拍手⑩
今日の日直は藤井と布瀬。
藤井が教室で日誌を書いていると、バタバタと走って来る足音と「ちょっと待て!」と、ゴミ捨てに行っていた相方の声がこちらに近付いて来た。
「藤井!」
ガラッと教室のドアを開ける音と中橋の藤井を呼ぶ声が同時に響き、煩いのが来た、と藤井は日誌から顔も上げずに返事をする。
「何だよ」
「おい、中橋…」
布瀬が制止するのも聞かずに放たれた言葉。
「榎木が超美人と校門前にいる!!」
瞬間、教室を飛び出ようとする藤井に布瀬は
「残りの仕事は貸しだからな」
とすれ違い様に溜息混じりに言い
「サンキュ」
と藤井は短くお礼を言って、昇降口を目指して行った。
「榎木!!」
校門のすぐ外で立ち話をしている拓也に声を掛ける。
「藤井君!仕事終わったの?」
早かったね、と言う拓也の隣に視線を移すと
「―――広瀬!?」
超美人の正体は、かつての同級生・広瀬努 だった。
「な、何で広瀬がここに?」
「別に俺が何処にいようと勝手だろうが」
「まあ、そうだけど…」
相変わらず榎木に対しては盲目というか何と言うか…と、広瀬は久々に会う元同級生を呆れて見る。
「あ、あのさ、藤井君ももう帰れるなら、移動しようか?」
まだ若干生徒の行き来が残る放課後、「榎木君が他校(しかも制服が芸術系名門の高校!)のイケメンと話してる!」と女子達が騒いでいたところに藤井が加わり、更に注目が集まっていた。
「俺もいつまでも他校の校門前って落ちつかねぇし、どっか行くか!」
「わっ!?」
広瀬は拓也の腕を掴んで駆け出す。
「お、おい!?」
慌てて追い掛ける藤井に
「俺の用は榎木だけなんだけど!」
と広瀬は言うが
「俺も榎木に用事あんだよ!」
と追い掛けながら反論する。
(広瀬君はわざわざ他校まで来る位なんだから急用なんだろうけど…藤井君の用事は何だろう?)
広瀬に腕を引かれながら走る拓也は、相変わらずの鈍感だった。
取り敢えず、駅前のファストフード店へ入り、それぞれオーダーと受け取りをし、一つのテーブルに落ち着く。
「早速なんだけど」
「うん?」
広瀬が拓也に向かってケータイを差し出す。
「この前ケータイ水没させて、データ全部吹っ飛んだから、榎木の番号とアドレス教えて」
シレッと言う広瀬に藤井は吹いた。
「おっ前、んな事でわざわざうちの高校来たのかよ!」
「悪いか?」
「暇だな」
呆れて言う藤井に
「暇じゃねぇよ、失礼な奴だな」
こちとら、今月末〆切りのコンクールの課題抱えてんだよ!
と広瀬は真面目に答える。
「まあまあ、広瀬君、赤外線でいい?」
「ん」
と、二人仲良くケータイをかざす。
その様子を不機嫌そうにコーラを飲みながら眺める藤井。
「で、用はこれだけ?」
「まあ、一番の用件はこれだけど」
広瀬は送られたデータを登録、と操作をし、ポテトを1本口に咥えた拓也を見てニッコリ笑う。
「久々に会いたいと思って」
「僕も久々に会えて嬉しいよー」
拓也もほわっと笑んで、ほんわかな雰囲気を醸し出す美人系と可愛い系のイケメン二人に、近くの席に座ってる他の客(時間的に学生多数)の視線が集まるのを、藤井は感じる。
(尤も藤井も、二人と同時に「クールでカッコイイ」と囁かれてはいるのだが)
「コンクールって美術の?」
「あぁ、今水彩画やってて…」
先程出たコンクールの話題に拓也が興味を示し、二人話が盛り上がる。
広瀬は父の背中を見て、マンガではないが自分も絵やデザインをやりたいと、名門美大や音大への進学率が高い芸術の強い高校へと進んだ。
広瀬の父親は、今や人気のマンガ家になっていた。
話が盛り上がる中、拓也のケータイが鳴った。
「あ、父さんからだ。ちょっと出てくるね」
拓也が席を立ち、店の外へ出ると、当然テーブルには藤井と広瀬が残される。
「まさか、今になってお前が出てくるとはな」
藤井が広瀬に言い放つと
「まあ、そろそろちょっかい出すには良い頃合いかなと思って」
不敵な笑みで広瀬も言い返す。
「森口から聞いたぜー、昔の臨時教員巻き込んで派手に喧嘩したんだって?」
「はっ!?」
「あ、森口、俺の親父のファンで俺とメル友。あと、宮前からもその話聞いてる」
以前、実の現担任で、かつての自分達の臨時教員だった寛野と拓也を、不覚にも疑ってしまった藤井の汚点。
(あンのお喋り共めー!!)
つか、
「嫌なネットワークだな、それ!!」
「ま、お前の周りは敵だらけって事だよ♪」
榎木はそれだけの存在だって事だ。
「泣かしたら、俺も許さねぇ」
整った顔で睨まれるのは、結構迫力がある。
「もう泣かしてねぇよ」
絶対、泣かさない。
「覚えてろよ」
「お前こそ」
目が笑っていない笑顔を互いに交わしているところへ、拓也が戻って来た。
「お待たせーって…何か二人ピリピリしてない?」
「別にー」
「何でもねぇよ」
ふーん…?と席に座る拓也に広瀬が声を掛ける。
「あ、今度、親父が榎木と実に会いたいって。時間取れる?」
「ホント?僕たちならいつでも!お父さん元気?あ、"先生"って言わなくちゃね」
「そんなの気にすんな」
またも盛り上がる二人を見て溜息を吐く藤井に
「んじゃ、今度の週末、榎木借りるわ」
と不敵に笑う広瀬だった。
☆――――――――☆
拍手有難うございます!毎度お馴染み綾見です。
今回の拍手お礼は、リクエスト「拓也争奪戦シリーズ」広瀬君ver.でした。
落ちてない!落ちがないよ綾見!!
拓也に対して宮前君は友愛だけど、広瀬君は少し恋愛?
どちらにしても「拓也独り占めする藤井許すまじ」って事でv
有難うございました!
-2013.07.04 UP-
藤井が教室で日誌を書いていると、バタバタと走って来る足音と「ちょっと待て!」と、ゴミ捨てに行っていた相方の声がこちらに近付いて来た。
「藤井!」
ガラッと教室のドアを開ける音と中橋の藤井を呼ぶ声が同時に響き、煩いのが来た、と藤井は日誌から顔も上げずに返事をする。
「何だよ」
「おい、中橋…」
布瀬が制止するのも聞かずに放たれた言葉。
「榎木が超美人と校門前にいる!!」
瞬間、教室を飛び出ようとする藤井に布瀬は
「残りの仕事は貸しだからな」
とすれ違い様に溜息混じりに言い
「サンキュ」
と藤井は短くお礼を言って、昇降口を目指して行った。
「榎木!!」
校門のすぐ外で立ち話をしている拓也に声を掛ける。
「藤井君!仕事終わったの?」
早かったね、と言う拓也の隣に視線を移すと
「―――広瀬!?」
超美人の正体は、かつての同級生・広瀬努 だった。
「な、何で広瀬がここに?」
「別に俺が何処にいようと勝手だろうが」
「まあ、そうだけど…」
相変わらず榎木に対しては盲目というか何と言うか…と、広瀬は久々に会う元同級生を呆れて見る。
「あ、あのさ、藤井君ももう帰れるなら、移動しようか?」
まだ若干生徒の行き来が残る放課後、「榎木君が他校(しかも制服が芸術系名門の高校!)のイケメンと話してる!」と女子達が騒いでいたところに藤井が加わり、更に注目が集まっていた。
「俺もいつまでも他校の校門前って落ちつかねぇし、どっか行くか!」
「わっ!?」
広瀬は拓也の腕を掴んで駆け出す。
「お、おい!?」
慌てて追い掛ける藤井に
「俺の用は榎木だけなんだけど!」
と広瀬は言うが
「俺も榎木に用事あんだよ!」
と追い掛けながら反論する。
(広瀬君はわざわざ他校まで来る位なんだから急用なんだろうけど…藤井君の用事は何だろう?)
広瀬に腕を引かれながら走る拓也は、相変わらずの鈍感だった。
取り敢えず、駅前のファストフード店へ入り、それぞれオーダーと受け取りをし、一つのテーブルに落ち着く。
「早速なんだけど」
「うん?」
広瀬が拓也に向かってケータイを差し出す。
「この前ケータイ水没させて、データ全部吹っ飛んだから、榎木の番号とアドレス教えて」
シレッと言う広瀬に藤井は吹いた。
「おっ前、んな事でわざわざうちの高校来たのかよ!」
「悪いか?」
「暇だな」
呆れて言う藤井に
「暇じゃねぇよ、失礼な奴だな」
こちとら、今月末〆切りのコンクールの課題抱えてんだよ!
と広瀬は真面目に答える。
「まあまあ、広瀬君、赤外線でいい?」
「ん」
と、二人仲良くケータイをかざす。
その様子を不機嫌そうにコーラを飲みながら眺める藤井。
「で、用はこれだけ?」
「まあ、一番の用件はこれだけど」
広瀬は送られたデータを登録、と操作をし、ポテトを1本口に咥えた拓也を見てニッコリ笑う。
「久々に会いたいと思って」
「僕も久々に会えて嬉しいよー」
拓也もほわっと笑んで、ほんわかな雰囲気を醸し出す美人系と可愛い系のイケメン二人に、近くの席に座ってる他の客(時間的に学生多数)の視線が集まるのを、藤井は感じる。
(尤も藤井も、二人と同時に「クールでカッコイイ」と囁かれてはいるのだが)
「コンクールって美術の?」
「あぁ、今水彩画やってて…」
先程出たコンクールの話題に拓也が興味を示し、二人話が盛り上がる。
広瀬は父の背中を見て、マンガではないが自分も絵やデザインをやりたいと、名門美大や音大への進学率が高い芸術の強い高校へと進んだ。
広瀬の父親は、今や人気のマンガ家になっていた。
話が盛り上がる中、拓也のケータイが鳴った。
「あ、父さんからだ。ちょっと出てくるね」
拓也が席を立ち、店の外へ出ると、当然テーブルには藤井と広瀬が残される。
「まさか、今になってお前が出てくるとはな」
藤井が広瀬に言い放つと
「まあ、そろそろちょっかい出すには良い頃合いかなと思って」
不敵な笑みで広瀬も言い返す。
「森口から聞いたぜー、昔の臨時教員巻き込んで派手に喧嘩したんだって?」
「はっ!?」
「あ、森口、俺の親父のファンで俺とメル友。あと、宮前からもその話聞いてる」
以前、実の現担任で、かつての自分達の臨時教員だった寛野と拓也を、不覚にも疑ってしまった藤井の汚点。
(あンのお喋り共めー!!)
つか、
「嫌なネットワークだな、それ!!」
「ま、お前の周りは敵だらけって事だよ♪」
榎木はそれだけの存在だって事だ。
「泣かしたら、俺も許さねぇ」
整った顔で睨まれるのは、結構迫力がある。
「もう泣かしてねぇよ」
絶対、泣かさない。
「覚えてろよ」
「お前こそ」
目が笑っていない笑顔を互いに交わしているところへ、拓也が戻って来た。
「お待たせーって…何か二人ピリピリしてない?」
「別にー」
「何でもねぇよ」
ふーん…?と席に座る拓也に広瀬が声を掛ける。
「あ、今度、親父が榎木と実に会いたいって。時間取れる?」
「ホント?僕たちならいつでも!お父さん元気?あ、"先生"って言わなくちゃね」
「そんなの気にすんな」
またも盛り上がる二人を見て溜息を吐く藤井に
「んじゃ、今度の週末、榎木借りるわ」
と不敵に笑う広瀬だった。
☆――――――――☆
拍手有難うございます!毎度お馴染み綾見です。
今回の拍手お礼は、リクエスト「拓也争奪戦シリーズ」広瀬君ver.でした。
落ちてない!落ちがないよ綾見!!
拓也に対して宮前君は友愛だけど、広瀬君は少し恋愛?
どちらにしても「拓也独り占めする藤井許すまじ」って事でv
有難うございました!
-2013.07.04 UP-
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