例えば、こんな移動教室

一度覚えてしまったら、それは魅惑的な物。
目の前に愛しいアイツがいたら、尚の事。


次の授業は生物学。
特別教室棟の生物室にいつもの6人で移動する。

特別棟の一番西側の1・2階は、理科系の特別教室が位置していて1階に西から化学室・生物室、2階のその真上に物理室・地学室がある。
放課後は天文部や生物部等の生徒が出入りするが、日中はその授業がない限り人通りは少ない。

本館と特別棟を結ぶ渡り廊下を渡ると、もう同じクラスの連中しかいない。
それでも一クラス30人はいるわけだけど。

いつもは、そんな事考えないのに、今日はたまたま、何となく。

たまたま2人ずつ並んで、たまたま一番後ろを榎木と歩いていたから。

無言で榎木の腕を引っ張って、通りかかった階段の陰へ。

「!?ふじ―――…」

そっと唇を塞ぐ。

「!?」
びっくりして、胸をドンドン叩かれる。
そりゃそうだろうな。
片手で榎木の両手首を纏めて動きを封じる。

「―――で、あれ?アイツらは?」

生徒が移動している喧騒の中、中橋の声が遠くから聞こえた。
瞬間、榎木がビクついたのが分かる。
その隙に舌を差し入れ絡める。

「…ふっ、やっ」

榎木の息が上がったところで、解放。

「なっ何…」
ハァハァと呼吸を荒らしながらも、抗議しようとする言葉を遮るように
「ごちそうさま」
ニコッと笑って見せると
「――――っ!!」
ただでさえ赤く火照った顔が更に赤くなって

「藤井君のばかっ!!」
と言って走り去る。
そして、一番近くのトイレに入って行った。

続いてトイレの入り口を覗くと、顔の火照りを何とか鎮めようとしてるのだろう、顔を洗っていた。

「榎木」
トイレの入口に立って声をかけると
「藤井君…」
と怒った顔で睨まれた。

「どういうつもり――…」
「無駄だから」
「は?」

「普通にしてても可愛い。怒った顔も可愛い。だから、どんなに榎木が怒っても、キスしたくなる」
「……………っ」

榎木は真っ赤になりながらも、諦めたようにため息を吐くと、

「でも学校じゃダメ。これだけは約束して」
まあ、嫌われたくはないからな。
「了解」
でも、
「昼休みと放課後は除外。これだけは譲らない」

「藤井くっ」
「また塞ぐけど?」
バッと自分の両手で口を覆って

「藤井君のキス魔っ!」
「何とでも」

キッと潤んだ目で睨み付ける榎木に向かって、ニッと笑って腕時計を見せる。
「ホラ、早く行かないと授業始まる」
「あっ!!」

急いで生物室に駆け込む授業開始1分前。





      -2013.01.15 UP-
☆――――――――☆
「学校でキスする7題」より
"騒がしい廊下で"

お題提供:確かに恋だった
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