藤井くんの恋人③

榎木が小人サイズになって早一週間。
お互い大分この生活に慣れて来た。
学校も、特に問題なく通常通り。
榎木は俺のポケットにいながらにしてしっかり授業を聞いていて、俺が家で課題をやっていると、一緒になって問題に向き合っている。
どこまでも真面目だ。


「あ、藤井君ここ間違ってるよ」

数学のノートに書き写した応用問題の解答の脇に手を着いて「ココ」と指摘する。

「引っかけだよね。これ、こっちの公式使うんだよ」

ほほぅ、成る程。
って…。

「お前、しっかり授業聞いてるんだな」

「だって、ちゃんと聞いとかないと、戻った時授業解らないでしょ?」

「まあ、確かに」

榎木に指摘された間違いを正して「これでいいか?」と聞けば「うん、正解」と答える。
つか、普通に授業を聞いてる人間より、ノートも取れない状態の奴のが理解出来てるって…

「情けなー…」

ポツリと零れた。

「え?」
「いや、だから。ホントなら俺が教えてやらなきゃいけないくらいなのにな、と思って!」
「藤井君…ありがとう」
ほわっと笑って見上げてくる。
うん、今日も可愛い。
ついでに言うと、今日はパーカーにプリーツスカートの出で立ちだ。
うん、可愛い。

「僕が授業ついて行けてるのは、藤井君が毎日学校連れてってくれて、ノート取って見せてくれるからだよ」
だから、僕はそれをしっかり自分のものにしなくちゃいけないんだ!

両手をグッと握って気合いを入れる。

「そんなムキにならんでもいいのに」

その様子も可愛くて、ちょい、と軽く榎木の頭を突く。

「俺、ちょっとトイレ行ってくる」
「あ、うん。行ってらっしゃい」

トイレに行ってから気付いた。
やべ、榎木机の上置きっ放し(と言うのも変だが)にしたけど…まあ、このくらいなら大丈夫か。
今家にはお袋しかいないし。

慣れて来た頃の油断程怖い物はない。
そう思うのは、僅か1分後―――。

用を足してる間にインターホンの音が聞こえた。
誰か来たらしい。
だからと言って、特に気にしない。
自分の客とは思っていないから。


廊下を歩く音。
上がって来た、という事はお袋の客か?
手を洗って廊下へ出ると、お袋の声。

「あ、昭広。仁志君来たから、部屋行ってもらったから」
「おぉ、分かっ…」

何だって――――!?

大して広くもない家の中を走って自室へ戻り、ドアを勢いよく開ける。

「………あ」

「藤井君…」

「昭広…?」


仁志にバレました。



「へー…そんな事あるんだなぁ…」

仁志に一部始終を話すと、意外にも冷静な反応だった。
まあ、こういう奴だよな。
後藤だったら騒ぎそうだが。

「で?何で拓也は女の子の恰好してんだ?」
「う…」
榎木が言いたくなさそうに口ごもると
「昭広の趣味か?」
「んなワケあるかよ!」
「人形用の服が女の子用のしかなかったんだよ…」
目線を逸らし、榎木がボソッと言う。

「ふーん、大変だなぁ」
「森口君!!」
榎木の顔がぱぁっと明るい表情になる。
「そう言ってくれたの、森口君だK」
「似合うけど」
「だろ?」

ピシッ。

あ、明るい表情のまま固まった。

「森口君って、そういう人だったね、そういえば」

そしてやさぐれるんだよな。

「可愛いだろ」
「うん、可愛い」
「嬉しくないから!!」


仁志の来訪で、課題は一時中断。
「つか、お前何の用だよ。今日特に約束してなかったよな?」
「あら嫌だ。拓也との時間邪魔したからって冷たいの!ねー?拓也」
「え?」
「な!!」

どーゆー事?とハテナ顔の榎木と、ニヤリ顔の仁志。
よくよく考えてみたら、この3人って珍しいよな。
ここまで揃うと、大体後藤までいるのがデフォだ。
だからと言って、後藤にまでカミングアウトするつもりはないが。

「榎木、深く考えなくていいから。仁志、余計な事言うな」
「上から目線~やな感じぃ、それが人に頼む態度ー?」
「お前なぁ」

そんな言い合いをしていると、クスリと榎木が笑った。

「ゴメン、仲いいなぁって思って」

クスクス笑いながら謝る。
「ホントに藤井君と森口君って仲いいよね。小学校の時から変わってない」

「………」
なんか改めて言われると照れ臭いな。
「拓也ぁ、妬ける?」
またコイツはふざけた事吐かしやがって…。
「そうだね。今は僕の方が一緒にいる時間長いのに、やっぱり森口君には敵わないや」

…………。
ヤバイ。グッとキたぞ。

「拓也はホントに素直で可愛いなぁ」
仁志が榎木の頭をちょんと突いて笑う。

そして
「脈あるんじゃね?」
と耳打ちしてきたが、
「さあ…どうだかな」
とはぐらかした。
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