お兄ちゃんと僕②

「実、今日一緒にうちでゲームするって言ってたじゃん」
覚えてるけど。
「疾実君、来た?」
「うん。来たから実迎えに来た」

「でも今取り込み中!」
と兄ちゃんの背中越しに言うと
「実?」
ギクッとした、この声色に条件反射のように羽交い締めしていた腕から力が抜けたその隙に、兄ちゃんがくるりと僕に向き直った。
「約束してるなら、太一や疾実君待たせちゃダメだよねぇ?」
この口調と笑顔の組み合わせは、子供の頃からよーく知ってる。
「早く行きなさい!」
「はいっ!」

笑顔からキッとした表情になり、ビシッと玄関を指差し言う。
この状態の兄ちゃんには絶対勝てない、逆らえない。
僕ら兄弟の一連の流れを見ていた藤井の兄ちゃんが、ククッと笑ってる。
くそぅ。

「じゃ、またね!拓也兄ちゃん、昭広兄ちゃん」
「うん。実の事、お願いね」
「任せてー」
兄ちゃんと太一が笑顔で手を振り合い、僕はズルズルと引きずられてお向かいに連れて行かれた。
二つも年下の太一にお願いされる僕って何なの。



「まーだ、拓也さんと昭広さんの邪魔してるの?」
出されたジュースを飲みながら、疾実君が言う。
「でも結局敵わないんだよな」
コントローラーを振り回しながら、太一がからかう。
「そうなんだよなー」
ゲームの太一からの攻撃をかわしながら、ついつい嘆く。

「でも…やっぱり拓也さんは、昭広さんと一緒にいる時が幸せそうだよね」
疾実君がホッコリ笑った。

「……………」
分かってる。
分かってるからこそ、悔しいンだよ!

「兄ちゃん…今日早く帰って来るかなぁ」
「まだ言ってるし」
「実君のブラコンも、相変わらずなかなかだよね」

放っとけ。
二人の呆れ顔も、もう慣れっこだよ。




「ただいまー」
夜9時過ぎ、兄ちゃんが帰って来た。
「夕飯は食べて来たんだよな?」
「うん。パパ休出お疲れ様。早く帰って来れたの?」
「ああ。夕方前には帰って来たよ」
「コンピュータ関連は日々進歩だから大変だよね」
兄ちゃんとパパが仕事の話をしてる。
大人だなーまだ僕は入れない話だよなーと思う。

「実!」
「ん?」
寂しい…と思いながら、キッチンでコーヒーを入れてると兄ちゃんが声をかけて来た。
「お土産。ドーナツ買って来たから、一緒に食べよう」
ニッコリ笑って、ドーナツ店の箱を見せる。

「兄ちゃん…」
「コーヒー、僕とパパの分、追加ね」
ドーナツの箱と兄ちゃんの笑顔にジーンと感動していると、ウィンク付きでコーヒーのオーダーを承った。
「うん!」

やっぱり兄ちゃん大好き!!

「相変わらず仲良し兄弟で、パパは嬉しいよ」
パパが嬉しそうに言う。
「だって僕、兄ちゃん大好きだもーん」
「僕も実大好きだよ」

リビングの火燵の上に、ドーナツを広げて一家団欒タイム。

明日は、兄ちゃんと遊べるかな?

「あ、明日はねー、久々ゴンちゃんと森口君と藤井君の4人で会うんだー。なかなか休み揃わないから貴重なんだよー楽しみ♪」


人気者の兄ちゃん恨めしい。
明日もバトル勃発の予感。


      -2013.01.18 UP-
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