藤井くんの恋人①

何がどうなって、こうなった?


昼休み、今日も榎木と二人で屋上で弁当を食べた後、残りの時間は昼寝でもしようと並んで転がっていた。

暫くして、耳元で「藤井君、藤井君」と呼ばれて目を覚まし上体を起こすが、榎木の姿が見当たらない。
でも確かに聞こえる、声。

「ここだよ!」

地面に着いてる手の甲に感触があり見ると、

「……………」

凝視。

「藤井君…」

「夢…?」
「だといいんだけど…」

困った顔の榎木がいる。
その榎木は、何故か小人サイズ。

「…おやすみ」
「寝ないでぇぇぇ!!!!」

どうやら、現実、らしい。


「僕も何が何だか分からないんだけど…」
起きたら小さくなってたんだ、と言う榎木は、制服のカッターシャツに埋もれるように身体を隠していた。
「ブレザーの上着にハンカチ入ってるから、出して貰える?」
取り出してやると、ハンカチを身体に巻き付けて、ぴょこんと俺の掌に乗る。
おぉ…可愛い。

「原因も分からないし、どうしよう…」
掌の上で悩んでる榎木を膝の上に移動させて、榎木の制服を取り敢えず畳む。

「原因が分からないからなぁ…」
俺も考えを巡らせてみるが…分かる筈がない。

「取り敢えず、そろそろ予鈴鳴るし、教室戻るか?」
「え!?」
でも、もし途中で戻ったらどうするの!?
「…それはそれで悪夢だ…」
クラス全員の前で全裸とか…

「早退だ早退!」
「あぁ、でもサボるのは…!!」
「クラス全員の前で全r」
「帰ろう藤井君!!」

教室に戻ってこっそり帰り支度。
クラスメイトの布瀬に「榎木体調悪いから早退、俺送ってく」と伝え、「お前のはサボりだろ」と言われながら、二人分の荷物を持って学校をあとにした。

せめて家に着くまでは元に戻るなと祈りながら電車に乗るが、まあ、そんな簡単に戻る訳もなく、無事?帰宅。
まだ小学生組も学校の時間、家には誰もいなかった。

ブレザーの胸ポケットに入っていた榎木を出してやる。

「大丈夫か?」
「うん、何とか…」

榎木は笑顔で答えてるが、大丈夫じゃないだろう。

「わわっ」
巻いてるハンカチが解けかけて慌てて巻き直す。
「服になるようなもの…あ」
「藤井君…?」
「確か…ちょっと待ってろ」
部屋を出て、隣の女子部屋へ。
確か一加の人形のが…。
「あった」
目的の物を見つけて部屋へ戻ると、それを榎木に手渡した。


「藤井君…」


ブルーのパフスリーブのワンピースに、フリルの白いエプロン。
白のニーハイソックスに、ベルトをサイドで留める黒のフラットシューズ。
オマケに頭には純白のリボンのヘアバン。
所謂、アリススタイル。

「似合う!」
「嬉しくないよ!!」

真っ赤になって抗議してるが、

「ハンカチ巻いてるよりは安定するだろ?」
「うぅぅ…」

観念して着て貰うしかあるまい。


さて、これからどうするか。

お茶…と思い、親父の酌のおちょこにコーヒーを淹れて出してやる。
それでも榎木には大きくて、大きな盃のようになっていた。

「父さんには伝えなくちゃ…でも実には、知られない方がいいよね…」
「驚くだろうし、大騒ぎになるだろうからな…」

取り敢えず、建前は俺ン家で一緒に勉強をして、夕飯も食べて、実が就寝した頃合いを見計らって帰る、という事に。

その旨を親父さんにメールして(勿論榎木のケータイで)、了解の返信が来た。

「ふー…」
一先ずの事が決まると、榎木は大きな溜め息を吐いた。
そりゃそうだよな、突然こんなワケわからん状態になって不安じゃないワケがない。
「榎木」
そっと掬い上げて、掌に乗せてやる。
人差し指でちょんと頭に触れて。
「俺がついてるから」
少しでも安心出来るように。
すると、榎木は少し笑顔になって
「ありがとう」
と言った。
その後「迷惑かけて…」と続いた唇に、そっと人差し指で触れて阻止する。
「ごめんは、いらない」
そう言うと、今度は目尻に涙を浮かべて満面の笑顔をくれた。

うん、榎木は笑顔が一番だ。
(オマケに今はアリスな恰好だしな!)
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