拍手⑪

夏休み。
本日の天候、快晴。
気温35度。
普通に暑く、普通に気怠い夏の午後。
でも、室内はエアコンが効いていて、かなり快適。
そんな夏休みの、とある日のひとコマ。


「外は暑いよー藤井君」

洗濯物を取り込んで、庭から適度な温度に調節された室内に戻って来た拓也の開口一番。

「お疲れさん」
と、藤井はテーブルに置いてあった麦茶をグラスに注ぎ拓也に渡す。
ありがと、とそれを受け取り、拓也は一気に喉へ流し込んだ。

「生き返るー。ちょっと外出ただけでも、汗で水分飛んじゃうよね」

空になったグラスをテーブルに置き、拓也はリビングの奥に続く隣の部屋へ洗濯カゴを運ぶ。

「取り込むの、もう少し陽が傾いてからじゃダメなのか?」

読んでいた雑誌から顔を上げ、襖を開けられ続き間になっている隣の部屋で洗濯物を畳む体勢になっている拓也に藤井は問う。

「んー…別にいいんだけど…」
「!」
拓也は畳もうと手にしていたタオルを持って藤井に近付くと、フワッとそれで藤井の頬を包み込んだ。

「ほら、ふわふわでしょ?今の時期、この時間に取り込むのが一番気持ちいいんだ」
だから家にいる時は、この時間帯に取り込むんだーと、嬉しそうに言いながら、拓也もそのタオルに頬を寄せる。

(もうすっかり、家事の達人だなぁ…)

そんな風に思いながら、でもそんな拓也がらしくて、幸せそうにタオルに顔を埋める姿が可愛らしく微笑ましい。
と同時に、藤井の頭に被せるように残された洗いたてのタオルの香りが、よく知る拓也の香りを思い出させる。

「榎木」

藤井はそのタオルを適当に折り畳みながら、隣室に戻りテキパキと洗濯物を畳む拓也に近付き背中から抱きしめた。

「ふっ、藤井君!?」
「タオルと同じ匂い」

肩口に顔を埋めて、クンとTシャツの上から鼻で空気を吸い込む。

「や…っ、嘘だよ、汗かいたし」
「ま、確かに汗も混ざった匂いするけど…」
「待…、藤井君!」

急な展開にわたわたと慌てる拓也にお構いなしに、事を進めようとする藤井。

(わぁー、もう何がきっかけでこうなったー!?)

タオル被せただけで何でー!?とパニクる拓也の首筋にキスをして、シャツの中に藤井が手を差し入れた、その時。

「たっだいまー!」

ガラッと玄関の引き戸が開く音と、元気な声。

「兄ちゃーん、おやつぅ…って、何やってんの?」
「え、いや、何でもナイヨ?」

実の急な帰宅に、パニックにパニックが重なった拓也は、両腕プラス右脚が綺麗に伸ばされた体勢――則ち、思いっ切り藤井を突き飛ばしていた。

「藤井の兄ちゃん、大丈夫?」
「まあな」
「何でつきとばされてんの?」
「さあな」
「みっ実!おやつ、冷凍庫にアイスあるから、一つ食べていいよ」
「はーい♪」

キッチンに入って行く実を溜息を吐いて見送る。
「実のヤツ、急に帰ってきやがって…」
藤井はぶつけた腰をさすりながら愚痴を零すが、
「僕は藤井君の思考回路の方が解らないよ」
と拓也は藤井を赤面した困り顔で睨みつけた。

「でも…」
チラッと上目遣いで藤井を見遣り、
「急に突き飛ばしたのは…ごめんね」
と、謝る。
元はと言えば藤井の無茶振りが原因なのに、そんな謙虚な態度と上目遣いに胸が高鳴り、拓也の頬に藤井の手が思わず伸びる。

「兄ちゃーん、藤井の兄ちゃんも、アイス食べる?」
「!」
「ってぇ!!」

ひょこっとアイス3つを手にして、キッチンから顔を出した実は、また先程と同じ体勢になっている兄とその友人(と実は思っている)を目撃する事となった。

「藤井の兄ちゃん、大丈夫?」
「まあな」
「何で…」
「さぁー、皆でアイス食べよっかぁ!!」


☆――――――――☆
拍手有難うございます!
管理人の綾見です。
毎度同じ挨拶で失礼致します。

今回は、夏休みのとある一日のひとコマをお話にしてみました。
これから、その月や季節にまつわるSSを書いていこうかな…と。
勿論、拍手文のご要望・リクエストがございましたら、そちらを優先にさせて頂きますので、もしございましたら、お気軽に♪

ご拝読、有難うございました!

-2013.08.03 Up-
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