お兄ちゃんと僕③

「面白かったねー」
今話題の長編ファンタジー。
3時間近くのロードショー。
面白かったけど、狭いシートに3時間はやっぱり窮屈で、ぐーっと伸びをする。

「実、どのくらいお腹空いてる?」
兄ちゃんが腕時計を見ながら尋ねて来た。
お昼を跨いでの上映だったから、ランチというには少々遅い時間。
「めちゃくちゃ減ってる」
座ってただけなのにね。
「流石食べ盛りの成長期」
ぷっと吹き出して、
「じゃあ、ショッピングモールの食べ放題でどう?」
片目を瞑って提案する兄ちゃんに「異議なし」と答える。

席に案内されて、食べ放題にドリンクバーを付けてオーダー。
「あ、ちょっと待って」
財布から学生証を出して「高校生だから学割お願いします」と提示。

「ぷっ」
「…何…?」
「がっ学割…懐かしい…」
ククッと笑いを堪えてる兄ちゃん。
何か知らんがツボに入ったらしい。
「変な兄ちゃーん…僕取って来るからねー」
高校生に学割は付き物!
特権は利用して沢山食すべし!

盛り盛りに盛った料理を眺めながら
「はー、僕が高校生の頃そんなに食べてたっけ?」
と兄ちゃんが呟く。
「えー覚えてないけど、でもパパは僕の方が食べてるって最近言うね」
「身長、また伸びたろ?」
「うん」
ケロッと返事。

「悔しいなぁ、もう。どうして僕はパパに似なかったんだろ…」
「でも兄ちゃんも低い訳じゃないじゃん。平均よりはあるし」
「弟に抜かれるってのが悔しいの!」
控え目に盛られたパスタを突きながら、兄ちゃんがムクれる。
大人なのに、こういう子供っぽいところも相変わらずで好きだ。

「顔もママ似なんだよね、性格だって、パパとは違うからママなんだよね、きっと」
ママの事は写真でしか知らない。
でも、兄ちゃんのこのクリッとした目は写真のママによく似ていると思う。

「実とパパは性格ソックリだよね」
楽観的過ぎて、時々胃が痛くなるのは僕がA型のせい?
「B型からすれば、A型の性格って面倒臭いって思う時ある」
些細な事で悩んでるよね。
「そういう発言が無神経なんだよ…」
呆れ気味に睨み付けられた。
「あー…でも、という事は、やっぱり兄ちゃんのその性格はママなんだ」
「実…」
「パパは今でもママの事大好きだし、だから、パパと同じ性格の僕は、ママソックリな兄ちゃんが大好きなんだよ」
兄弟じゃなかったら、絶対恋してたー藤井の兄ちゃんなんかに渡さないのにー!!

あ、自分でウッカリ藤井の兄ちゃんの事出しちゃった。折角のデートなのに。
自分の発言にイラッとして、ハンバーグにグサッとフォークを刺す。

「ねぇ兄ちゃん」
「ん?」
「僕、もう子供じゃないよ?」
「実?」
「だから、さ」
ママの事、いっぱい教えてよ。
「ずっと、子供の頃から、ママの話避けてたよね?僕が寂しがるし、ママの記憶がない事に傷付くと思って…」
「実…気づいてたんだ…?」
「だって兄ちゃん、そういう性格じゃん」
ヘラっと笑って見せる。
「でも、僕は僕でこういう性格だし、もうママが恋しい年齢は脱したし、兄ちゃんの記憶の中のママでいいからさ」
僕にも、ママの記憶ちょうだい?

「実…」
うん、分かった…

何となく照れ臭くって、二人でへへっと笑いながら、皿の残りを平らげた。
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