お兄ちゃんと僕①

今日は土曜日、学校は休み!
今日は兄ちゃん、家にいるのかなぁ?

コンコン。
兄ちゃんの部屋をノックする。
「………」
反応なし。
時計は午前8時過ぎ。
まだ寝てる?

「兄ーちゃん♪」
反応なくても入っちゃうもんね。
そーっとドアを開けて部屋を覗くと、当然まだカーテンは開いてなくて薄暗い。ベッドに視線を移すと、シーツに包まってすやすやと眠る兄ちゃんがいた。
最近、仕事が忙しいみたいで、昨夜も帰り遅かったもんなぁ。

「兄ちゃーん、まだ寝てるのー?」
「んんー…実…?今何時?」

目は瞑ったまま、寝返りを打つ。
時間を聞く割にますます布団に潜り込む辺り、まだ起きる気はないらしい。

「8時過ぎたよー。兄ちゃん、平日はしっかり起きるのに休日はダメダメだね」
揶揄うように言うと
「今日休みだから、昨日その分仕事片付けて来たから、遅かったし疲れてるし…」

そんなに疲れてるなら…

「今日、藤井の兄ちゃんは?」

出掛けないで家にいるのかも♪

「午後から...約束してる...」

会うんかい!!

「実煩い…も少し寝かせて…」

もそもそ布団の中で身動ぎしながら、二度寝を決め込む兄を睨み。

「僕も寝る!」

と、ベッドに潜り込む。

「狭い~」
「いいの!」

シングルベッドに大人の男性と育ち盛りの高一男子が同衾したらそりゃ狭い。だから背中からギュッと兄ちゃんを抱え込んだ。
「あったかい」
「ハイハイ。何でもいいから、おやすみ」

高校に入ってから僕は兄ちゃんの背を追い抜いた。
兄ちゃんも決して背が低いわけではない。
平均より少し高いくらい。
僕の背はパパに似たみたい。
昔は抱き抱えられる立場だったけど、今は僕の方が兄ちゃんを包み込めるから、その点は感謝。

周りはブラコンって言うけど、そんなの気にしない!
だって兄ちゃんは子供の頃から、ママの温もりを知らない僕を、愛情いっぱいに育ててくれたんだから。
勿論パパもだけど。

今更抵抗される事もなくギュッとしたままでいると、やがて規則正しい寝息が聞こえて来た。

「そんなに疲れてるんなら、約束しなきゃいいのに…」

ボソッとつぶやくと

「ん…」
寝言…?

「藤井君…」

!!
寝ても覚めても、藤井の兄ちゃんかよ!!

その時、ポケットに入れてたケータイのメール着信のアラームが鳴った。見ると、

藤井一加 の文字。

『実ちゃん、おはよー』

「…………」
このたった一言に、何行にも渡ってのデコレーション。

『一加ちゃんの兄貴、何とかしろ』

送信すると、すぐさま返信が来た。

『無理ね。昭広兄ちゃんと拓也お兄様の愛は何があっても揺るがないわ!』


僕の味方は誰もいない…。
取り敢えず、今の兄ちゃんのこの眠りは護ろうと、こちらを向いてる背中をもう一度ギュッと抱き直した。


      -2013.01.17 UP-
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