ちょっと大人の話①

太一に連れて行かれて、実はお向かいに行った。

「実は相変わらず拓也ラブだなぁ」
藤井君が笑って言う。
「藤井君、そんな実 揶揄って楽しんでるでしょ…?」
「分かる?アイツ、拓也の事になるとムキになって楽しい♪」

…その台詞、高校生の頃、中橋君達や森口君が藤井君に言ってたんだよね。
藤井君は知らないけど。

「でも拓也も拓也で、相変わらずまんざらでもないよな。いい加減ウザくね?」
「うーん…昔からあの調子で纏わり付いてたから、僕にとっては普通だしね」

さて、行こうか、と玄関の引き戸に掛けようとした手を藤井君に取られた。

「今、この家誰もいないのか?」
「………。父さんは休出だから、誰もいないよ」

「二人で会うの久々」
片方の手が、僕の頬を掠める。
「うん」
わざと冷静に振る舞う。

「触れたい」
耳を掠めて髪に触れる。
「嫌だって言ったら?」
駆け引き。

「生殺しだなぁ…」
ふっと困ったような笑顔をされた。
「……僕も」
釣られて、でもちょっとはにかんで笑う。
僕だって頬や髪をそんな風に触れられて、そんな顔されたら…。

前髪を掻き分けて、額に触れるだけのキス。
「少しお邪魔します?」
藤井君からの、最後の意思確認。
「どうぞ」
昔から、そういう事で僕を気遣ってくれるのは変わらない。
誘導はされても、無理強いは絶対しない。
招き入れるのはOKのサイン。


一度履いた靴を脱いで、また家に上がる事になった。




      -2013.01.19 UP-
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