ちょっと大人の話②

「ん…」

ふと、目が覚めた。
何がきっかけか分からなかったけど、寝返りを打った先にもう一人の存在がいて、その人の腕が自分の腰周りに回った感触に気付いた為だと悟る。

(え…と、)
今夜は藤井君の部屋で宅飲みして、その流れでそういう流れになって、そのまま寝てしまって…
(今に至る…か)

社会人になってから、藤井は家を出て一人暮らしをしていた。
実家から然程離れていない為、実家暮らしの拓也も気軽に訪れる事が出来、妹弟の一加やマー坊、兄の友也も時々来るようだ。

何だかしっかり目が覚めてしまった為、散らかしたままになっているローテーブルの上を片付けようと、隣で眠る藤井を起こさぬように拓也はそっとベッドを抜け出した。

飲んでる時に着ていた物は、仕事帰りそのままのワイシャツな為、藤井の部屋に置いてある拓也の部屋着をクローゼットから出して身に着ける。

音をなるべく立てないように、空になったビールやチューハイの缶を袋に纏め、つまみの食器をキッチンへ。

水を出そうと水道のレバーを上げたが、音うるさいかな?と思い、部屋の方を覗いて見ると、拓也は先程と変わらない体勢で眠っている恋人を確認する。
基本、ある程度の量の酒を飲んだ藤井は起きない。

(僕の方がお酒強いって知った時、悔しがってたっけ藤井君…)

その時の事を思い出し、拓也はクスリと笑みを零した。
いつも飄々としていて色々と敵わないと思う相手に、数少ない勝てるもの。
―――尤も、藤井も拓也に対して敵わないと思っているが、拓也はそんな事微塵も気付いていない。

食器を洗い終えて、部屋に戻る。

ベッドの淵に頬杖をついて、恋人のその寝顔を観察。

(相変わらず、カッコイイなぁ…)
悔しいくらいに。
自分が童顔な為、藤井のようなキリッとした顔つきに憧れる。

そっと、腕を伸ばし、藤井の唇に人差し指を這わせた。
薄く開いた口元からは、規則正しい寝息が聞こえる。

(………)

小さく、湧き始める欲求。

付き合いの長い二人には、もう慣れた行為。
だからと言って惰性とか適当とかそういうものは一切なく。
いつだって、相手を愛おしく想う。

いつもは、藤井からのアプローチ。
でも、たまには自分にだってリード権があってもいい筈。

スルっと藤井の隣に潜り込み、まずは唇にキス。
額に、目尻に、鼻筋に、頬に。

小さくリップ音を立てながらキスを降らす。
(僕も少し酔ってる…かも…)
こんな寝込みを襲うような事など、いつもの拓也からは考えられない行動。

首筋に顔を埋め、鎖骨付近を歯を立てながら吸い上げる。
いつも、藤井が自分にやるように…。

「ん…っ」

流石に違和感を覚えたのか、藤井は眉を寄せ声をあげた。

「…拓也…?」
目をうっすらと開け、焦点の合わない視線で拓也を見る。
「あ、起きちゃった…?」
へへっと笑いながら拓也は寝呆け眼の藤井と視線を合わせる。
「何して…?」
「痕、付けちゃった」
ココ、と今程拓也は自身が付けた箇所に指を這わせる。
フフッと笑うその表情は、何と言うか妖艶で…

「………っ」
いつもと違う言動の拓也に、意識がはっきりして来ると共に、残っている酒が藤井にクラリと酔いを回す。

「拓也…酔ってる?」
ギュッと拓也の腰に腕を回し、藤井は髪に鼻を埋める。
「かもね」
拓也も肩に腕を回して胸板に頬を寄せる。

「藤井君…」
ねだるように、自分からキスをしてみる。
触れ合った舌を甘く絡めて…。

名残惜しそうに口付けを解けば、二人を伝う銀の糸。
「…酔った拓也は積極的なのな」
トロンとした瞳で、ほら、もう一押し。
「うん…だから…」
もう一度…

返事の代わりに深い口付け。
可愛い恋人の可愛いおねだりを、どうして拒否出来よう…否出来る訳がない。

斯くして、拓也のおねだりは成功したのであった。



      -2013.02.10 UP-
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