藤井くんの恋人②

「おい、藤井。榎木休学ってホントか?」
学校へ着くと、俺のすぐ後ろの出席番号でツルみ仲間の布瀬に開口一番に聞かれた。
「情報早い事で…流石生徒会役員」
「いや、担任から聞いてさ。俺らいつも一緒にいるからだろ」
「ん…。まあ、家庭の事情が色々あるみたいで。よく知らねぇけど」
「そっか。早く戻って来るといいな」
「…そうだな」
本当の事は言えない。
だけど、聞いたか?榎木。
級友は、ちゃんとお前の事心配してるぞ。
ちらっと胸ポケットに視線を送る。
榎木は、困ったような笑顔で俺を見上げていた。
そんな榎木を励ますように、ポケットの上を優しくポンポンと叩く。

朝のHRで、榎木の休学が伝えられると、教室内がざわついた。
特に女子。
おぉ、やっぱりモテてたか榎木。
いや、男子もか?
教室半分女子いるのに、男子生徒も癒してたんだな。分かるけど。

「この人気者」
ボソッと呟く。
「な…っ!」
小声で返事が返って来たその顔は少し赤面していて。
この独り占め状態、
(少し…いや大分優越感)
かつてない程の上機嫌で、一限目の教科―世界史―の教科書を開いた。


小人生活初日の学校は、特に問題なく終了した。
さて、買い物だ。
ショッピングモールの玩具売り場へ行く。

「何着くらい欲しい?」
「えーっと…取り敢えずは2~3着?あ、パジャマ代わりになるラフなのは1着欲しいな」
胸ポケットから頭だけぴょこっと出して、一緒に商品を見る。
平日だからか、客もそんなにいないのが救いだ。

しかし本当、色々あるな。
人形なのに、下手したら人間よりも高価でオシャレなんじゃないのか?

「お、制服みたいなのあるぞ」
紺ジャケットに赤と黒のチェック柄のリボンタイと同柄のプリーツスカート、紺のハイソ付き。
「…藤井君…」
「似合いそう、つか似合うだろ」
「やだよ!着ないよ!」
「まあまあ」
「あ、買う気!?」
手にした買い物カゴにひょいと入れる。
「明日からコレ着て登校♪」
「イヤダー!!つか、何でパンツスタイルないんだー」
「需要ないからだろ」
「あ、あれ!そのショートパンツとパーカーの!」
パイル生地っぽい上下セット。
「寝る時、ソレがいい」
「ん。ラクそうだな」

そんなこんなで、4~5着見繕って、レジ…に行く前に人形用の雑貨コーナーなんかも見つけたから、そこでも吟味。
「ベッドとか欲しいか?」
「え?別にいらないよ。昨日作ってくれたのあるし」
「んー…じゃあ…」
食器のセットをカゴに入れる。
「サイズ合ったコップとかは、あった方が食事しやすいだろ?」
「あ、ありがとう!」
「いや、元々はお前の親父さんのお金だし」

着替えと食器。
これで、当面の生活は大丈夫か?
あとは追い追い不便があったら揃えていけばいいか。
精算する為レジへ。
「あ、プレゼント包装で」
「かしこまりました」
これでどっから見ても、親戚か年下の妹へのプレゼントを買う男子高校生だ!

「予防線張ったね」
「るせっ。俺だって恥ずかしいんだよ。つか、プレゼント用にしたって違和感アリアリだろ、俺の場合」
お前だったら、プレゼント用にこういうの買ってても違和感ないだろうな。
…それ、どういう意味?
どんな物を買っても絵になる、優しいお兄ちゃんって意味。
…嬉しくないなぁ、ソレ…。


    To be continued ...


      -2013.03.05 UP-
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