拍手⑬
10月。
10月と言えば、深まりゆく秋・衣替え・体育祭にハロウィン……誕生日。
拓也は自分のチェストの中身を夏の衣から秋・冬のものへと入れ替えながら、窓から見える空を見た。
すっかりと高くなった青い空にはいわし雲。
窓から入る風は、少しずつだが日に日に冷たさを増してきた。
「秋…だなぁ」
ポツリと呟き、最後に制服の長袖のシャツを一番上に入れて、引き出しを閉めた。
「よし、次は実の服!」
自室を出て1階に下り、父親と弟が寝室に使っている部屋へ向かう。
そこに、実の使っている洋服ダンスがあるからだ。
押入れの中のキャスター付きのボックスを引っ張り出して、数ヶ月前にしまった冬服を出し始めた。
そして、数枚取り出して、ふと気付く。
小さくないか…?
考えてみれば、去年の冬服。
初夏に入りしまう頃には、だいぶ小さくなっていたように感じる。
「何着か買い替えかぁ…」
そう言い、まだ着れそうな服ともう無理だろうと思う服を仕分けながら思い出したとある事。
押入れのふすまに再び手をかけ、奥から引っ張り出した古いダンボール。
(確か…)
開けて出したのは、かつて自分が着ていた洋服。
一番上に、記憶に残っているお気に入りだった一着が乗せられていた。
と、共に蘇る幼い日の思い出、母との記憶。
学校から帰ると、昨日まで着ていた長袖はタンスの中から消え、代わりに真新しいシャツと久し振りに見る夏服が引き出しの中に詰まっていた子供の頃の衣替え。
これを洗濯して片付けたのは、紛れもなく母だった。
一番上にあったその服を手に取り広げる。
『拓也、また今日もそれ着るの?』
『うん!コレすきー』
『洗濯した次の日は、必ずそれだなー拓也』
繰り返し着た筈のその服は、着古した感があるものの、汚れやほつれは全くなく。
母が大切に手入れをしてくれていた事が伺える。
「ママ…」
秋風と共に運ばれてくる空気は、何だか心をセンチメンタルにさせる。
広げたその服を胸に抱きしめ、じわじわと込み上げる感情と涙を拓也は、暫くそのままにした。
「あれ?実、その服…」
「カッコイイ?」
ニコニコ笑って、実は両腕を広げて見せた。
「パパ、覚えてる?」
拓也を見て、春美は微笑む。
「勿論。だってそれは、拓也の7歳の誕生日に、ママが買ったプレゼントだからな」
――――Happy Birthday to Someone Special...
数日後、とあるカフェにて。
「榎木、これ誕生日プレゼント」
「え!?いいの?…ありがとう」
藤井から渡されたラッピングが施されたショップの包み。
「開けていい?」
「どうぞ」
「わ…」
リボンを解いて出てきたのは、一着の洋服。
「そういうデザイン、好きだろ。いつもそんな感じ」
「うん!ありがとう!」
肩口に当てて合わせてみる。
「似合う?」
「うん、似合ってる……誕生日、おめでとう」
「ありがとう、藤井君」
ありがとう…ママ、僕を産んでくれて、ありがとう。
改めて、思う、大切な、想い。
これからも、素晴らしき日々を、大切な人たちと共に…。
☆――――――――☆
拍手有難うございます!管理人の綾見です。
今月は、我らがたっくんのお誕生月!という事で、リクエストまだ未消化のものがありますが…すみません、拍手を先に更新させて頂きました。
やっぱり、サイト始めて初めて迎えるたっくんのお誕生日なので…何かしたかったのです(>△<)
拓也の服の好みのルーツは、由加子ママでした、という話。
どんな服かは、皆様の素敵なセンスにお任せします。
藤拓というよりは、物思いに耽るたっくんな話になってしまいましたが…。
秋はセンチメンタルになりますね。
ちょっともの悲しげな、それでいて胸がキュンとするような…そんな秋の空気は嫌いではありません。
そんな空気に包まれて、読書でもよし、運動でもよし、食欲もよし、芸術もよし。
皆様もそれぞれの秋を満喫されますように。
ご拝読、有難うございました!
-2013.10.05 UP-
10月と言えば、深まりゆく秋・衣替え・体育祭にハロウィン……誕生日。
拓也は自分のチェストの中身を夏の衣から秋・冬のものへと入れ替えながら、窓から見える空を見た。
すっかりと高くなった青い空にはいわし雲。
窓から入る風は、少しずつだが日に日に冷たさを増してきた。
「秋…だなぁ」
ポツリと呟き、最後に制服の長袖のシャツを一番上に入れて、引き出しを閉めた。
「よし、次は実の服!」
自室を出て1階に下り、父親と弟が寝室に使っている部屋へ向かう。
そこに、実の使っている洋服ダンスがあるからだ。
押入れの中のキャスター付きのボックスを引っ張り出して、数ヶ月前にしまった冬服を出し始めた。
そして、数枚取り出して、ふと気付く。
小さくないか…?
考えてみれば、去年の冬服。
初夏に入りしまう頃には、だいぶ小さくなっていたように感じる。
「何着か買い替えかぁ…」
そう言い、まだ着れそうな服ともう無理だろうと思う服を仕分けながら思い出したとある事。
押入れのふすまに再び手をかけ、奥から引っ張り出した古いダンボール。
(確か…)
開けて出したのは、かつて自分が着ていた洋服。
一番上に、記憶に残っているお気に入りだった一着が乗せられていた。
と、共に蘇る幼い日の思い出、母との記憶。
学校から帰ると、昨日まで着ていた長袖はタンスの中から消え、代わりに真新しいシャツと久し振りに見る夏服が引き出しの中に詰まっていた子供の頃の衣替え。
これを洗濯して片付けたのは、紛れもなく母だった。
一番上にあったその服を手に取り広げる。
『拓也、また今日もそれ着るの?』
『うん!コレすきー』
『洗濯した次の日は、必ずそれだなー拓也』
繰り返し着た筈のその服は、着古した感があるものの、汚れやほつれは全くなく。
母が大切に手入れをしてくれていた事が伺える。
「ママ…」
秋風と共に運ばれてくる空気は、何だか心をセンチメンタルにさせる。
広げたその服を胸に抱きしめ、じわじわと込み上げる感情と涙を拓也は、暫くそのままにした。
「あれ?実、その服…」
「カッコイイ?」
ニコニコ笑って、実は両腕を広げて見せた。
「パパ、覚えてる?」
拓也を見て、春美は微笑む。
「勿論。だってそれは、拓也の7歳の誕生日に、ママが買ったプレゼントだからな」
――――Happy Birthday to Someone Special...
数日後、とあるカフェにて。
「榎木、これ誕生日プレゼント」
「え!?いいの?…ありがとう」
藤井から渡されたラッピングが施されたショップの包み。
「開けていい?」
「どうぞ」
「わ…」
リボンを解いて出てきたのは、一着の洋服。
「そういうデザイン、好きだろ。いつもそんな感じ」
「うん!ありがとう!」
肩口に当てて合わせてみる。
「似合う?」
「うん、似合ってる……誕生日、おめでとう」
「ありがとう、藤井君」
ありがとう…ママ、僕を産んでくれて、ありがとう。
改めて、思う、大切な、想い。
これからも、素晴らしき日々を、大切な人たちと共に…。
☆――――――――☆
拍手有難うございます!管理人の綾見です。
今月は、我らがたっくんのお誕生月!という事で、リクエストまだ未消化のものがありますが…すみません、拍手を先に更新させて頂きました。
やっぱり、サイト始めて初めて迎えるたっくんのお誕生日なので…何かしたかったのです(>△<)
拓也の服の好みのルーツは、由加子ママでした、という話。
どんな服かは、皆様の素敵なセンスにお任せします。
藤拓というよりは、物思いに耽るたっくんな話になってしまいましたが…。
秋はセンチメンタルになりますね。
ちょっともの悲しげな、それでいて胸がキュンとするような…そんな秋の空気は嫌いではありません。
そんな空気に包まれて、読書でもよし、運動でもよし、食欲もよし、芸術もよし。
皆様もそれぞれの秋を満喫されますように。
ご拝読、有難うございました!
-2013.10.05 UP-
1/1ページ