俺行く」

広げられた自分の手を呆然と眺めていた拓也だが、仕方ないと脱いでいたブレザーのジャケットを羽織り出掛ける支度をしていると、藤井が手伝いに名乗りを挙げていた。

「え、いいよ藤井君、早々に勝ち抜けてたし。僕と負け越してたのって、…中橋君だったよねぇ?」
「榎木……」
ちょいちょいと、中橋に耳貸せ仕草をされ「素直に藤井に甘えとけ。ここで俺が行ったら、後が怖いわ」と耳打ちされた。

「な…にソレっ」
「ホイ。俺のチャリキー」

中橋に自転車の鍵を渡され、藤井も他の級友から鍵を借りて「行ってらっしゃーい」とクラス全員に見送られることになって、今に至る。


「藤井くーん、自転車っ気持ちいいねー」

前方を走る藤井に聞こえるように声を張り上げる。

「お?おー」
「自転車通学もいいよねー。僕たちのところからじゃ、ちょっと遠いかな?」

走りながら、車の通りがないことをいいことに、藤井の隣に並んだ。

「今の時期だからいいだろうけど、これから夏になったら暑くて地獄だぞ」
「あ、そっか……」
「まあ、体力有り余ってる高校生にとっては、いい発散方法なのかもしれないけどな」
「藤井君……」

それも毎日となったら、やっぱ大変だよねと、拓也は毎日自転車通学をしている級友たちを思い起こすとスゴイなーと思った。

風を受けながらそれでもやっぱり気持ちいいなと思っていたら、藤井に声をかけられた。

「今度行くか?」
「え?」
「サイクリング」
「わー行きたい!」
「やっぱ行くなら、秋か今の時期がいいだろうし」
「うんうん。梅雨に入る前に!」

うわー楽しみ♪ と拓也のペダルを漕ぐ足がより軽快になる。

「さ、藤井君!早くしないとみんな待ってるよ!」
「待たせときゃいいんだよ、担任も金出すならついでに車も出せってーの」
「そんな……」

藤井の言葉に拓也は苦笑しながら続けた。

「でもそのお陰で、こうして藤井君と自転車乗ってサイクリングの約束できたから、僕は嬉しいよ!」

すると、藤井は急にブレーキをかけた。

「藤井君!?」

突然急停止した藤井に合わせて、拓也もブレーキをかける。

「……榎木」
「何?」

瞳をくりんとして拓也は藤井を見返した。

「あー、今、チャリ邪魔」
「え、何で」
「榎木をハグできない」
「はっ!?」

藤井はハンドルに両肘をついて、組んだ両手に額を当て大きなため息を一つ。
そしてその体勢のまま、拓也にチラッと視線を投げかけた。

「そんな事言われたら、ハグしたくなるだろーが」
「何で!? しなくていいよっ」

一応コレ、まだクラス活動の一環なんだからねっと拓也は慌てて自転車を漕ぎだす。

「学校着いたらハグしていい?」
「しなくていい!!」

ニコニコと後を追う藤井を振り払うように、学校を目指して全速力でペダルを漕ぐ拓也だった。


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拍手有難うございます。
毎度お馴染みの挨拶ですみません管理人の綾見です。
5月もラスト週に入って更新ですか、ハイ。もう今月本気で更新できないかと思っていました……。
自転車乗るには一年でいちばん気持ちのいい季節だと思います。
ホントはね。二人乗りさせたいなーとか。後ろは意外に藤井君でもいいなーとか。
それを書けよと自分ツッコミ。

地方高校生の大部分の通学方法は自転車だと思っているのは偏見でしょうか。
綾見は片道12kmを毎日チャリ通してました。
夏も冬もね、それが当たり前なので、拓也が思っているほど凄くもないし偉くもないです。自己ベストは35分で学校到着!あの頃の自分のチャリ漕ぎスキルは最高潮でした。

6月はもう少し早く!更新を…!!(先月も同じこと書いた!詐欺師!!)

今回も拍手・ご拝読、有難うございました。

-2014.05.26 UP-
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