拍手⑯

「う~~~、寒いっ」
学校帰り。電車を降りて駅舎から出ると、凍えるような北風が二人を吹き付けた。
「電車の中があったかい分、降りた後の温度差が辛いよね」
拓也はマフラーを口元まで上げながら、思わずグチが出てしまった。

「藤井君は、寒いの苦手じゃなさそう…」

肩を竦ませて縮こまりながら歩き横目で見上げる視線を、藤井もまた横目で見下ろす。

「俺だって、寒いもんは寒ぃよ。朝は起きたくないし」
「あ、僕も僕も」

目覚め一番、布団の中で繰り広げられる「起きなきゃー、でも布団から出たくないー」のあの葛藤は、朝からなかなかのストレスになる。

「榎木は朝飯やら弁当やらの支度で、俺より早起きだもんな。偉いよホント」

ポケットから出した手で、ポンと頭を撫でられて。
体感的には寒いけど、心はホワッと温まる。
そんな藤井の動作に、拓也はえへへと笑って応える。

「父さんばっかに負担は掛けられないもの」
「俺には出来ねぇな」
「そんな事ないよ。藤井君だって、やらなきゃいけない状況になったらやるでしょ?じゃなきゃ、子供の頃、一加ちゃんやマー坊の事ほったらかしにしてたよ」

でしょ?と笑顔で下から顔を覗き込むような形で見上げてくる拓也に、藤井はドキリとしつつ。

(今にして思えば、榎木が実の保育園の迎えやら面倒見やらしてたから、一緒になってやってただけだよなー…)

相方が後藤だけだったら…うん、絶対やらない。

そう確信して、見上げる拓也の寒さで赤くなった鼻をギュッとつまんだ。

「ぶっ!? な、何すっ」
「そんな顔して見上げてくると、ちゅーするぞ」
「は!? 何言ってんの!?」
「さぁな」

スタスタと前を歩く藤井を追いかけながら賑やかな駅前商店街の中を歩いていると、馴染みのお肉屋さんの大将から声がかかった。

「拓也君に昭広君!今帰りかい?」
「はい。ただいまです」
立ち止まって返事をする拓也に、大将が「寒いし腹減ったろ。あったかい揚げたてコロッケどうだ?」と勧めてきた。

藤井と顔を見合わせてクスリと笑い、「じゃあ、一つずつ」と財布を取り出す。

「学割プラスお得意様のダブル割引で、50円ずつな」
「え!? いいんですか!?」
「さっき仕事帰りの春美ちゃんが、豚肉500グラム買ってってくれたし。今日の榎木家はとんかつだ」
50円玉と引き換えに、「いい肉売りつけたから、今日のとんかつは一段と美味いぞー」とカラカラ笑う大将から揚げたてのコロッケを受け取る。
「あと、一加ちゃんとマー坊が鶏肉買いに来たから、藤井家は唐揚げか?」
「親子丼かもしれねーですよ」

アハハと笑い合い、「ご馳走になります」と挨拶して、また歩みを進める。

コロッケをひと口頬張ると、サクッと軽い音がして、口の中に馴染みのある味が広がった。
「んー、やっぱお肉屋さんのコロッケ美味しー」
「あったまるしな」
ホクホクと温かいコロッケに、話も弾む。
「冬は食べ物が美味しいよねー。屋台のたい焼きに、コンビニの中華まん♪藤井君は何が好き?」
「やっぱスタンダードに肉まんだな」
「僕はあんまんが好きー」

陽が傾き時間が進むにつれ、冷え込みも厳しくなるが、だからこそ味わえる、冬ならではのささやかな贅沢。
朝は寒くて起きるのが辛いけど、学校帰りにこうして藤井君と肩を並べて食べるコロッケも捨て難いと思う拓也だった。


☆――――――――☆

拍手有難うございます。毎度お馴染み管理人・綾見です。寒いですっ。
気づけば新年明けて、もう半月。あれ?拍手更新してないよ?ということで、リクエストもまだ途中ですが、拍手上げさせて頂きましたっ。
多分、ここでもう1回冬の話書いたら、次はきっと春の話ですね。
そう思うと早いなぁ。この寒さもあとふた月くらいってことですもんね。
でも、そのふた月が極寒なワケなんですが。うぅー早く春来ーい!

この話、実は後半(商店街)部分、先月のSSの原稿だったんです。
でも、別に12月じゃなくてもよくね?と思って、差し替えたのが、クリスマスの話。
だから最初は、先月の古典のノートがどうのこうのの後に、コロッケ食べてたんですよ。
でも差し替えたはいいが、没にするのも何だか勿体無かったので、残しといて1月SSに使い回し(オイ)。
2ヶ月連続代わり映えしない下校風景で失礼致しました。
来月は…違うシチュエーションでお届け出来るように頑張ります、ハイ。
今回も、拍手・ご拝読、有難うございました!

-2014.01.14 UP-
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