拍手⑮
日直の仕事を終えて、部活の休憩中の友達なんかと偶然遭遇して喋っていたり、そうこうしているうちに教師に捕まり雑用なんか頼まれたりしたもんだから、自宅の最寄り駅に向かう電車に揺られる頃にはすっかりと暗くなってしまった。
「藤井君、先帰ってても良かったのに…」
「んー、暗くても時間的にはそんな遅くないから気にすんな」
時刻的にはまだ18時少し前。
今はもう空は真っ暗な時刻だが、これが夏だったらまだまだ明るい時間。
そう言われれば、数ヶ月前までは、まだ余裕で下校途中の寄り道などを楽しんでいた時間でもある。
(尤も、夕飯の支度のある拓也は、そうしょっちゅう寄り道をしているわけではないが)
「それに、図書室で待ってる間、寝てた古典の授業ノートの写しと復習はかどったし」
いつも分かり易いノート サンキューなと笑ってみせる藤井に、拓也は若干呆れる。
「僕なんかのノートでそれだけ理解出来るんだから、ちゃんと起きて授業聞いてればいいのに…」
「あー、ダメなんだよなー。最初は大丈夫でも、あの聞き慣れない単語の羅列と、あの声色は眠気をいざなう…」
「藤井君…」
確かに、担当教師であるちょっと年配の女性教師の声色はおっとりとしていて、実際藤井の他にも睡魔にあっさり白旗を挙げて机と一体化している生徒は毎回数人いたりする。
これが、空腹も満たされたうららかな午後一の枠だとか、日当たりの良い窓際の席だったりすると、何の拷問かという程だった。
「それに、やっぱ、お前のノート見やすくて分かり易い」
もう一度、ありがとなと言いながらポンと頭に触れて、しかしその笑顔は先程とは違う笑顔で、拓也はドキリとした。
(だって…後から藤井君が見るかもって思ったら、頑張ってノート取っちゃうよ…)
しかも板書を書き写すだけでなく、教師の言ったポイントまで聞き逃さず書き込んであるのだから、全く授業を聞いていない藤井にも理解出来るというもの。
お陰で、藤井の古典のテストの成績は、赤点どころかかなり高いものだったりもする。
そんなんだから、クラスメイトの布瀬なんかに「榎木は藤井に甘い」とよく言われてしまうのだが。
電車を降り、改札を潜って外に出ると、駅前に設置された大きなクリスマスツリーの点灯が始まっていた。
「うわぁ…今日点灯式だったんだー」
毎年見てるけど、やっぱ綺麗だねーと、拓也は見上げる。
一週間程前…11月の終わりから現れたそのツリーは、昨日まではまだ灯りが灯ることはなく、今朝も変わらず鎮座していたのだが。
今は色とりどりの光の粒を身に纏い、優しく幻想的な雰囲気を醸し出している。
「去年までは、あまり駅前まで来ることなかったけど、今年からは毎日登下校で見るんだね」
ウキウキと心弾む様子が、拓也の口から紡がれる言葉にリズムを乗せる。
そんな拓也を見る藤井も、自然と表情が綻んだ。
「今年は、クリスマス、どうしようか?」
「え?」
「去年みたいに、仁志や後藤と遊ぶのもいいし、それとも…」
目を細めて自分を見る藤井に、拓也は直視できずにドギマギとしてしまう。
「え…っと…」
「ん?」
視線を足元に落とし、代わりに視界に入った藤井のコートの裾をキュッと握る。
「一緒に…過ごせたら、いいな…って」
たどたどしく小さく呟く拓也の頬に藤井はそっと触れ、その感触に、拓也は顔を上げて言葉を続けた。
「ふっ藤井君が、よければだけどっ」
その言葉に、藤井は一瞬目を見開いたが、すぐにフッと苦笑し言った。
「俺はいいに決まってんだろ」
その笑みに、拓也は気付く。
「藤井君、わざと言わせたでしょ?」
「何を?」
しれっと、しかし確実に揶揄うような笑顔に拓也はカァーっと顔を赤くして反論する。
「はっ、恥ずかしいんだからねっ。こんな…クリスマスに一緒にって…女の子みたいなこと…考えてる…って…」
「じゃあ…」
段々と言葉が尻つぼみになっていく拓也に、藤井はツリーを見上げて言葉を被せた。
「俺も女々しいということで」
自分の隣でツリーを見上げる藤井の横顔に、思わず拓也はプッと吹き出す。
「女々しい藤井君って、オカシイ…っ」
「あ、このやろ」
クスクスと笑う拓也に、藤井は今度は荒々しく拓也の髪をわしゃわしゃと掻き乱しながら「それでも…」と言葉を続けた。
「榎木とこのツリー見てたら、クリスマスに誰かと過ごしたくなる気持ちが初めて分かった気がした」
☆――――――――☆
拍手有難うございます。毎度お馴染み管理人・綾見です。
戯れ言に書きましたが、一度このSSのデータ吹っ飛ばしてます。
展開はこんな感じだったんですが…最後の藤井の台詞が思い出せないっ。何故ならば、半分寝てたから。
何か違う~、もっと座りのいい台詞だった気がする…何て言ったんだふじー!!
まあいいや…思い出せないし…どう転んでも、今回の藤井、いつも以上に別人だし。
ハイ!改めまして、何なんでしょうねこの話。ショートケーキにシロップ(@一加ちゃん)です。
まあ、アレです。幻想的なクリスマスイルミのお花畑トリップマジックです(綾見の頭が)。
このお話は単体で扱って下さっても、先日UPした『X'mas Express』の数日前としても読めると思います(日付的には「点灯式」とあるので12/1希望)。お好きにとって下さいませ。
拍手・ご拝読有難うございました!
-2013.12.06 UP-
「藤井君、先帰ってても良かったのに…」
「んー、暗くても時間的にはそんな遅くないから気にすんな」
時刻的にはまだ18時少し前。
今はもう空は真っ暗な時刻だが、これが夏だったらまだまだ明るい時間。
そう言われれば、数ヶ月前までは、まだ余裕で下校途中の寄り道などを楽しんでいた時間でもある。
(尤も、夕飯の支度のある拓也は、そうしょっちゅう寄り道をしているわけではないが)
「それに、図書室で待ってる間、寝てた古典の授業ノートの写しと復習はかどったし」
いつも分かり易いノート サンキューなと笑ってみせる藤井に、拓也は若干呆れる。
「僕なんかのノートでそれだけ理解出来るんだから、ちゃんと起きて授業聞いてればいいのに…」
「あー、ダメなんだよなー。最初は大丈夫でも、あの聞き慣れない単語の羅列と、あの声色は眠気をいざなう…」
「藤井君…」
確かに、担当教師であるちょっと年配の女性教師の声色はおっとりとしていて、実際藤井の他にも睡魔にあっさり白旗を挙げて机と一体化している生徒は毎回数人いたりする。
これが、空腹も満たされたうららかな午後一の枠だとか、日当たりの良い窓際の席だったりすると、何の拷問かという程だった。
「それに、やっぱ、お前のノート見やすくて分かり易い」
もう一度、ありがとなと言いながらポンと頭に触れて、しかしその笑顔は先程とは違う笑顔で、拓也はドキリとした。
(だって…後から藤井君が見るかもって思ったら、頑張ってノート取っちゃうよ…)
しかも板書を書き写すだけでなく、教師の言ったポイントまで聞き逃さず書き込んであるのだから、全く授業を聞いていない藤井にも理解出来るというもの。
お陰で、藤井の古典のテストの成績は、赤点どころかかなり高いものだったりもする。
そんなんだから、クラスメイトの布瀬なんかに「榎木は藤井に甘い」とよく言われてしまうのだが。
電車を降り、改札を潜って外に出ると、駅前に設置された大きなクリスマスツリーの点灯が始まっていた。
「うわぁ…今日点灯式だったんだー」
毎年見てるけど、やっぱ綺麗だねーと、拓也は見上げる。
一週間程前…11月の終わりから現れたそのツリーは、昨日まではまだ灯りが灯ることはなく、今朝も変わらず鎮座していたのだが。
今は色とりどりの光の粒を身に纏い、優しく幻想的な雰囲気を醸し出している。
「去年までは、あまり駅前まで来ることなかったけど、今年からは毎日登下校で見るんだね」
ウキウキと心弾む様子が、拓也の口から紡がれる言葉にリズムを乗せる。
そんな拓也を見る藤井も、自然と表情が綻んだ。
「今年は、クリスマス、どうしようか?」
「え?」
「去年みたいに、仁志や後藤と遊ぶのもいいし、それとも…」
目を細めて自分を見る藤井に、拓也は直視できずにドギマギとしてしまう。
「え…っと…」
「ん?」
視線を足元に落とし、代わりに視界に入った藤井のコートの裾をキュッと握る。
「一緒に…過ごせたら、いいな…って」
たどたどしく小さく呟く拓也の頬に藤井はそっと触れ、その感触に、拓也は顔を上げて言葉を続けた。
「ふっ藤井君が、よければだけどっ」
その言葉に、藤井は一瞬目を見開いたが、すぐにフッと苦笑し言った。
「俺はいいに決まってんだろ」
その笑みに、拓也は気付く。
「藤井君、わざと言わせたでしょ?」
「何を?」
しれっと、しかし確実に揶揄うような笑顔に拓也はカァーっと顔を赤くして反論する。
「はっ、恥ずかしいんだからねっ。こんな…クリスマスに一緒にって…女の子みたいなこと…考えてる…って…」
「じゃあ…」
段々と言葉が尻つぼみになっていく拓也に、藤井はツリーを見上げて言葉を被せた。
「俺も女々しいということで」
自分の隣でツリーを見上げる藤井の横顔に、思わず拓也はプッと吹き出す。
「女々しい藤井君って、オカシイ…っ」
「あ、このやろ」
クスクスと笑う拓也に、藤井は今度は荒々しく拓也の髪をわしゃわしゃと掻き乱しながら「それでも…」と言葉を続けた。
「榎木とこのツリー見てたら、クリスマスに誰かと過ごしたくなる気持ちが初めて分かった気がした」
☆――――――――☆
拍手有難うございます。毎度お馴染み管理人・綾見です。
戯れ言に書きましたが、一度このSSのデータ吹っ飛ばしてます。
展開はこんな感じだったんですが…最後の藤井の台詞が思い出せないっ。何故ならば、半分寝てたから。
何か違う~、もっと座りのいい台詞だった気がする…何て言ったんだふじー!!
まあいいや…思い出せないし…どう転んでも、今回の藤井、いつも以上に別人だし。
ハイ!改めまして、何なんでしょうねこの話。ショートケーキにシロップ(@一加ちゃん)です。
まあ、アレです。幻想的なクリスマスイルミのお花畑トリップマジックです(綾見の頭が)。
このお話は単体で扱って下さっても、先日UPした『X'mas Express』の数日前としても読めると思います(日付的には「点灯式」とあるので12/1希望)。お好きにとって下さいませ。
拍手・ご拝読有難うございました!
-2013.12.06 UP-
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