藤井くんの恋人①

夕飯は、榎木の分を部屋に運ぼうとしたが、家族への言い訳等遠慮するから、俺が夜食にと買って置いたパンを渡した。
小さくちぎって頬張る姿は、まるでリスかハムスター。
何この生き物マジ可愛い、もういっそ一生そのままで俺の側いろよと言いたい。


さて、そんな観察日記紛いな事で行間使っていたら話は進まないので…

夜9時半、小学一年の実は大体8時頃布団に入り9時には眠っているというから、もう余裕で大丈夫な筈。

榎木の家に向かい、インターホンを鳴らす。
すると親父さんが出て来て、きょとんとした顔。そりゃまあ、そうだろうな。
「あれ、藤井君?拓也は?」
「その事で話があるんですが…」
「話?」
まあ、上がってと招き入れてくれたので、お邪魔する。
「実は?」
「あぁ、もう寝ているよ。実も必要かい?」
「いえ、寝ていてくれた方がいいです」

リビングに通され、座るように勧めると、親父さんはキッチンの方へ行った。

「どうぞ」
お茶を出され、すみませんと頂く。
「で、話とは?」
「実は…」

シャツの胸ポケットから、榎木を出して、ローテーブルの上に降ろしてやる。

「パパ!」
「……………」

凝視。

俺と同じ反応…当然だよな。

「…夢?」
「だといいんだけど…」

デジャヴか?

「…おやすみ」
「寝ないでぇぇぇぇ!!!!」

おぉ、見事なデジャヴ。


「じゃあ、全く原因も解らなければ、解決策も解らないという訳か」

現実として受け止めて貰って、昼間から今までの事を説明。

「しかし拓也…」
「パパ…」
親父さんは不安そうな息子の表情をまじまじと見て。

「お前、その恰好似合うな」
「うわぁぁぁぁぁん!!!!」
B型なんて嫌いだぁぁぁぁ!!

と榎木は捨て台詞を吐いて走り…去ったところで、俺らの視界から外れる距離までは移動出来ず。
テーブルの隅っこで体育座りになり「いつも悩んで苦労するのはA型の僕なんだ…この前だってパパも実も…藤井君だって…」とブツブツ言い出した。

「まあまあ、さて、これからどうするかだ」

現実問題、それだ。
学校もあるし、実もいつまでもごまかせられない。
あれこれと三人で意見を出し合い、これからの事を考える。


―――で、決まった事。
学校には、当面の休学届けを出す。
実には、母親の叔母に当たる親戚の家に用事があって、暫くあちらで暮らすという事にする。
(ほぼ全く交流はないから、相手方にもバレる心配はないらしい)
時々(二日に1回…は "時々"じゃないと思うが)実とケータイで話す(そうする事で、より信じこませられて、何より実の精神衛生上も安定する)
榎木自身は、俺ン家で過ごす(勿論家族には内密で)、という事で。
その方が、学校にも行く事も出来るしな。

「じゃあ、藤井君、迷惑かけるがよろしく頼むよ」
「任せて下さい」
「あと、これ…」
差し出されたのはお金の入った封筒。
「いえ、これはいりませんよ」
押し返そうとするが、
「いや、お世話になるんだし…あと着替えも。それ一着って訳もいかんだろ、人形用の服って結構するから」
「あ…」
「それで、拓也の着替えも買ってやってくれ」
「パパ…」
「ミカちゃん人形の服は可愛いからなぁ♪」
え?何でそんな事知ってるかって?
この前、部下の娘さんのプレゼント選び付き合わされて、玩具屋で見て来たばっかなんだよ。

「男の子の服は殆どなかったゾ」
「パパ…」
「任せて下さい」
さっきと同じ字面だが、それぞれのニュアンスの違いが出せるかどうかは、読み手さん次第だ!


そんなこんなで、俺と榎木の奇妙な生活が始まった。


    To be continued ...


      -2013.03.03 UP-
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