拍手⑭

秋から冬への移り変わり。
日中は、陽が射し風がなければまだ暑く感じる日もあるが、雨が降ったり陽が高くない朝夕は随分と冷え込むようになってきた。
そんな中途半端な季節は、着衣の調節が難しい。

「おっす、榎木」
「おはよー、藤井君」

登校途中で合流し、一緒に駅へ向かう。
高校へ入学してから何となく、毎日同じ時間の電車に間に合うように家を出ていたら、自然と習慣になった。
お互いに特に約束していたわけではない、だから合流地点も大体は同じだけど厳密にはまちまち、付き合い始める前からの登校風景。

「マフラー、あったかい?」

拓也の首にはマフラー。

「うん。朝はだいぶ寒くなってきたから巻いてみた」

まだコートは早い気がするし、でもブレザーだけじゃ肌寒いし、首あったかくすれば体感温度上がるし、いらなくなっても荷物にならないし。

「優れもの♪」

へへっと笑って藤井を見上げる。

「そのマフラー見ると、冬来たなーって感じする」
「え?」
「そのチェック柄。小学生の頃から愛用してるだろ」

藤井の言葉に思わず拓也の顔が赤くなる。

「よ、よく覚えてるね」

何となく気恥ずかしく感じたことにより、頬にほんのり熱が集まった拓也は、無意識にマフラーの結び目を緩めた。

「まーな。物持ちいいな」
「うん。お気に入りは、長く使いたいから」

その時、少し強めの風が二人の間を吹き抜けた。
少し火照った頬には心地良く、でも標準スタイルのブレザーだけの藤井君は寒くないのかな?と思った拓也は、思ったまま口に出した。

「藤井君は、寒くない?」
「まあ、ちょっとは肌寒いな…でも」

と言ったと同時に藤井の右手が拓也の左手をフワリと包み込み、そのままズボンのポケットへ。

「こうすれば、寒くない」
「ふ、藤井君!」

「大通りに出るまでの、限定だけどな」

ニッと笑い、ポケットの中で指を絡めて繋ぎ直す。
そんな藤井に、風で落ち着いた筈の頬の熱が、その前以上の温度に上昇させるのを拓也は自覚した。

そして、とうとうマフラーの結び目を全部解くこととなる。

「あれ、マフラー取ンのか?」
「だっ、だって…っ」

片方の手が繋がれて、もう片方だけでは畳めないから首に引っ掛けたまま。

「あったかい通り越して、充分すぎる程暑いよっ」



まだ暫くは、防寒対策は不要のようです――――。

☆――――――――☆

拍手有難うございます!管理人の綾見です。
毎度同じ挨拶で失礼致します。

さて、11月。11月ともなれば、だいぶ寒くなってくる筈ですが(いや、確実に寒くなってはいますが)、綾見の学生だった頃に比べるとこんなあったかかったっけ?と思うような体感なんですが…どうなんだろ。

今月の拍手SS何書こうーと考えていた時、ふと思い出したのが、拓也のマフラー。
いつも原作の冬のお話では、登下校する時や遊びに出掛ける時、チェック柄のマフラー巻いてたなーと。
ずっと愛用してたらいいなぁと思っての、今回のお話。たっくん、物持ち良さそうだし。
でも、藤井君といたら、きっと体感温度上昇しちゃうよね☆

拍手・ご拝読、有難うございました!

-2013.11.05 UP-
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