我が儘に願掛けて

口実を作った。
一緒にいたいが為に。
(ごめん藤井君…)


帰りのHRが終わって廊下に出ると、先に終わった藤井君が僕のクラスの前で待っていてくれた。


「どこでやる?」
さっき理科の過去問を一緒に見てもらう約束をした。
「僕ん家でもいいよ」
「実は?」
「受験が終わるまで、残業じゃない限り父さんが迎えに行く事になってる」
「そっか」

実も今年で卒園。
昔程、迎えは僕じゃなきゃ嫌だと言わなくなった。
それは寂しい気もするけど、小学5年生の時に藤井君が言ってくれた言葉が、今でも僕を支えて前を向かせてくれる。
「えへへ、ありがとう」
「?何が?」
「ううん、何でもない」
あの時の事、藤井君は覚えてるかな…?


2階の自室に、小さな折り畳み机を出して、過去問集や参考書を広げる。

「これなんだけど…」
「あー、これは…」
数学や古文なんかで、僕が教える方が多いから、藤井君に教えて貰うのは何か新鮮。

「―――で、こうなる」
「あー、なるほど!そういう事かぁ…」
「そんな難しかったか?」
「うーん、化学式はどうも好きになれなくて…でも今ので解った。ありがとう」
「他には?俺も教えて貰いたいトコあるんだけど」
「え?どれ?」
「数学の…」
折角だから、お互い不安なところを教え合いしようと提案。
「そうだな」
笑って受け入れてくれる。
あぁ、また自分勝手な事言っちゃった…。
まだ一緒にいたくて…。


「どうも、お邪魔しました。夕飯までご馳走になっちゃって…」
「いや。うちは構わないよ。勉強ははかどったか?」
「うん」
夕飯まで誘い(誘ったのはパパだけど)、その後も少し受験勉強をして長々と引き止めてしまった。
「大分遅くなったから、気をつけて」
「はい。ありがとうございます」

結局、夜9時頃まで一緒に勉強をした。

「パ…父さん、藤井君送りがてら気分転換に外の空気吸ってくる」
「ああ、行ってらっしゃい」
「じゃあ、おやすみなさい」

藤井君と一緒に外へ出る。
空を見上げると、星がたくさん瞬いていた。

「今日はありがとう。ごめんね、遅くまで引き止めちゃって」
「いや、俺こそ…」
藤井君が何か言いたそうな感じで僕の方を見ているけど、なかなか先が出てこない。
「藤井君の勉強時間奪っちゃったね…」
「それを言うなら、俺の方」
「え…?」
「さて、帰ったら、榎木から教わったところ復習しなきゃな」
「僕も、化学式完璧にする!」

まずは、同じ高校に受からなきゃ、卒業したら会えなくなる。
そんなのは嫌だから…。

程良い中間地点で別れを告げる。
「また、明日」
「うん、また明日」
何となく、離れがたくて沈黙すること数秒。藤井君が口を開いた。
「俺…」
「え?」
「榎木と4月からも"また明日"って言いたいな」
「!ぼ、僕も!」

「一緒に合格するといいな!」
ニッと笑ってVサイン。
「うん!」
僕も笑ってVサイン返し。

今は、一生懸命勉強しよう。
今日はいっぱい我が儘聞いてもらったから…。

今度こそ、手を振って別れた。
空を見上げれば冬の星座。
「冬の大三角形…シリウス・プロキオン・ペテルギウス…」
三角形の中を縦断する天の川。

星空に向かって、さっき交わしたVサイン。
(どうか…)
どうか、一緒に合格しますように…。

「よし!頑張ろう!」
受験まであと少し。
気合いを入れて、勢いよく家に向かって駆け出した。





      -2013.01.10 UP-
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