お兄ちゃんと僕③

その後、時々ママの思い出話を聞く事になるんだけど、聞けば聞く程、兄ちゃんじゃんと思ってしまう。

兄ちゃんは気付いてないみたいだけど、兄ちゃんから聞くママの行動やエピソードは、兄ちゃんのそれにソックリで。


「ねぇ、パパ」
夕食の後片付け。
パパが洗った皿を僕が隣で流す。
兄ちゃんは今日は残業で、まだ帰っていない。
「何だ?」
「もしかして、兄ちゃんって、性格や行動ママそっくり?」
「あー…」
暫くの沈黙の後、
「年々生き写しのようになってるな」
時々由加子さんがいるかと思う時あるよ。

「そうなんだ…」
じゃあ、僕は、ちゃんとママが育ててくれたのと一緒だね。

驚いた顔をしてパパが僕を見る。
「僕の兄ちゃんが榎木拓也で、よかった!」
ニッと笑って、パパを見る。
「あ、勿論、パパもだけど」
「ついでみたいに言うなよ…」
コツンと頭を軽く小突かれた。
その部分に手を当ててへへっと笑う。
「でも、拓也がしっかり実の面倒を見てたのは、そういう事なのかもしれないな…」
「うん!」

だからきっと、僕も兄ちゃんの事が誰よりも大好きで大切なんだ。


「大人になったな、実も」

「ん?何か言った?」
皿洗いが終わって、部屋に戻ろうとした時、パパが何か言ったけど聞こえなくて聞き返す。

「いーや、何でもないよ」
「?ふーん?」
「宿題やれよ」
「今からやるよ、じゃあね」
2階に上がって自室に戻る。

パパが一人晩酌しながら、ママの写真を眺めているのを知るのは、トイレに下りた一時間後。
それは幸せそうな表情で、この家の平和はママの存在も大きいなと思った。


姿はなくても、確かにある存在。
記憶はなくても、確かにある慕情。

ママ、僕は幸せです。
僕をこの家に生んでくれてありがとう―――。


-2013.02.19 UP-
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