拍手⑲

『春眠暁を覚えず』

かの有名な漢詩の一節。
本来は「春の夜はまことに眠り心地がいいので、朝が来たことにも気付かず、つい寝過ごしてしまう」という意味らしいが、この心地よい気温、朝に限らず眠気を誘(いざな)われるのは、やはり春独特の空気だからと言えよう。

(おまけに腹いっぱいの5限目だしな)

そんな言い訳を頭の中でしながら、今まさに、その漢詩の解説をしている古典教師の眠くなる声を右から左へ聞き流し、欠伸を一つ。

そろそろ限界、榎木、今日の分のノートも任せたと、意識を飛ばす一瞬手前、藤井が3列斜め前の彼の姿を確認すると――――

(……マジで?)

いつもは真面目に板書を書き写し、教師の言葉に耳を傾けている拓也の後ろ姿が、いつもと何かが違う。
時折揺れる頭、その動作に気付くと咄嗟に頭を振る。
そう言えば昼休み前、「眠い」と言っていた拓也に、無情にも担任が何か用事を頼み、彼の昼休みを根こそぎ奪ったことを思い出した。
その為、昼休みに寝そびれて、今のこの状態という訳だ。

眠かったら授業中だろうとお構いなしに居眠りを決め込む藤井とは違い、拓也は何が何でも寝るものかと、頑張っている。
その様子は、拓也の斜め後ろの席の小野崎にも分かるようで、時折背中をつついてこっそり声をかけている様子。

(この時間のこの陽気にこの授業、流石の榎木も睡魔に襲われる、か)

何だかレアなモンが見れた♪と、藤井は自分の睡魔がすっかり撃退されたことに気づき内心笑った。




「榎木、帰るぞ」
「あ、うん」

今日は5限で終了。帰りのHRも終われば放課となる。

いつもは特に用事がなければ帰宅組と教室に残り、少しだべったりして過ごすこともあるが、今日はHR終了後すぐにそう声をかけられたことに拓也はキョトンとする。

「藤井君、今日何か用事あるの?」
「あるような、ないような」
「何それー」

クスクスと笑う拓也の腕を掴み、「じゃーな」と級友たちに声をかけ、足早に教室を出た。


放課後になったばかりの電車は帰宅部のラッシュに入る前で、まだ電車は空いていた。
余裕のある席に二人並んで座ると、藤井は拓也の頭を自分の肩に寄せかけるように傾けた。

「ふ、藤井君!?」
「眠いんだろ?」
「え…」

慌てて頭を起こして聞き返す拓也に藤井は。

「5限目、船、漕いでた」
「あ……」

見られてた!という表情をして途端に赤くなる顔。

「珍しいよな♪」
「あ、ぅ…、だ、だって、昨夜なかなか寝付けなくて……っ」
おまけに、昼休み先生に呼ばれて昼寝しようと思ってたのにできなかったんだもん…と、小さく呟く。
そんな拓也が可愛くて。
「だからさ」
もう一度、その小さな頭をぐいっと抱き寄せて。

「着くまで寝てろって」
起こしてやっから、と言われ、戸惑いはしたものの、多分ここで意地を張っても最寄り駅まで起きている自信はなくて。

「うん」

素直に甘えることにした。


頭を寄せて感じる藤井の匂いに安心してすーっと意識が遠くなっていく感覚の中、「寝付けないって、何かあったか?」と聞かれた気がしたけど。

(藤井君のこと考えてたんだよ)

眠りに堕ちる直前、いつも想うのは、きみのこと――――。


☆――――――――☆


拍手有難うございます。毎度芸のないご挨拶ですみません綾見です。
4月拍手SS。もう4月も残り一週間切ってるのにな。すみません。

春は眠くなる季節です!綾見は年中眠いです!(ダメな大人の極み)
たっくんだって人間だもの。授業中眠くなることもありますよ。
寝ちゃいけないと頑張る姿も、藤井さんにとっては萌えの対象でしょう。
あれ?こんな展開前もあったような?
綾見は藤井君派ですねー堂々と寝てました☆
しかも国語当番(クラス内で各教科当番が割り当てられ、その教科の授業前に御用聞きという仕事があり、雑用(教材運びなど)を押し付けられる)で担当教師クラス担任で、一番前の席で寝てました(テヘペロ←死語)。
あと社会科全般と音楽のクラシック鑑賞の時と地学生物学(因みに部活は生物部)……殆どだ!!(ガビン!!)
5月はもう少し早く更新したいと思います。

今回も、拍手・ご拝読、有難うございました☆

-2014.04.25 UP-
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